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『インターステラー』『TENET』なぜノーランは「時間」を描くのか? ─ 「映画と時間の関係性において、カメラとはタイムマシンである」

クリストファー・ノーラン
HellaCinema https://commons.wikimedia.org/wiki/File:DunkirkFilmGearPatrolLeadFull.jpg

現代映画の新たな巨匠とされるクリストファー・ノーランといえば、繰り返し「時間」を題材とすることでよく知られる。なぜ、ノーランはこの題材にこだわるのか?ニューヨーク市立大学大学院センターで行われた特別講演で、本人自らが語っている。

ノーランはキャリア初期作『フォロウィング』(1998)『メメント』(2000)でも、時間軸をシャッフルさせてストーリーに捻りをもたらした。『インターステラー』(2014)では時間の流れが異なる世界間の出来事を描き、『ダンケルク』では時計の針の音を効果的に用いながら、複数の舞台で流れる時間を並行的に描いた。『TENET テネット』(2020)では順行・逆行する時間軸の相互作用を複雑に設計。さらに最新作『オッペンハイマー』でも複数の時間軸を行き来させながら、時間を重要な題材のひとつとしている。

イベントに登壇したノーランは、「どうして私が“時間”にこだわるのかは、実はよく尋ねられています。適当な回答としては、“我々は時間の中で生きているから”という感じです」と少し冗談ぽく答えながら、「実に適当に聞こえますが、実際そうなのです」と改めた。「人間の経験の最も基本的な部分であり、我々が世界をどう認識するかは、時間によって定義づけられる。映画はそれを扱うのに最適というわけです」。

自身が時間という題材に取り憑かれた理由については、数年前(おそらく2014年のこと)にもWired誌に寄稿したとノーランは振り返っている。

「映画上映中の映写室に入ったことがありますか、という話でした。時々、映画のフィルムがスプール(巻き上げ軸)から外れて、床に落ちていくことがあります。あれほどドラマチックに時間や時の流れを表現するものはありません。恐ろしいほどです。

イメージ写真

特にIMAXプリントが回っている時です。3時間のIMAX映画のプリントの長さは、11マイル(約17キロメートル)にもなります。つまり、大皿に膨大な“時間”が乗っているのです。だから私は、時間のメカニズムや、従来的な映画文法における時間の扱い方とその表現というのは、極めて洗練されていると思うんです。」

さらにノーランは、「私が作る映画は、実際にはもっと粗雑です。時間のメカニズムを実演し、メカニズムへの注目を惹くものです」と続け、次のように発言している。

「時間と映画の関係性において、カメラとは即ちタイムマシンです。時をとらえるのです。フィルムカメラ登場以前、人々は逆再生映像や、スローモーション、ファストモーションの映像を見ることはできませんでした。」

ここでノーランが持ち出したのは、ある夜にMoMA(ニューヨーク近代美術館)の上映会で鑑賞したという1982年のドキュメンタリー映画『コヤニスカッツィ/平衡を失った世界』だ。「まるで世界を全く違う形で見るようでした。映画のカメラを通じて、時間を操作するようなものでした」と、その時の印象を振り返っている。

「それが可能なのは、映画のカメラだけです。純然たるシネマだと、私は思いました。それが、時間が有用な題材だと考える理由です。」

『コヤニスカッツィ/平衡を失った世界』はフランシス・フォード・コッポラも製作に携わった実験的映画で、スローモーションや低速度撮影、逆再生を交えながらアメリカのさまざまな風景を淡々と切り取った作品だ。ビルが崩壊する様子の逆再生映像も含まれており、『TENET テネット』などの作品に影響を与えたようにも見られて興味深い。今では入手が難しい作品でもあるが、ノーランのインスピレーションを覗いてみたい方はチェックしてみては。

Source:The Graduate Center, CUNY

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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