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【インタビュー】『ミッドサマー』アリ・アスター監督が教える「悪夢」の作り方 ─ 「主人公も観客も、自分が見たものと格闘しなくては」

ミッドサマー

以下の内容には、前作『ヘレディタリー/継承』のネタバレが含まれています。

若き鬼才、“悪夢”の作り方を語る

──監督の作品を観ていると、最初にはまったく想像しなかったところへと連れて行かれるように思います。脚本を書く時、展開や結末は最初に決めていますか? それとも、ご自身も物語に導かれながら書くのでしょうか。

ミッドサマー』の場合、結末がどうなるかは最初から決まっていました。『ヘレディタリー』の時も、トニ・コレット(母親役)が自分の首を切り落とすのだという強い印象があって、そこで終わることは分かっていたんです。ツリーハウスの中、まさに一番最後のシーンはすぐには決まりませんでしたが、たいていは結末の雰囲気がなんとなく分かるんです。また僕の場合、いつも自分を奮い立たせて、自分を引っ張っていくイメージが必要なんです。脚本を書くのも、映画を作るのもすごく大変ですから、自分を前進させる、自分が興味を失ったり迷ったりせずに済む、それだけ強いイメージがないといけない。それが出てこない時には、脚本を書きながらすごく落ち込むことがあります。時間の無駄なんじゃないか、もうそんなイメージは思い浮かばないんじゃないかって。

──「イメージ」というのは、シーンの中身が具体的に見えてくるのでしょうか、それともシーンの画が見えるんでしょうか?

『ミッドサマー』なら、ラストシーンの画が最初からハッキリとありました。女性が◯◯していて、背後で◯◯が◯◯しているという[編注:ネタバレのため伏字]。『ヘレディタリー』の方はもう少し具体的で、「女の子をどうやって殺そうかな…」なんてことを考えるよりも前から、子供は死ななきゃいけないし、そこに怒りや憎しみ、罪悪感を抱いていた母親も、子供と同じ形で自殺しなければいけないと思っていた。人間が宙に浮いているイメージもずっとありました。そんなイメージが先にあって、それが僕を突き動かしてくれたんです。僕はきわめてビジュアル重視なので、映画製作とは、あらゆる意味でイメージを作ることなんですよ。

ミッドサマー
© 2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.

──監督はクラシックなドラマ映画もお好きだとお聞きしますが、ご自身の作品にホラー映画の影響はありますか?

もちろん、ホラー映画は大好きです。たとえば『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)や『シャイニング』(1980)、日本のホラーなら『怪談』(1965)や『藪の中の黒猫』(1968)、『鬼婆』(1964)、現代の作品にも大好きなものはたくさんあります。黒沢清監督(の作品)はすごく面白いですね。ただし、いわゆるジャンル映画は好きじゃないことが多いんです。いろんなジャンルで、うわべだけで作られている映画がたくさんある。スタジオがとりあえず金を稼ぐために作ったり、作り手が情熱や力を注いでいなかったり。僕はそういう映画は好きじゃないし、それは、ほぼ全てのジャンルが抱える問題だと思っています。ただ、そういうことはジャンル映画の本質でもありますよね。

その一方、僕は自分のことをジャンル映画のフィルムメーカーだと考えていて。ジャンル映画を撮るのは非常にエキサイティングで、(ジャンル特有の)確固たる骨組みを与えられて、そこで観客の期待を覆したり、逆に期待に応えたりできる。観客はある期待をもって映画を観に来るもので、ジャンルのルールも知っているわけですが、そこで満足している観客を操ったり、予想を裏切ったりするのは簡単なんです。優れたジャンル映画の作り手は、みんなそういうふうに考えていると思いますよ。

それからジャンル映画は、作り手たちが無言の競争を繰り広げているのも面白いですよね。お互いを出し抜こうとしたり、より面白い趣向でジャンルを遊んでみたり。どんな映画を作るにせよ、究極的にはそこが非常に面白いところ。その競争に加わらない人がいたら、いったい何をしてるんだって思いますよ。……だけど、「競争」という言葉は間違ってるのかもしれません。実際にはもっとフレンドリーで、作り手同士の対話に近いものだから。意識しているにせよ、意識していないにせよ、どんなフィルムメーカーも映画史と語り合っているもの。もしもそうじゃないという人がいるのなら、それは僕には理解できない。不誠実じゃないかと思いますね。

ミッドサマー
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──ホラー映画として、監督の演出は、恐ろしいものを見せる時・見せない時の両方が巧みで、またバランスも絶妙です。「ここは見せる、ここは見せない」という判断は、どういう考えのもとで決まるのでしょうか。

そうですね、『ヘレディタリー』には明らかな場面があって、道端に転がった娘の頭部を見せています。『ミッドサマー』でも、あるシーンはそのまま見せました。僕がはっきりと、しかも残虐に見せる時は、それが登場人物にとても大きなインパクトを与える場面だから。みなさんには、彼らが経験することをできるだけ知ってほしいんです。

『ヘレディタリー』は、家族でもっとも幼い子どもが、とても惨い死を遂げたことを嘆き悲しむ家族の物語です。彼らが娘の身に起こったことを想像する時は、きっと娘の頭が道端に転がっているところを思い描くでしょう。だからみなさんには、その記憶を与えたい。『ミッドサマー』でも、ある場面をダニーたちが目撃した時にすべてが変わります。極めてシリアスな形で、状況が一変する。だから、あそこで彼らが経験したことは、観客のみなさんにもきちんと理解してほしい。そのベストな方法が、なるべくインパクトある形で恐ろしいものを描くことなんです。ダニーたちと同じように、みなさんも自分が見たものと格闘しなくてはいけない。もちろん、本当の意味で「同じように」とはいきません。みなさんが「これは映画だ」と思っている以上、そんなことはできない。だけど、みなさんが彼らの立場になれるよう、僕がベストを尽くすことはできますから。

『ミッドサマー』作品情報

主人公ダニーは、家族を不慮の事故で失ったのち、大学で民俗学を研究する恋人や友人たち5人と、スウェーデンの奥地で開かれる“90年に一度の祝祭”を訪れる。美しい花々が咲き乱れ、太陽が沈まないその村は、優しい住人が陽気に歌い踊る楽園のように思えた。しかし、次第に不穏な空気が漂い始め、ダニーの心はかき乱されていく。妄想、トラウマ、不安、恐怖……それは、想像を絶する悪夢の始まりだった。

ミッドサマー
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恐怖の歴史を覆す、暗闇とは真逆の明るい祝祭。天才的な発想と演出、全シーンが伏線となる緻密な脚本、観る者を魅惑する極彩色の映像美。そしてラストに待つのは、究極の恐怖と未体験の解放感。『ヘレディタリー/継承』(2018)のアリ・アスター監督が放つのは、体験したら二度とは元には戻れない、前代未聞の〈フェスティバル・スリラー〉。監督の前作『ヘレディタリー/継承』に続き、気鋭のスタジオ「A24」が製作を担当した。

主人公ダニー役はマーベル・シネマティック・ユニバース最新作『ブラック・ウィドウ』の新鋭女優フローレンス・ピュー。ダニーの恋人クリスチャンを『トランスフォーマー/ロストエイジ』(2014)『ビリーブ 未来への大逆転』(2018)のジャック・レイナーが演じるほか、『デトロイト』(2017)のウィル・ポールター、『ベニスに死す』(1971)で知られるスウェーデンの名優ビョルン・アンドレセンらが出演する。

映画『ミッドサマー』は、2020年2月21日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

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Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。外部寄稿に『TENET テネット』『ジョーカー』『シャザム!』『ポラロイド』劇場用プログラム寄稿など。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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