Menu
(0)

Search

【インタビュー】『ビール・ストリートの恋人たち』でバリー・ジェンキンスが外在化した「移ろう意識」とは ─ オスカー監督が見据えるもの

『ビール・ストリートの恋人たち』バリー・ジェンキンス監督
© Yoshiyuki Uchibori

ムーンライト』(2016)でアカデミー賞作品賞・助演男優賞・脚色賞の3部門を獲得、今最も注目すべき映画監督の1人であるバリー・ジェンキンスの最新作ビール・ストリートの恋人たちが、2019年2月22日(金)より日本公開となった。

THE RIVERでは、この作品のため来日していたバリー・ジェンキンス監督へインタビュー取材を敢行。第91回アカデミー賞では助演女優賞(レジーナ・キング)・作曲賞・脚色賞にノミネートされた本作に込めた思いやエピソード、映画に対する考えをじっくり訊いた。アカデミー賞発表直前、貴重なインタビューだ。

『ビール・ストリートの恋人たち』バリー・ジェンキンス監督
© Yoshiyuki Uchibori

19歳の少女の視点で描く『ビール・ストリートの恋人たち』

── 本作は、1970年代のニューヨークを舞台に、人種差別によって引き裂かれる若い男女の悲哀を描いています。例えば1967年のデトロイト暴動を描いたキャサリン・ビグロー監督『デトロイト』(2017)のように、本作も人種差別の理不尽さを訴えるものでしょうか。

その通りではありますが、本作ではちょっと異なるアプローチを取っています。同じ問題でも、物語の伝え方は様々。本作では、19歳の少女の視点から理不尽な現実を描いています。彼女は、その純真さをもって、理不尽さに立ち向かっていく。だから、(人種差別の)理不尽さを取り扱ってはいますが、この作品の本質はそこだけではありません。

── 原題は『ビール・ストリートに口あらば(If Beale Street Could Talk)』ですが、日本でのタイトルは『ビール・ストリートの恋人たち』と言います。よりラブストーリーのような印象を受けます。

この邦題は素敵だと思います。純粋無垢な愛が、社会環境によってどのように壊されていくかを描いているのですから。(人種差別の)理不尽さを描くことは重要でしたが、もっと重要なのは主人公たちの人間性を描くことでした。

ビール・ストリートの恋人たち
(c)2018 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.

── ジェイムズ・ボールドウィンによる有名な原作小説を映画化するというのは、どのようなプロセスがあるのでしょうか。

音や映像というものは、とても表面的な感覚によるものだと思うんです。つまり、例えば光を見た時、自分の身体の外側にある”何か”を感じ取っているわけですよね。ところが読書をしたときに得られる感覚は、すべて内なるものです。本に書いてあることは文字だけなのに、映像や音や匂いが頭の中で生まれるのですから。ジェイムズ・ボールドウィンは非常に豊かな文章表現で登場人物の内側の部分を描いていますから、私はその内省的な部分を、音と映像の形で外在化させる必要がありました。

先程の理不尽さのご質問にも戻りますが、19歳の少女が夢や思い出にしがみつく様子や、彼女にとって悪夢のような出来事を描くだけが全てじゃないと思いました。そう気付いてからは、本のページからスクリーンへ、自ずと築き上がっていきましたね。

移ろう意識を外在化する

── シリアスなストーリーの反面、本作には美しい感触がありました。

『デトロイト』が話題に挙がりましたように、黒人差別はこれまでも映画やドラマで、辛いトラウマや酷い出来事として度々取り扱われています。本作においても重要なテーマでしたし、そのトラウマがもたらす被害を確実に捉えたかった。しかし、それによって観客に憂鬱や苦痛を感じてほしいというわけではありません。家族や、愛、出生の物語を通じて、喪失の悲劇を理解してほしいのです。多くのものが不当に失われてしまいました。

こうした悲劇を、初めての恋を知った19歳の少女の視点を通じて描いています。愛する誰かが、自分のことを美しいと思ってくれる。そういう相手はいるものなのだと、初めて知った19歳の少女の視点です。

『ビール・ストリートの恋人たち』
(c)2018 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

Ranking

Daily

Weekly

Monthly