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【インタビュー】『イン・ザ・ハイツ』コーリー・ホーキンズが学んだミュージカルの本質 ─ 全力投球の挑戦、「この作品を離れるのが本当につらかった」

イン・ザ・ハイツ
© 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

『ハミルトン』リン=マニュエル・ミランダによる傑作ブロードウェイ・ミュージカルの映画版『イン・ザ・ハイツ』が、2021年7月30日(金)より全国公開となる。THE RIVERでは、主要キャストであるアンソニー・ラモス、コーリー・ホーキンズ、メリッサ・バレラのほか、ジョン・M・チュウ監督への取材を実施し、貴重なコメントの数々を入手した。

今回は、主人公の友人であるベニー役を演じたコーリー・ホーキンズのインタビューをお届けする。『ストレイト・アウタ・コンプトン』(2015)や『キングコング:髑髏島の巨神』(2017)『ブラック・クランズマン』(2018)『6アンダーグラウンド』(2019)と、本作キャストの中では大作経験も豊富な気鋭俳優だ。

「自分の居場所は、どこであってもホームになる」

──『イン・ザ・ハイツ』に出演することが決まった時、どう思いましたか?

どんな役でも最初に思うことですが、宝くじに当たったようでしたね。とてもラッキーだと思ったし、とても怖かった(笑)。役を必死で求めるんだけど、いざ自分が選ばれると、今度は、ちょっとインポスター症候群(※注)のような気分になります。本当に出来るんだろうか、本当に自分がふさわしいのかって。

だけど、(出演が決まった時は)とても興奮しました。チャレンジに向けて意気込んでいたし、歌ったり踊ったりすることに挑戦する準備も出来ていましたから。自分の能力をすべてかき集めて、リン(=マニュエル・ミランダ)とジョン(・M・チュウ監督)、キアラ(・アレグリア・ヒュデス:脚本)、そして最高のキャストと一緒に冒険に出たわけです。そのことをすごくラッキーだと思いました。

(※注)インポスター症候群とは、自分が何かを達成しても、自分にそんな能力はない、成功には値しないと過小評価してしまうこと。

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──あなたが演じるキャラクター、ベニーの魅力を教えてください。

ベニーはワシントンハイツ出身ではなく、実家を離れてから大学に行かず、この街に来たんだと思います。才気のある賢い男だから、大学に行けなかったんだとは思いませんけどね。ベニーはワシントンハイツのことも、自分の生活も、仲間のことも大好き。陽気で楽しいヤツだから、そのエネルギーが周囲に伝わります。彼の夢は小さくはなく、だけど具体的で、タクシーの配車の仕事を経営すること。毎朝マイクでドライバーと話すのが好きで、それが彼の達成なんですよ。そういう役柄を演じるのは大好きですね。

誰もが別々の道に進もうとしている中で、ベニーは「自分の居場所はどこであってもホームになる」ということを思い出させようとしています。「ホームとは自分の心に思う場所であり、家族がいる場所であり、仲間がいる場所のことだ」と言い、「別の場所に行ってもホームを守ることはできる、決して忘れないで」と言う。大学に行くことができたニーナにも、またウスナビに対しても、ベニーはそのことを思い出させようとしていますね。

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「言葉に出来ないから、歌わずにいられない」

──『ストレイト・アウタ・コンプトン』に出演されていますが、音楽映画/ミュージカルとして、ご自身の体験の違いはありましたか。

ミュージカルは、いわゆる演技とは違うものだと感じることもあります。だけど、歌うことは考えることの延長だと思うんです。ほかに何も言えない時に歌うんだ、ということ。言葉に出来ないから、歌わずにいられない。それは、自分がどんな人間なのかということにも密接に繋がった、とてもパーソナルな行為だと思います。しかも声と身体を使うんだから、すごく肉体的な演技ですよね。

(過去に)僕はミュージカルを観て、「ただ歌っているだけだな」と思っていたこともありました。リンやアレックス・ラカモア(音楽総指揮)との作業で学んだのは、決してそんなものではないということ。それは楽譜以上のことだし、音が良く聞こえる以上のことなんです。映画の終盤には、ニーナとベニーが歌う『When The Sun Goes Down』という曲があります。その時の二人は、お互いに言いたいことをどう言えばいいかわからない。だから想像し始めて、そこから歌が生まれる。それはラップでも同じで、すべては詩なんですよね。ストリートの言語であり、人間の言語である以上、それほど大きな違いはありません。

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──『キングコング:髑髏島の巨神』『6アンダーグラウンド』など大作映画への経験も多いですが、本作の撮影はどんな違いがありましたか?

まったく違うプロセスでした。(『キングコング』『6アンダーグラウンド』は)大作アクション・アドベンチャー映画だし、いわゆるポップコーン・ムービー、現実を忘れる映画でしょう。日常生活を離れて、客席に座ってモンスターや爆発を楽しむ。だけど『イン・ザ・ハイツ』は、スケールは大きいけれど、非常にパーソナルな映画だと思います。現実を忘れるのではなく、登場人物の心に入っていく。客席に座って、シートベルトを締めて、ジェットコースターに乗るように身を任せるのは同じだけど、これはミュージカルだし、それ以上の作品でもあると思います。だから、もちろん製作の過程もまったく違う(笑)。

「撮り終えるのは本当につらかった」

──あなたがお薦めする『イン・ザ・ハイツ』の見どころ、聴きどころは?

どのシーンも大好きですが、撮影がとても印象的だったシーンがありますね。あまりたくさん言いたくないんですが、ベニーとニーナが一緒にいるシーンで、ベニーが「もしも夏の始まりに戻ったら、この夏がどういうものかを想像してみようよ」と言うと、そのまま世界が開いていく。ジョン・M・チュウは重力を操り、二人が「こういう世界にしたい」と思うままに世界を回転させ、世界を曲げてしまうんです。あのシーンは、ベニーとニーナの『雨に唄えば』(1952)だと思います。本当に美しいし、とても特別なナンバーですね。

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──あなたにとって、リン=マニュエル・ミランダの楽曲の魅力は何ですか?

リンは「人々の詩人」だと思います。インスピレーションがどこから生まれるのかはわからないけど、リンの音楽はまさに詩だと思う。それが本当に良いところで、リンは登場人物を、自分が知るままに描くことをまったく恐れていない。本当の天才であり、しかも協力的な人ですね。人は(他人の意見に)心を閉ざすことがよくあるけど、リンはしっかりと協力し合っていく。そこも素晴らしいところだと思います。

──ちなみに撮影中、一番苦労したエピソードを教えてください。

この映画を撮り終えること(笑)。「よし、これで終わりだ」と言うことが一番のチャレンジでした。『イン・ザ・ハイツ』から離れるのが本当につらかったんです。我ながら、どうやってあれほどの愛情とエネルギーを注ぎ込んだんだろう、と思いますね。たくさん苦労したし、特にダンスは大変でした。リハーサルに2ヶ月かけて、朝から晩まで何時間も歌って、演じて、それからオフィスで脚本を読み、また戻ってきてリハーサルをして……。だけど、それはすごく良いチャレンジだった。本当に気持ちが揺さぶられたのは、それらを手放すことでした。だから、この作品について話せるのはうれしいですよ。

映画『イン・ザ・ハイツ』は2021年7月30日(金) 全国ロードショー

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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