【特集】『ローグ・ワン』実現しなかった3つのアナザー・エンディング ─ 設計図リレー、コルサント、カーボンフリーズ
「だけどギリギリのところで、彼らは脱出ポッドで逃げ出してる。そのポッドが、まるで破片の一つみたいに見えているんです。」
こうしてジンとキャシアンは無事に生存し、その手に握られたデス・スターの設計図も反乱軍のもとに無事回収された、というわけだ。なるほど、これなら確かに完成版よりもずいぶん“ハッピー”な終わり方だといえるはずだ。
アナザー・エンディング② コルサントへの脱出
原案を執筆したジョン・ノールによると、『ローグ・ワン』のアナザー・エンディングにはジンとキャシアンがコルサントへ逃亡するアイデアもあったという。そういえば、アーソ家がかつてコルサントにいた可能性が高いことが以前指摘されていたが……。
こちらのエンディングも、アナザー・エンディング①と同じく、ジンとキャシアンがデス・スターの設計図を入手した後、反乱軍の宇宙船でスカリフを離れるという展開を迎える。ところが違うのは、このバージョンに登場するダース・ベイダーは異様にしつこく、何度ハイパースペースに突入しても追いかけてくるということだ。ジンとキャシアンの乗る船は大きなダメージを受け、これ以上は無理だと二人とも悟るのだという。絶望的すぎる!
「最後のジャンプで、二人はコルサント周辺の交通に紛れ込もうとする。ものすごい数の船がいるんですよ、何万もの船がやってきては出ていくんですから。しかし、二人は失敗する。コルサントから一時間ほど飛んで、船はさらにダメージを受ける。そんな時、彼らはコルサントを出発したレイアの船を見つけるんですよ。レイアはオルデランへの外交任務の途中で、ジンとキャシアンは、レイアが反乱軍のため極秘で動いていることを知っている。そこで二人は、その事実が明るみに出るリスクを負って、設計図を彼女の船に送るんです。通信がベイダーに気づかれないことを願いながら。」
しかしその望みもむなしく、設計図の通信はベイダーに気づかれてしまう。そこでジンとキャシアンは、ベイダーがレイアを捕らえないとしても、自分たちが帝国の拷問を受けるだろうこと、そして反乱軍の秘密を悟られてしまうこと、それが反乱軍の崩壊に繋がることを理解するのだった。そして二人は、自分たちの命もろとも船を爆破する道を選ぶ……。しかしこれ、完成版の方がぜんぜんハッピーエンドでは?
アナザー・エンディング③ 二重スパイとカーボンフリーズ
ノールが語ってくれたもうひとつのアイデアは、これまた完成版とは根本の設定から異なるものだ。
なんでも、そのバージョンではキャシアンが二重スパイで、帝国軍から反乱軍に送り込まれたという設定だったらしい。しかしキャシアンは、反乱軍としての活動を続けるうちに、デス・スターが実在すること、それが虐殺のために造られていることを知るのだった。同時に彼は、これまで嘘を教わってきたこと、自分が間違っていたことに気づく。その結果、キャシアンは帝国軍から反乱軍へと寝返り、仲間たちを生かそうと考えるようになる……。
「彼ら(反乱軍)の船にはカーボンフリーズ(炭素冷凍)爆弾が積まれています。キャシアンはみんなをエアロックに入れて、“俺がこれを起動すれば、みんなが助かるんだ”と言う。ベイダーが攻撃を仕掛けてきて、(キャシアンの)船が爆破される瞬間、彼はカーボンフリーズ爆弾を起動してみんなを凍らせるんです。するとベイダーの船からは生体反応を検知しなくなって、全員死んだと思われる。ベイダーたちは“設計図の送られた船はどこだ?”と言って、再び出発する。つまり、ヒーローたちを映画から退場させるつもりだったんですよ。だから彼らは帝国にもジェダイの中にもいなくて……つまり、まだ凍ってるんですよね。」
なぜ採用されなかったのか?
今回紹介した3つのアナザー・エンディングは、いずれもストーリー上とても理にかなった結末だ。脱出ポッド、コルサント、カーボンフリーズと、これまでシリーズに登場した要素も巧みに取り入れられており、『スター・ウォーズ』シリーズの“アナザー・ストーリー”としても非常によく練られているといえるだろう。
しかしこれらの設定とエンディングは、検討されながらも映画には採用されなかった。なぜだろうか? ゲイリー・ウィッタは、「宇宙空間での設計図リレー」の末にジンとキャシアンが生き残るというアイデアを諦めた理由をこのように述べている。
「彼らを生かすため、こんなに多くの手順を踏まなきゃいけないこと自体、脚本の神様が“彼らを生かしておくのは難しいね”って言っているようだったんです。だから彼らは(スカリフの)地上で死ぬべきだと決めました。(この映画は)そういう終わり方なんだと思いましたよ。」
少なくとも筆者は、『ローグ・ワン』のエンディングは完成版のものがベストだったと考えている。ストーリーがシンプルにまとまっていることで、『ローグ・ワン』という一本の映画としての独立性が高まっているほか、追加された要素を自ら丁寧に削ぎ落としてもおり、むしろ『スター・ウォーズ』シリーズにうまくフィットした印象があるからだ。