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【インタビュー】『ビール・ストリートの恋人たち』でバリー・ジェンキンスが外在化した「移ろう意識」とは ─ オスカー監督が見据えるもの

『ビール・ストリートの恋人たち』バリー・ジェンキンス監督
© Yoshiyuki Uchibori

── 確かに、人種差別による苦痛も描かれれば、愛や喜びといった要素も描かれていました。様々な要素を取り入れるのは難しかったですか?

原作小説がもともと素晴らしいので、そういった苦労はありませんでした。何ひとつ作り変える必要もありませんでしたね。私の役目は、原作小説の要素を解きほぐして、バランスを取ることでした。様々な要素があるとおっしゃいましたが、自然と散りばめられていたので(映像化は)難しくはありませんでした。

── 監督の前作『ムーンライト』でも感じたのですが、あなたの作品は詩的な印象があるような気がします。

詩的な印象は意図したものではありません。本作のストーリーへのアプローチは、三幕構成の形式を取っていません。主人公がどう感じるかを意識的に描いています。

彼女はいたるところで、様々な考えを巡らせています。その思考とはAからB、CからDへと進むものでもありません。たとえば、ある時は食べ物のことを考えていて、次の瞬間には恋愛を、また次の瞬間には仕事のことを考えることもあるでしょう。本作は、主人公のそうした思考や感情のプロセスに基づいているので、それが詩的に感じられるのかもしれませんね。詩的な感覚は意図しておらず、登場人物の意識を描こうと努めています。思うに、自由な意識とは詩的なものなのでしょう。

『ビール・ストリートの恋人たち』バリー・ジェンキンス監督
© Yoshiyuki Uchibori

物語を彩るキャスティング秘話

── ポップ・カルチャーのファンとしては、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)のディエゴ・ルナや、「ゲーム・オブ・スローンズ」(2011-)『キングスマン:ゴールデン・サークル』(2017)のペドロ・パスカルの登場も見逃せません。

(ディエゴ・ルナについて)『スター・ウォーズ』に出ていたから、という考えは捨てて、単純に役に最適な人物について考えました。もともとディエゴ・ルナは『天国の口、終りの楽園。』(2001)の頃から大好きでした。ちょっとした役なので、受けてもらえないだろうなと思いました。それがね、オスカーを取ると変わってくるものですね(笑)。彼はとても優しくて、「是非出演させてください」と快諾してもらえました。

ビール・ストリートの恋人たち
(c)2018 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.

ディエゴは素晴らしい方です。実は、彼とティッシュのとても素敵なシーンを撮影したのに、本編には入れられなかったんです。彼に謝りたかったのですが、電話番号が分からなかった。本作のプレミアに出席してくれたので、そこで話しました。「言わなくちゃいけないことがあって、頑張ったんだけど、あのシーンはカットになっちゃったんだ」と。すると彼は「ぜんぜん、気にしないでくださいよ。本編で使ってもらえたかなんて気にしません。とにかくあなたとご一緒できて、本作に参加できただけでも光栄です」って。『スター・ウォーズ』って素晴らしいね(笑)。

ビール・ストリートの恋人たち
(c)2018 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.

それから、ペドロ・パスカルはジェイムズ・ボールドウィンの熱狂的なファンで、『イコライザー2』の撮影中にもかかわらず、本作参加のために飛行機で1日だけ駆けつけてくれたんです。(監督の)私が凄いのではなく、ジェイムズ・ボールドウィンがそれだけ凄いということですよ。

── 一方で主人公のティッシュを演じたキキ・レインは新人女優でしたね。

はい。ティッシュ役には新人女優と決めていました。新人を起用することで、ティッシュというキャラクターを初めて見るという没入感を演出したかったからです。

『ビール・ストリートの恋人たち』
(c)2018 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.

── 『ムーンライト』のように、本作にも監督の個人的な経験を反映していますか?

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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