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『インデペンデンス・デイ』監督、マーベル&DC&スター・ウォーズが「業界を破壊した」と批判 ─ 背景に風潮への危機感、過去発言は現状を予見

ローランド・エメリッヒ
Photo by Dick Thomas Johnson https://www.flickr.com/photos/31029865@N06/28502013341/ Remixed by THE RIVER

『インデペンデンス・デイ』シリーズや『ミッドウェイ』(2019)で知られる映画監督ローランド・エメリッヒが、コミック映画や『スター・ウォーズ』を厳しく批判した。自身は「まったく関心がない」と言うエメリッヒだが、どうやら批判の本質は作品の好き嫌いではなく、また違うところにあるようで……。

監督の最新作『Moonfall(原題)』は、あと数週間で月が地球に激突するという危機的状況の中、陰謀論者と宇宙飛行士たちが人類を救うため、命がけのミッションに臨むというディザスター映画。エメリッヒ監督にとっては得意中の得意といえるジャンルだが、近年の映画業界でディザスター映画はどう変化してきたのか? 米Den of Geekの取材にて、監督は“巨大フランチャイズが業界にもたらす悪影響”を指摘している。

「(ディザスター映画の変化は)あります。マーベルやDCコミックス、それから『スター・ウォーズ』にずいぶん乗っ取られてしまった。ある部分で我々の業界は破壊されたんですよ。もう誰もオリジナルの作品を作らないんだから。」

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以前からエメリッヒはマーベル&DC映画に批判的であり、2016年には英The Guardianにて「多くのマーベル映画では、おかしなスーツを着た人たちが走り回っている。私はマントを着てる人が好きじゃないし、人がスーパーヒーロー・スーツを着て飛ぶなんてバカげてると思う。理解できない」と発言。2019年には米Insiderにて「マーベル映画を観ていると眠たくなってくる。だから飛行機の中で寝落ちするために観る」とさえ言っている。

批判の言葉にはトゲがあるものの、エメリッヒの主張は2016年から一貫している。当時、監督は「(映画業界でも)ほかの業界と同じようなことが起きている。たとえばファッション業界なら、小さなブティックはもうほんの少ししかなくて、あとはGapのような巨大フランチャイズばかり。すべてのブランドはフランチャイズになるか、さもなくば生き残れなくなる」と述べていた。その分析は、配信サービスの台頭や、コロナ禍の影響から回復していない業界の現状を予見していたようにも思われるのだ。

「現状はいずれ壊れるでしょう。60年代にスタジオ映画が次々失敗し、『イージー・ライダー』(1969)のような小規模映画が年間最大のヒット作になった、そういうことがまた起こるかもしれない。ただし私は疑っています。別の娯楽メディアはどうなるのかと思うからです。VRは大きく成長するだろうし、ゲーム業界はすでに若い男性を取り込んでいる。映画業界は超大作映画か、あるいはオスカー向けの良い映画がいくつかあるだけになってしまうでしょうね。」

すなわち、エメリッヒは業界のシステムに危機感を抱いできたがゆえに、その代表格であるマーベルやDC、そして『スター・ウォーズ』を今回も批判対象としているのだ。スーパーヒーロー映画がその代表であることは、コロナ禍でさまざまな作品が苦境にあえぐ中、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』だけが圧倒的な大ヒットを記録したことからも明白だろう。

ちなみにエメリッヒは、過去にそうした批判を自分自身にも向けており、スタジオの思惑が強い“続編映画”だった『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』(2016)について「私は1作目のような映画を作りたかったが、製作中にウィル(・スミス)が抜けた。もっと良い脚本はあったんだから、その時点で製作をやめるべきだった」と後悔を隠していない。「自分が批判していたような“続編映画”を作る仕事なんて断るべきだったのだ」と。

今回、エメリッヒは批判の言葉とあわせて「私たちは大胆な新作映画を作るべきだ」と力説している。「クリストファー・ノーランはその達人で、自分が作りたいものを作ることができる。彼ほどではないけれど、私自身もまだ──特にディザスター映画やそういうテーマを描くときは──そういう力を持っている」。舌鋒は鋭いが、その言葉にはたしかに映画や業界への思い入れが見て取れるだろう。

2016年、エメリッヒは「私はオリジナルのアイデアを信じています。映画監督になりたい子どもたちには、必ず“自分のやりたいことをやりなさい。何にも説き伏せられないように”と言っている」とも語っていた。この言葉は、そのエメリッヒをもって「もう誰もオリジナルの作品を作らない」とまで言わしめた業界の現状を思えばこそ、なお切実に響くものではないか。

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Source: Den of Geek, The Guardian, Insider, Yahoo!

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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