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『LOGAN/ローガン』ウルヴァリンが恐れていたのは「親密さ」 ― オスカー候補脚本のツボを監督が解説

ヒュー・ジャックマン演じるウルヴァリンの“最終作品”、映画『LOGAN/ローガン』(2017)はスーパーヒーロー映画の新たな境地を開拓した。『デッドプール』(2016)にみられた過激な暴力描写をシリアスな方向に振り切って、西部劇/アメリカ映画にみられるテーマやテイストを採り入れた人間ドラマに真っ向から挑戦。ジェームズ・マンゴールド監督らが執筆した脚本は、ヒーロー映画として初めてアカデミー賞の脚色賞にノミネートされている

長らくウルヴァリンを演じてきたヒューを送り出すべく、ジェームズ監督が選んだのは、“ヒーロー映画にありがちなこと”を徹底して避けるというストーリーテリングだった。過去の『X-MEN』シリーズや、昨今のヒーロー映画の風潮を踏まえたスタイル、そしてウルヴァリンというキャラクターのキモを監督自身が解説している。

注意

「マンダロリアン シーズン3」「アソーカ」解説

この記事では、映画『LOGAN/ローガン』の内容に言及しています。

©2017Twentieth Century Fox Film Corporation

ウルヴァリンが恐れていたのは「親密さ」

映画が始まってすぐ、観客は(『X-MEN』シリーズの熱心なファンであればあるほど)驚くことになっただろう。ローガン/ウルヴァリンはUberを思わせる配車サービスのドライバーを生業とし、チャールズ・エグゼビア/プロフェッサーXはアルツハイマーを患って、介護を受けながらひっそりとした生活を送っている。ミュータントの大半がいなくなってしまった世界で、彼らは“最後の時間”を過ごしているのだ。

ジェームズ監督は、「ヒュー・ジャックマンによる最後のウルヴァリンである以上、“ローガンが一番恐れているものは何なのか?”という問いに答えなければなりませんでした」THE CREDITSのインタビューにて語っている。

「彼は世界の恐れは恐れていない、むしろ歓迎しているかもしれません。自分が死ぬことも恐れていない、むしろその時を待っているのかも。誰か特定のヴィランに復讐を誓うわけでもなく、むしろ孤独に生きていたいと思っています。でも、そこで分かってきたんですよ。ローガンは親密になることを完全に恐れているのだと。」

しかし劇中において、ウルヴァリンはチャールズと、自分の遺伝子を継ぐ少女ローラを連れて逃亡の旅に出なければならなくなる。そこで彼は(時として好戦的な)従来のウルヴァリンとは異なり、他者を守ることにこそ力を尽くさねばならないのだ。その過程で、三人は家族のような関係を結ぶことになっていく……。

かつてない、脆いウルヴァリンにしたいと思いました。だから、病気に苦しむ父親や、娘に必要とされる人物としてローガンを創造したんです。彼は非常に落ち着かない状況になりますよね。」

旅の途中、彼らは確かに親子として心を通わせている。ある家族と出会った時、三人は祖父・父親・娘として、ひとつのコミュニティを演じなければならないのだし、それは“演じる”ことを超えて真実にすらなるのだ。
そうして恐れていたはずの「親密さ」を手にしたウルヴァリンは、その反面、自身の心を大きく揺さぶられることになる。不器用な彼がはっきりと表現するのは、時に愛情の裏返しとなって噴き出してくる“怒り”だ。ウルヴァリンのセリフには、その苛立ちや怒りのこもったFワードが頻出するのである。

「決して、口汚い言葉を喋らせたいと思ったわけではないんです。大切なのはフィルターを外すことでした。たくさんの怒りを抱えた一匹狼を描く作品にしたかったし、彼の怒りにフィルターはないんですよ。」

かつてジェームズ監督は、本作を「ミュータントの出て来る小津(安二郎)映画にしたかった」と述べていた。親密になることを恐れる孤独な男、その内面の描き込みという点で、今回の解説はそのひとつの回答になっているといえるだろう。

なお脚本の執筆にあたり、ジェームズ監督をはじめとした執筆チームは何度も改稿作業を重ねていたという。

「とにかくトライ&エラーの連続でした。決して、熱にうかされて書いたものではありません。ストーリーを作っては、また作り直したことに、すごく満足しています。いつでも過去のものに戻ることはできましたが、新しいことを試したい、成功の確率が50%でも、より良いもの、より新しいものを目指して努力したいと思ったんです。」

映画『LOGAN/ローガン』のブルーレイ&DVDは現在発売中

Source: https://www.thecredits.org/2018/02/writer-director-james-mangold-snagged-historic-oscar-nom-r-rated-logan-script/
©2017Twentieth Century Fox Film Corporation

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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