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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』トリビアぎっしり最強ナビ ─ レオ&ブラピ奇跡の共演が象徴するものとは

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
Leonardo DiCaprio, Brad Pitt and Al Pacino in Columbia Pictures ÒOnce Upon a Time in Hollywood"

「人生でいつか、ハリウッドを描く映画を作りたいと思っていました。」鬼才と呼ばれるクエンティン・タランティーノ監督はこう語った。つまり、映画のための映画を撮る、そういうことである。

映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、1969年のハリウッド激動の史実に、リック・ダルトンとクリフ・ブースという2人のフィクションを紛れ込ませる。


それがいかに途方のない仕事になるか、タランティーノはどれほど予見していたのだろう。少なくとも、こう語っている。「自分の人生をかけて、リサーチをしてきたようなものです。この世界を知るために、僕は全人生を費やしました。この56年間、僕の頭の中を満たしていたものを、ようやく映画にできる。

なぜタランティーノは、自らの人生そのものに匹敵する熱量の情熱をもって、映画のための映画を作り上げたのか。そして、映画の都ハリウッドへの「ラブレター」と言われるこの集大成を、どんなキャラクターや役者たちに託したのか。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』LAプレミア
Photo by Eric Charbonneau/for Sony Pictures/Shutterstock

リック・ダルトン、時代に取り残されたテレビスター

天変地異の音が響くほどだったかも知れない。その音を心地よいとするか、不気味とするか、当時はまだ分からなかったらしい。1960年代後半のハリウッドでは、文化的な地殻がうごめいていた。

「その背景には、50年代にテレビが登場したということがあります。」タランティーノは解説する。「それまでは映画や舞台、ラジオでしたが、新しいスターたちがテレビから登場していきました。ただし、時代が50年代から60年代の過度期にさしかかるとき、この新たなスターたちはどうなるのか。そういったことはまだ見えていない、そんな時代だったんです。」

天変地異とは言い過ぎだろうか?いや、タランティーノがそう言い表している。「彼にとっては天変地異が起きているようなものでした。」その”彼”こそ、この映画の主人公のひとりである、リック・ダルトンである。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

レオナルド・ディカプリオが演じるリック・ダルトンは、1950年代より活躍する架空のテレビ俳優で、タランティーノが言うところのテレビが生んだスターである。スティーブ・マックイーンの出世作となった西部劇ドラマ「拳銃無宿」(1958-1961)と同じ年に、リックは似たような西部劇ドラマ「賞金稼ぎの掟」でブレイクし、マックイーンと人気を二分する存在だった、という設定。ただしマックイーンがその後映画俳優への華麗な転身に成功する一方で、リックはまだテレビ俳優としてくすぶっていた。おまけに、時代の求める男性像の変化の煽りを受ける。

「1969年までに、この文化が変革に見舞われるなんて、誰も予想していませんでした。新しい時代の主役は、ポマードで髪を固めた男らしいマッチョなタイプではなく、細身で中性的、髪はシャギーヘアといったタイプになっていました。」(タランティーノ)

こうしたカルチャーの変化に、リックはうまく合流できなかった。「もしもリックが映画で彼らと共演するとしたら、たぶん彼らをぶん殴る刑事の役でしょうね。」(タランティーノ)ディカプリオはリックについて「変わりゆく業界を生き抜こうとする、労働階級の男」と言う。業界の変化を、ただ「覗き見ている」存在として、ディカプリオはかつて出演した映画『華麗なるギャツビー』(2013)で、豪華絢爛を極める主人公ギャツビーに接しながらも一線を引くニック・キャラウェイにも例えている。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の面白いところは、映画の史実にリックという架空のキャラクターを自由に溶け込ませている点だ。例えばこの映画の中でのリックには、スティーブ・マックイーンの代表作『大脱走』主演のオファーが舞い込んだこともある。マックイーンが話を断ったため、リックに役が回ってきたという設定だ。結局、劇中でもマックイーンが出演したことになっているが、つまり「リックは『大脱走』に出演できるほどの役者だが、マックイーンほど良い役者というわけではない」とタランティーノ。「マックイーンの方が役に相応しい。リックも良い仕事をするけど、僕だったらマックイーンを起用しますね!」ちなみに、「レオの話ではないですよ。リックの話です。レオなら、『大脱走』にも起用できます」と補足している。

タランティーノがどうやってリック・ダルトンのキャラクターを組み立てたかと言えば、それはもうタランティーノならではの情熱的カオスに満ちている。テレビスターから映画俳優への転身がうまくいかなかった実在の俳優たち、たとえば「ルート66」のジョージ・マハリスや「サンセット77」のエド・バーンズ、「ブロンコ」のタイ・ハーディン、「ベン・ケーシー」のヴィンス・エドワーズの様々な要素を抽出して注ぎ込んだのだ。「1人の役者を参考にしたのではなくて、この役者のこの部分と、あの役者のあの部分、といった具合です。」

そのプロセスは、タランティーノの映画学的なシナプスがぞくぞくと電位変化を起こすようなものだったろうから、まったく神秘に満ちているに違いない。ただしタランティーノは顕在的な引用も挙げていて、いわくリックが酒飲みである元ネタは西部劇ドラマ「西部二人組」(1971-1973)のスター、ピート・デュエル。「第2シーズンの途中で彼は自殺したんです。当時の僕は番組の大ファンでしたが、あれが”自殺”というものを初めて知った時だったと思います。」当時幼かったタランティーノは自殺という概念が理解できず、(おそらく親に)こう聞いたという。「自殺って何?どうして自分で自分を殺すの?」、「きっと、落ち込んでいたんだよ」、「どうして落ち込む必要があるの?彼はハンニバル・ヘイズじゃないか!テレビでいちばんカッコいい人だったのに!」

大人になったタランティーノは、ピート・デュエルが生前抱えていたとされるアルコール依存症と躁うつ病の要素を、リックに投影させることにした。ただし、これはエッセンスとして。ディカプリオが劇中でリックとして、躁うつ病について明確に言及することはない。

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「もうダメだ、俺は終わった。」思いつめたリックが思わず泣き出す瞬間に肩を借りるのが、相棒のスタントマン、クリフ・ブースだ。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』では、リックとクリフの友情も大きな見どころ。演じるのはブラッド・ピット、レオとブラピの初共演という奇跡も、現実世界を騒がせている。

クリフ・ブース、リックを支える真の相棒

当時、ハリウッドの俳優とスタントマンは切っても切り離せない関係にあった。ディカプリオはリックとクリフの関係を「共依存」「コインの表と裏」と言うが、ピットはさらに「リックとクリフを1人の存在とみなしている」と語る。ふたりでひとつ、まるでエディ・ブロックとヴェノムみたいに。「リック・ダルトンに仕事があれば、僕(クリフ)も仕事がある。リック・ダルトンに仕事がなければ、たぶん僕にもない。有り難いことにリックが奇妙な仕事に雇ってくれるから、彼のためなら何でもやる。」(ピット)

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クリフはリックのスタントマンのみならず、彼の身の回りの世話、例えば運転手も務めている。劇中では、ロサンゼルスの街をフォルクスワーゲンのカルマンギアで悠々とクルーズするシーンが「タランティーノはこれを見せたいんだろうなぁ」と思わせんばかりに多く登場するが、やはりこれは1969年当時6~7歳だったタランティーノの幼き記憶を辿るものらしい。「当時のロサンゼルスの思い出といえば、大部分が義父や母と車に乗っている記憶です。」「バス停には地元テレビ局の再放送番組の広告や映画のポスターが貼られていたり、ダイエット・ライトやローヤルクラウン・コーラ(共にドリンクの名前)の看板があったりしたのを覚えています。実際、義父はクリフみたいに、僕をカルマンギアに乗せて走ってくれました。だから劇中でクリフが運転するシーンで見える景色は、僕が小さい頃にロサンゼルスを走る義父のカルマンギアから見上げていた景色なんです。」

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タランティーノとは『イングロリアス・バスターズ』(2009)以来となるピットは、両作とも即答で出演を快諾したという。「僕にとって魅力だったのは、クエンティンと仕事ができることでした」と語るピットは、タランティーノの作る撮影現場を「熱意と喜びに満ちている。だから出演したんです」と紹介する。

全幅の信頼を寄せられているタランティーノも、クリフ役には「まさにピットのような、観客が見たいと思うような映画スターが必要でした」と認める。「まるでスティーブ・マックイーンのような、見ていたくなる男です。動いているところを、車を運転しているところを見たいと思わせるような。」

ちなみに『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の製作が発表された当初、ピットが交渉中の役はシャロン・テート殺人事件を調査する探偵と伝えられており、他にはトム・クルーズも交渉に加わっていたとか。

どうしてディカプリオとピットを選んだのかと尋ねられると、タランティーノは「むしろ彼らが僕を選んでくれたんですよ」と笑った。「2人とも、(出演するかは)選べたわけで。だから2人が出てくれて僕はラッキーなんです。」ディカプリオとピットの共演が奇跡的な幸運に恵まれていたのだとしたら、シャロン・テート役のマーゴット・ロビーも不思議な運命によるものだ。

シャロン・テート、奪われた日常生活

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ある日、友人に脚本を読ませたタランティーノは、その友人から「で、この役はマーゴット・ロビーでしょ?」とシャロン・テート役を指されたのだという。同じ頃、タランティーノの大ファンであるマーゴットは、監督への手紙を書いていた。「とにかく私がどれだけ彼の映画が大好きか、私の子供時代を占めていたかを伝えたかったんです。」タランティーノの元にその手紙が届いたのは、脚本を書き終えたほんの1週間半後だった。「是非、いつかお仕事をご一緒させてください」と書かれた手紙を受け取ったタランティーノは、マーゴットとランチを共にすることにした。「シャロン・テートって知ってます?」「はい、知っていますよ。」こうして、マーゴットの出演が決まった。まさか1通の手紙が本当に出演につながるなんて、そこまで期待していなかったマーゴットも驚いている。

マーゴット演じるシャロン・テートは、リックやクリフと並んでこの物語の中核を担う重要な存在だ。1969年8月9日、カルト集団マンソン・ファミリーの凶行によって惨殺されるこの若き女優は、あまりに凄惨な最期だったために、悲劇の人として語られることが多い。もっともこの映画は、シャロンを「純真さの喪失(loss of innocence)」と解釈している。同役に大いなる栄誉と責任を感じていたというマーゴットは、「あの悲劇を掘り下げる意図はありません。純真さの喪失を描いていて、彼女の素晴らしい一面は台詞なくとも充分に見せることができました」と語る。

そこで本作では、永遠の純真として葬られたシャロンの何気ない(しかし幸せに満ちた)日常生活を切り取っている。「これが彼女の、マンソン・ファミリーに奪い去られた、与えられなかった日常です。」タランティーノは、あの悲劇があまりにもシャロンのイメージを覆っているために、「ただ彼女の生活を見られるだけでも、特別なことじゃないか」と考えた。

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映画では、シャロンがパーティーに出かけたり、街で本を買ったり、自分の出演している映画を観に行ったりする。劇場の入り口で出演作『サイレンサー第4弾/破壊部隊』のポスターを見て嬉しくなったシャロンは、「私、この映画に出てるんです」と、”顔パス”をねだったりする。こんなキュートな出来事は、マーゴット・ロビーにも身に覚えがあるという。ニューヨークのタイムズ・スクエアで、出演ドラマ「PAN AM/パンナム」(2011-2012)の広告を見つけて、通行人に写真を撮ってくださいとおねだりした経験があるそうだ。「あの広告と一緒に撮って」と頼んでも、「何で?」と不思議に思われたのだとか。

タランティーノにもあった。脚本を務めた映画『トゥルー・ロマンス』(1993)をデートで観に行った時に、「僕が書いた映画だから、タダで入れるかも」と。マネージャーとガールフレンドが劇場に交渉したが、初めは信じてもらえず、運転免許証を見せてタランティーノの名を証明しようとしたらしい。「別にお金に困ってたわけじゃないですよ。(シャロンの)”私、この映画に出てるんです”というのも、75セントが惜しいんじゃなくて、誇らしい気分になっているだけです」と解説する。(ちなみにその後、タランティーノは無料で通してもらえた。)

ところで『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』には、マーゴット・ロビーにも匹敵するほどの才能溢れる女優が、キュートで逞しい存在感を放っている。弱冠10歳の子役、ジュリア・バターズだ。

天才子役演じる天才子役

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

ジュリアが演じるのは、リックに役者としての自信を取り戻させる小さな共演者トルーディ。劇中では、リックに「プロの役者とは」を語ってみせたり、「私が人生で見た中でも最高の演技だった」とリックの耳元で囁いたり、やたら大人びた子役という設定。ジュリア自身も大人顔負けだ。囁きのシーンでの台詞については「私の本音です。”どうしよう、レオナルド・ディカプリオの耳元で囁くなんて”っていう感じじゃなくて、”友人の耳元でこれを囁いて聞かせればいい”という感覚でした」と言っている。また、ディカプリオがジュリアを「若い頃のメリル・ストリープのようだ」と評すると、何故か「ジュリアは若い頃のメリルを演じる」との誤報が生じたことがあった。この時ジュリアは「当時彼女は20歳だけど、私は10歳だよ!」とツッコミを入れたりしている。

劇中同様、既に確固たるプロ意識が宿っている。ディカプリオと対話する大事なシーンでは、ディカプリオが涙を流す傍らで、セットに迷い込んだアライグマが視界に入り込んだ。「角を曲がって、キョロキョロして、大あくびしてどこかに行きました。」その折にも、「笑わないようにしました。きちんとテイクを撮りたかったからです」と徹底的。ほか、本編からカットされたシーンについて聞かれても、「ネタバレしたくないので言えません」とキッパリ断っている。

好きな映画に『JAWS/ジョーズ』(1975)『雨に唄えば』(1952)『プロデューサーズ』(2005)を挙げるという、およそ10歳の少女とは思えない趣向の持ち主だが、子供らしい一面もある。「最近一番楽しかった出来事」を聞かれて、「さっき、猫カフェでインタビューを受けてきたんです。猫にまみれてきました」と答えた。自宅では瞳のない猫を飼っているというが、インタビュアーに「どうやって餌を食べるんですか?」と驚かれて、「いやいや、普通の猫ですよ。盲目の子猫ってすごく誤解されますよね。」うーん、やっぱり達観している。

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ちなみに、タランティーノが脚本執筆中につけていたテレビにたまたまジュリアが登場していたことから、彼女のオーディションが組まれた。オーディションは大笑いに包まれたという。後日タランティーノのオフィスに呼ばれたジュリアは「この映画で君のキャラクターを書いているんだよ」と告げられたそうだ。タランティーノは彼女とキャラクターを相当気に入ったようで、以降の展開を組み直してまでトルーディを登場させた。

ブルース・リーも登場、豪華絢爛のスターたち

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

1969年当時を彩った人物として、注目の共演者は他にもたくさん登場する。中でもブルース・リーはひとつの目玉だ。演じるのは、リーを「神」と崇めるマイク・モー。ブルース・リーに憧れて武術を始めたというマイクが本作の役を掴んだのは、役者としてのキャリアが花開かず、諦めてウィスコンシンに引っ越して自分の道場、Moh’s Martial Artsを開いた矢先のことだった。本読みに参加した時、マイクは共演者について知らなかった。そのため、続々と部屋に入ってくるスターたちを見て、たまげた様子だったという。この時のマイクの様子を、タランティーノは「自分はビビっていないぞと、平然を装おうとしていた」と笑いながら振り返っている。

マイクが驚いたのも無理はない。彼の目の前に現れたのは、ディカプリオ、ピットやマーゴットだけでなく、アル・パチーノや、生前のバート・レイノルズルーク・ペリーもいたからだ。

バートは、劇中で描かれる1960年代の、まさに証人だった。マンソン・ファミリーの支配するスパーン映画牧場のオーナー、ジョージ・スパーン役で出演する予定だったが、2018年9月に亡くなったため叶わなくなった(同役はブルース・ダーンが引き継いでいる)。バートの出演作を観て育ったというピットは、憧れのスターと会えて感激していた。「リハで2日間一緒になって、彼と一緒に映画の話もできました。よく、憧れの人には会わない方が良いと言われますが、それでも彼はやっぱり丁寧で優しくて、それにめちゃくちゃ面白い方でした。」そんなバートから、ピットらはひとつのセリフを預けられてもいる。クリフが自分はリックのスタントマンだと伝えた後、ブルース・リーが「その割に きれいな顔だ」と言う台詞があるが、これはバート・レイノルズの考案によるものだ。

『ビバリーヒルズ青春白書』(1990-2000)で知られるルーク・ペリーは、本作が遺作となった。タランティーノはルークにいくつかの役を検討していたが、ルーク自身が「西部劇に出たいです!」と希望したことから、西部劇ドラマ「ランサー」でリックと共演する実在の俳優ウェイン・マウンダー役を演じることになった。本作を通じてルークと仕事や人生について語り合うことができたというディカプリオは、「自分が10代の頃、彼がテレビで『ジェームス・ディーンの再来』と言われ、みんなが夢中だったことを覚えています」と惜しむ。

忍び寄るマンソン・ファミリーの悪夢

まさに豪華絢爛のオールスター・キャストで再現する1969年のハリウッドに、”ヘルター・スケルター”が、マンソン・ファミリーの影が忍び寄る。実際のところ、タランティーノはこの映画でマンソン・ファミリーを描くべきかどうか、そうとう悩んだという。日本人にとっても、誰もが”嫌な事件”として共通の認識を持つ出来事はあるが、シャロン・テート殺人事件は、まさにアメリカ人にとってのそれだ。

「(事件を描くことについて)挑戦することはできるが、うまくできないかもしれない。駄目な感じ、日和見的になってしまうかもしれない。そんな気はしていました。」本当にマンソン・ファミリーを描きたいのかどうか、かなり熟考したタランティーノは、「これを止めれば、この映画をもう5年早く仕上げることもできた」と打ち明ける。それどころか、結論が出ずに「このプロジェクトを手放しかけていた」と言うほどだ。

結果として、タランティーノはリスクを選んだ。「ページを書き終えたとき、やってやったぞと思いました。もしも書くだけ書いてうまくいかなかったら、おそらくこの映画は撮っていなかったと思います。」映画では、ドラマ「マインドハンター」でも同じ役を演じたデイモン・ヘリマンがチャールズ・マンソン役を務めた。

こだわりの男、タランティーノ

フィクションのリックとクリフが、現実にあった凄惨な事件と交わる瞬間。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、その交点をひとつの映画的頂点として物語を進めていく。「彼らは実在しないし、これは映画なんです。だから何だってできる。それが信じられるようなものである限りは。これはファンタジーなんですよ。」(タランティーノ)昔々、ハリウッドで……。これはタランティーノ流のファンタジーであり、おとぎ話なのだ。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』ジャパンプレミア レッドカーペット
© THE RIVER

超がつくほどのアナログ人間、連絡にはEメールを使わず、電話か留守電メッセージにこだわり続けているタランティーノは、今作の撮影にも携帯電話の持ち込みを禁じた。ジェームス・ステイシー役で出演したティモシー・オリファントは、こんな風に証言している。「携帯は禁止。(使ったら)クビ、お家に帰ることになります。」「どうしても電話をかけたい時は、通りまで出てかけるんです。」

その理由は、現場の全員で一丸となって映画作りに集中するためなのだが、ネタバレ漏洩を防ぐ役割も果たした。なにせタランティーノは今作の秘密管理にはとりわけ気を使っており、出演者が脚本を読むのに許された場所はタランティーノの自宅のみだった。みんなで回し読みをしたので、ピットが「2回目に回って来た時はコーヒーのシミやパスタソースがついていた」と報告すると、タランティーノは「生き物みたいだね!」と面白がっている。

それから、カンヌ国際映画祭では「本日皆さまがご覧になるような形で、何事も事前に明かされることなく、これから観られるお客様にもこの映画を楽しんで頂きたいと思っています」と、「ネタバレ自粛」を呼びかける手紙も公開している。

この映画を、誰もが楽しめるように。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が、タランティーノの膨大な映画知識が存分に注ぎ込まれた作品であることは間違いない。「映画に詳しい人じゃないと楽しめないのかな」と懸念されるかも知れない。そう尋ねられたタランティーノは、「僕が書いた本を若い人に読ませると、固有名詞が出てくるごとにいちいちググるから、読みきれない」と苦言を呈する。つまり、「僕が話に登場させた人物を全て知っている必要はないんです」、と。「映画本を読む時は、これを書いた人は僕よりも色々知っているんだろうなぁと思っています。」それくらいの加減でいいのだ。タランティーノの映画は海水浴のようなもので、”ネタ”が波の如く押し寄せてくることもある。波乗りしたり、本気泳ぎをしたいなら、それも結構だ。でもたいていの観客は構えずに身を委ね、ゆらゆらと心地よく浮かんでいればいい。観客を溺れさせるような真似を、タランティーノは決してしない。それに、ここまで記事を読んだなら、少なくとも浮き輪は手に入れたようなものでしょう?

最後の映画スターと共に

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

かねてより監督作を10本撮ったら引退すると公言しているタランティーノにとって、本作は通算9作目。ところが、一時は「評判が良ければ、もう10本目は撮らないかも知れません。これで終わりかも」とか、「もう映画では全てを出し尽くしました」なんて言っていたこともあった。(その後、10本目は撮ると決意を改めている。)

ともかく、タランティーノがそれほどの覚悟を込めて全てを出し尽くしたと言える集大成こそ、この『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』だ。そんな渾身の一作の主演に選ばれたのが、「最後の映画スター」と評される、レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットなのである。

本作がワールド・プレミアを迎えた日、米The Hollywood Reporterはディカプリオを「レオナルド・ディカプリオはいかにしてハリウッド最後の映画スターになったのか」という記事で讃えた。あのマーティン・スコセッシが「レオは生まれながらの銀幕俳優。無声映画にも出られる。あの表情と、あの目線があれば、何も言わなくても成立する」と評したエピソードなどを紹介するこの記事は、「ハリウッドは人を変えてしまうが、しかしレオのことは変えなかった」と締めた。

ブラッド・ピットについても、タランティーノはスティーブ・マックイーン並と評している。「映画スターが持つ、かっこよさと男らしさ。彼にはそれがある。そんな魅力を持っている、最後の世代の役者だ。」

天変地異の音が響いている。その音を心地よいとするか、不気味とするか、今ではまだ分からない。2019年の現在では、文化的な地殻がうごめいている。ストリーミング・サービスの台頭が、映画業界を揺さぶり動かしているのだ。

この2人も、ある世代における「最後」である自覚を持っている。特にピットは、最近では自身が率いる映画制作会社Plan Bとして製作側に回ることが多いが、これは彼が映画業界を「若い人たちのもの」だと見ているからだ。

「最後の映画スター」である2人は興味深いことに、共に「(時代遅れな)恐竜」という喩えを用いている。ピットはストリーミング・サービスがもたらす恩恵に感謝するとしながらも、「自分は、気づかないうちに恐竜になっているのかも知れません。もしかしたら、隕石が近づいているのかも」と危惧。ディカプリオは、昔ながらの手法で撮影した本作を振り返って「ちょっと恐竜的かも」と口にしている。ストリーミング時代に突入した今、映画時代の最後のスターがあえて時代の変化に抗うような……、まるで、彼ら自身がリック・ダルトンそのものではないか。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

「人生でいつか、ハリウッドを描く映画を作りたいと思っていました。」タランティーノにとって、その時は今しかなかった。映画という文化が移り変わる1969年を切り取った映画を、映画という文化が移り変わる2019年に観せてくれるのだ。こんな離れ業をやってのけることができるのは、誰よりも映画を愛するタランティーノ以外にいないだろう。

タランティーノの現場には、ある「お決まり」がある。テイクを撮ってから、「もう1回撮ろう」「なぜ?」と呼びかけて、現場の全員でこんな掛け声をあげるのだ。

“Because We Love Making Movies!”

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映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、2019年8月30日(金)公開。

監督・脚本:クエンティン・タランティーノ
出演:レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、エミール・ハーシュ、マーガレット・クアリー、ティモシー・オリファント、ジュリア・バターズ、オースティン・バトラー、ダコタ・ファニング、ブルース・ダーン、マイク・モー、ルーク・ペリー、ダミアン・ルイス、アル・パチーノ
公式サイト:http://www.onceinhollywood.jp/
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Source:Empire,IndieWire,IndieWire(2),IndieWire(3),Uproxx,BusinessInsider,Collider,Collider(2),Vanity Fair,Vanity Fair(2),Entertainment Weekly,Entertainment Weekly(2),MTV News,TODAY,BBC Radio 1,Cheatsheet,Variety,Variety(2),Vulture,GQ,TIME,Metro UK,MSN,THR,THR(2),Deadline,Deadline(2),

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER編集長。ライター、メディアの運営や映画などのプロモーション企画を行っています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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