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【インタビュー】『イン・ザ・ハイツ』音楽は常に真実から生まれる、ジョン・M・チュウ監督の創作哲学

イン・ザ・ハイツ
© 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

『ハミルトン』リン=マニュエル・ミランダによる傑作ブロードウェイ・ミュージカルの映画版イン・ザ・ハイツが、2021年7月30日(金)より全国公開となる。THE RIVERでは、主要キャストであるアンソニー・ラモス、コーリー・ホーキンズ、メリッサ・バレラのほか、監督のジョン・M・チュウへの取材を実施し、貴重なコメントの数々を入手した。

原作者のリン=マニュエル・ミランダが本作のキーパーソンにせよ、この人なくして映画版『イン・ザ・ハイツ』はありえなかった。『クレイジー・リッチ!』(2018)を大ヒットさせたジョン・M・チュウは、初のミュージカル映画にして圧倒的な仕事を成し遂げたのだ。今後さらにブレイクするであろう才能が、映画化までの道のりや創作の哲学、製作の舞台裏をじっくりと語ってくれた。

なぜ『イン・ザ・ハイツ』は観る者の心をつかむのか

──はじめに、『イン・ザ・ハイツ』の映画化を手がけることになったきっかけを教えてください。

最初は、2009~2010年ごろに舞台を観たんです。リンが離れた直後だったから、彼が出ていたものは観ていないんですが、本当に感動しました。まるで、自分の家族のことが描かれているように思ったんです。もちろん僕はワシントンハイツの出身じゃないし、ラティーノじゃない。僕の家族は、19歳や20歳の時に中国からアメリカにやってきた。そして、母の6人の兄弟姉妹、父の4人の兄弟姉妹はコミュニティを作ったんです。

僕は5人兄弟(姉妹)の末っ子で、子どもの頃はみんなから面倒を見てもらったし、毎晩みんなで一緒にディナーを食べていました。母は僕らをピアノやバイオリンの教室に入れてくれたから、みんなで一緒に宿題をした。だけど次の世代には、自分たちには何をやるのかというプレッシャーがあるんです。両親はレストランをやっているしね。そういうことが詰まっている舞台だから、自分自身を重ねて観られた。それは非常に特別なことで、きっと人々の共感を呼ぶだろうと思いました。僕たちはみんな、自分の居場所を見つけようとしているわけだから。

それから10年くらい経って、プロデューサーのスコット・サンダースから「『イン・ザ・ハイツ』を撮りたいと思ったことはある?」と聞かれたんです。その時、自分の経験すべてが『イン・ザ・ハイツ』に繋がっているように感じましたね。それから、リンやキアラ(・アレグリア・ヒュデス:脚本)と一緒に作業をして、作品の文化的な側面を勉強しました。たくさん学び取らなければいけない、常に周囲に耳を傾けなければ、と気づきましたよ。企画の始まりから編集段階まで、また学生に戻ったようで、素晴らしいプロセスでしたよ。

イン・ザ・ハイツ
© 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

──今、新たに『イン・ザ・ハイツ』を描くことの意義をどう捉えていらっしゃいますか?

すべてのアートは作られるべき時に作られるものだと、僕は心から信じています。今という時代は、アメリカン・ドリームやアメリカン・ストーリーに危機が訪れていると思います。だけど『イン・ザ・ハイツ』は、僕が子供の頃から知っているようなアメリカン・ストーリー。物語そのものや登場人物の苦労だけでなく、さまざまな勝利を描くことができます。また、気にも留めないような人々の夢や憧れも見せられる。そういうすべてに敬意を払い、小さな物語だと思われていることが、本当は世界で最も素晴らしい物語だということを証明できます。そのことに焦点を絞って、僕たちはハリウッドのどんな大作ミュージカルにも並べられるような大作を作りました。

人気の原作を映画化する心構え

──「すべての経験がこの映画に繋がった」とおっしゃったように、これまでに監督は『ステップ・アップ』シリーズや『ジャスティン・ビーバー ネヴァー・セイ・ネヴァー』(2011)といった音楽・ダンス映画を作られています。こうした経験は本作にどう活かされましたか?

時々「あなたはダンサーなんですか?」と言われるんですが、それは最大の褒め言葉だと思っています。なぜなら、僕はダンサーじゃないから。僕はフィルムメーカーであり、ストーリーテラーとして、ダンサーたちの世界に飲み込まれないといけない。僕は自分の映画が描く人々に注力しながら、その世界のアウトサイダーとしてスキルを使うわけです。ある世界について学び、その内側に入り込む時、その世界を外部に繋げるためにアウトサイダーとしてのスキルを使う。とてもエキサイティングな作業です。

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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