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【レビュー】『マーベルズ』最強推し活ムービー、キャラ映画としての魅力と欠点

マーベルズ
© 2023 MARVEL.

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)最新作『マーベルズ』という映画は、劇中に登場する猫のグースそのもののようだ。とんでもない力を秘めている。

核となる部分は、2019年の映画『キャプテン・マーベル』の続編だ。フェミニズムのメッセージが示唆的に語られたこの前作では、同時に『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)での敗戦から『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)での逆転に向けた“切り札”を紹介する面も大きかった。『エンドゲーム』では土壇場に駆けつける救世主として登場したが、他のヒーローたちのようにキャラクターの内面が描かれることはほぼなかった。

つまりキャプテン・マーベル/キャロル・ダンバースは、まだ謎の多いキャラクターで、観客の共感や自己投影を得るにはもう少し時間を要するようだった。そんな彼女に加えて、ディズニープラスの配信ドラマ出身で、知名度もまだないミズ・マーベル/カマラ・カーンとモニカ・ランボーを連れさせ、この「スーパーヒーロー疲れ」「マーベル不振」時代に全世界の期待を背負わせるのは、いささか重荷ではないかというのが事前の見立てだった。

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『マーベルズ』
© 2023 MARVEL.

おまけに俳優ストライキの長期化が災いし、主演のブリー・ラーソンやイマン・ヴェラーニ、テヨナ・パリスらは、せっかくの女性チームアップ映画を表立って宣伝できない。専門家の事前見通しは低く、初週末成績は6,000〜6,500万ドルとの予想だ。『キャプテン・マーベル』が1億5,343万ドルだったことと比べると、業界でのオッズがどれほどであるかがわかるというものである。

さらに『マーベルズ』の上映時間は1時間45分であるとわかったり、同時期に配信されているドラマ「ロキ」とは対照的にMCU最新トレンドの“マルチバース”や“征服者カーン”取り扱いの匂いがしなかったりと、フェーズ5初のチームアップ映画としてはボリューム感に欠けるような印象もあった。3名のチームアップ以外の見どころといえば、「梨泰院クラス」で話題のパク・ソジュンのMCUデビューと、大量の猫ちゃん軍団?しかし、誰もが韓国ドラマ愛好家や猫派というわけでもあるまい。

マーベルズ
© MARVEL 2023

……と、あまり大きな期待をしすぎずに鑑賞に挑んだが、結果としてこれまでのMCU映画同様の楽しさや満足感を得ることができた。そればかりではなく、予想外の驚きに放心状態だ。まったく、グースの口から触手が飛び出したように。

『マーベルズ』魅力と欠点

魅力と欠点がはっきりとしたタイプの作品である。キャラ映画としての魅力はピカイチ。中でもドラマ「ミズ・マーベル」からスクリーンデビューを果たしたミズ・マーベルことカマラ・カーンは愛嬌たっぷり。アベンジャーズオタクの高校生で、特にキャプテン・マーベルの熱狂的ファン。自宅では、宿題そっちのけでキャプマの空想漫画を描いている。「オーマイガー!」と叫びまくる無邪気な魅力が光る。

魅力:キャラ映画としての楽しさ

ある時、共に宇宙の別の場所で任務にあたっていたキャプテン・マーベルとモニカ・ランボーが、「ジャンプポイント」の異常に同時に触れたことにより、地球のカマラも交えて3人の身体が入れ替わってしまう。なぜそのような現象が起こるのかについて劇中では「強力な仮説」が提示されるのだが、いまいちピンとこないし、本質的にはどうでもいい。

『マーベルズ』
© 2023 MARVEL.

それよりも重大なのは、カマラが憧れのキャプマと夢の出会いを果たしてしまうことだ。“最推し”と同じ酸素を吸うばかりでなく、名を呼ばれ、チームを組み、共に危機に立ち向かい、そして存在と実力を認めてもらうという、夢小説レベルの鼻血モノの展開を、カマラは経験していくことになる。キャプテン・マーベルと出会って過呼吸気味に興奮したり、ついつい「オタク特有の早口」で喋りすぎたりと、等身大の愛らしさを見せてくれる。

『マーベルズ』
© 2023 MARVEL.

キャプテン・マーベルの方も、前作までに比べてキャラクター的な魅力をかなり増している。より人間味を与えられ、彼女が密かに抱えていた後ろめたい感覚や、全く見たことのない新たな一面が描かれる。ねぇカマラ、あなたの推しはこんなに尊いんだねと、きっと多くの観客が心掴まれるだろう。

モニカ・ランボーに至っては、興味深いキャラクター・アークが用意された。彼女は前作『キャプテン・マーベル』に登場した、キャロルの親友であるマリア・ランボーの一人娘。サノスの指パッチンで消えていた5年間に母を亡くしていたり、残された唯一の家族キャロルが長らく自分の前から消えていたりと、なかなかの孤独を抱えたキャラクターで、SWORD(知覚兵器観察対応局)エージェントのリーダーというクールな表向きとはコントラストがある。ドラマ「ワンダヴィジョン」では身体を透明化させるなどのスーパーパワーを得るが、まだ未発見の領域が多く、成長過程のキャラクターだ。そんなモニカは本作で、チームを組むことで初めてヒーローとしての実感を得ていき、物語の鍵を握る重要人物になっていく。

THE MARVELS
© 2023 MARVEL.

立場も世代も全く異なる3人のキャラクターの輪郭がはっきりしており、仲を深めていく様子が楽しい。能力を使うごとに3人の身体が入れ替わるというギミックを導入したのが巧みで、このために彼女たちは互いを気遣いながら連携技を駆使することを優先する。チームアップ映画としての旨みが活かされた。

1時間45分に収められたのは、34歳のニア・ダコスタ監督による「必要ないと感じるのなら、わざわざ長くする必要はない」というミニマリズムによるもの。小気味良いほどサクサクと展開されるので、なるほどスッキリと観進めることができる。

欠点:ヴィランの力不足とメッセージ性の欠如

映画の弱みとしては、ヴィランだ。本作でヒーローたちに立ち塞がるのはダー・ベンと呼ばれるクリー人で、キャプテン・マーベルの“過去”に恨みを持っている。ヒーローの活躍への逆上はこれまで何度も描かれてきたが、今作のダー・ベンもそのありきたりな枠組みに留まっており、結果として“ヴィランの魅力不足”というマーベル映画が陥りがちな穴を作っている。

 マーベルズ
©Marvel Studios 2023

つまり本作は、「どのような悪とどう闘い、どう成長し、どう倒すか」ではなく、「3人の新チームがどのように出会い、戦いを通じて絆を深めるか」の方に焦点が当てられている、ということである。また、前作にあった目が覚めるようなメッセージ性は鳴りを潜め、エンタメキャラ映画として平均化されたようなところもある。これは、『ワンダーウーマン 1984』が素晴らしい野心を前作に置き忘れてきたことに似ている。

とはいえ、エンタメ作品として総合すると、キャラ映画としての明るい喜びがいくつかの欠点を十分にカバーしている。MVPはミズ・マーベル役のイマン・ヴェラーニ。“アベンジャーズのファン”という観客とほぼ変わらない立場から、新鮮な視点をチャーミングに提供しているからだ。

マーベルズ
© 2023 MARVEL.

ネタバレ厳禁、ファン必見の仕上がりに

おそらく観客が考えているのは、ドラマ「ワンダヴィジョン」と「ミズ・マーベル」を観ていなくても大丈夫だろうか、ということであろう。劇中ではフラッシュバックを通じてドラマ作品での出来事を断片的に示したり、改めての紹介を行ったりと、未見の観客に向けた配慮も見られる。ミズ・マーベルはほとんど新キャラクターとして、モニカは「前作のマリアの娘が大人になった」キャラクターとして登場する。そこまで置いていかれることもないとは思うが、とりわけミズ・マーベルは彼女の推し活が完結する様が面白いポイントでもあるので、「ドラマを観ておくともっと楽しめる」という至極スタンダードな回答になる。

時間がないという方は、ディズニープラスで配信中のキャラクター振り返り特集『知られざる秘密』で、カマラ・カーンとモニカ・ランボーの回を観ておくのがオススメだ。共に7分でまとめられているので、劇場に向かう電車の中でも間に合うだろう。

さて、マーベル映画の新作をレビューするに際して、毎回毎回、金太郎飴みたいに「マーベルファンは必見!絶対に劇場で観た方がいい!」と書くのは自分でもなんだか気持ちが悪いのだが、でも、でも、本作はとんでもないサプライズを秘めている。劇場公開後には「ネタバレ記事」を大量に作らせるタイプの作品だ。こちらについても熱く語りたいが、本記事では沈黙。とにかく劇場で確かめてみて。マーベルファンなら絶対。マジで。

 マーベルズ
©Marvel Studios 2023

映画『マーベルズ』は2023年11月10日、日米同時公開。

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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