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結局「シークレット・インベージョン」とは何だったのか? ─ 『マーベルズ』で触れられなかった出来事

シークレット・インベージョン
(C)2023 Marvel

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)『マーベルズ』が劇場公開を迎えた。興行収入MCUワーストという不名誉とは裏腹に、作品自体は快活で愛らしく、マーベル映画がもともと得意としていた娯楽性を思い出させる爽やかな映画だ。

新チーム“マーベルズ”のメンバーであるキャプテン・マーベル/キャロル・ダンバースは『キャプテン・マーベル』、ミズ・マーベル/カマラ・カーンは「ミズ・マーベル」、モニカ・ランボーは「ワンダヴィジョン」から、それぞれ続編的な物語をもって集合。この複雑さが観客の足を遠ざけたのではとの仮説はごもっともだ。一方、コアなファンはドラマ作品が大スクリーンに合流していく様を見られる醍醐味もある。

しかし、『マーベルズ』でもうひとりの重要キャラクターとなったニック・フューリーが抱えているはずの「シークレット・インベージョン」での出来事は、『マーベルズ』劇中では全くと言っていいほど触れられなかった。これによって、元々厳しい評価だった「シークレット・インベージョン」は、結局何のために製作されたのかという見方が強まることとなった。

シークレット・インベージョン
「シークレット・インベージョン」 © 2023 MARVEL.

ドラマ「シークレット・インベージョン」を未見の方のために、ネタバレありきで何が描かれたかを説明しよう。主人公はニック・フューリーで、擬態能力を持つスクラル人の密かなる地球侵略計画を食い止めるための戦いが描かれる。

本格派のサスペンスや、ポリティカル・スリラーとして期待されていたシリーズだったが、蓋を開けてみれば、ポリティカル・スリラーと言うには深みがなく、マーベル作品としてもスペクタクルに欠ける、煮え切らないシリーズだった。

ドラマ「シークレット・インベージョン」と映画『マーベルズ』の内容に触れています。

シークレット・インベージョン
© 2023 MARVEL.

このドラマでニックは老いて疲弊した人物として登場し、敵対派閥のスクラル人が政治にも密かに介入していることに気付き、誰にでも化けられる敵の予測不能さに翻弄されていく。ドラマの第1話では、古参キャラクターのひとりとしてファン人気の高かったマリア・ヒル(コビー・スマルダーズ)がフューリーに擬態したスクラル人によって射殺される。

また、『キャプテン・マーベル』にも登場したニックの旧友タロス(ベン・メンデルソーン)も戦闘で命を落とす。ウォーマシンことジェームズ・“ローディ”・ローズ(ドン・チードル)も、過去作のある時点から(一説では『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』での負傷時からずっと)スクラルに擬態されていたことも明らかになる。

シークレット・インベージョン
© 2023 MARVEL.

「シークレット・インベージョン」のラストでフューリーは、長年複雑な関係にあったスクラル人の妻ヴァーラと愛情を確かめ合い、そのままS.A.B.E.R.の宇宙ステーションに向かった。クリー人とスクラル人との和平交渉が始まるという。一応のところ、ニックの物語が『マーベルズ』に続いていくことを示唆する結末だった。

ここでフューリーは、ヴァーラをスクラル側の外交官に任命している。しかしながら、ヴァーラは『マーベルズ』で一切姿を見せない。「ミズ・マーベル」カマラの家族にスクリーンタイムがたっぷり与えられたのとは対照的だ。ヴァーラはいったいどこに行ったのだろうか?

シークレット・インベージョン
© 2023 MARVEL.

そもそも「シークレット・インベージョン」は、かつてニックとキャロルとがスクラル人に移住先を提供することを約束しておきながら、それを果たせなかったために過激派のグラヴィクが地球乗っ取りを画策するという物語だった。一方、『マーベルズ』ではスクラルの難民コロニー・タルナックスが登場し、それなりの人口が暮らしていることが描かれる。また、キャロルの友人ヴァルキリー(テッサ・トンプソン)が助っ人で登場すると、スクラルの難民たちをニュー・アスガルドにあっさり迎え入れる。これは、「シークレット・インベージョン」グラヴィクのプロットから焦点を奪ってはいないだろうか?

ニックはマリア・ヒルやタロスを失い、喪失感と共に『マーベルズ』に移ったが、亡くなった友人たちについて触れられる様子はなかった。「シークレット・インベージョン」での悲劇や苦渋などすっかり忘れてしまったかのように、『マーベルズ』ではコメディ・リリーフのような役回りとなり、宇宙ステーションのトラブル解消や、猫ちゃん軍団を捕まえるために奔走した。かろうじてドラマから引き継いだ設定といえば、スクラル人とクリー人の和平交渉が始まったということくらいだろう。

マーベルズ
© MARVEL 2023.

「シークレット・インベージョン」の製作費は2億1,160万ドルと伝えられており、これは並の大作映画と同等だ。にもかかわらず、ディズニープラスでの視聴者数記録はMCUワースト2位。製作中にはスタッフ間で揉め事も起こったといい、スケジュール遅延や再撮影が生じてコストがかさんだ。Rotten Tomatoesでの批評家スコアは、マーベル・スタジオのドラマシリーズとして最低となっている。

シークレット・インベージョン
© 2023 MARVEL.

もしも「シークレット・インベージョン」が今後の映画につながるとすれば、『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』『サンダーボルツ』になるだろう。この2作では、ハリソン・フォード演じるサディアス・“サンダーボルト”・ロスが米大統領として登場。「シークレット・インベージョン」リットソン大統領によるスクラル人殲滅・追放宣言が失策と見なされ、ニックが予見したように一期限りで退任し、ロス大統領に交代されるという展開は十分あり得そうだ。深読みをすれば、リットソンの対スクラル政策は現実世界におけるドナルド・トランプ米大統領の移民取締政策の写し鏡となり、ロス大統領政権はバイデンを参考に描かれるかもしれない。

シークレット・インベージョン
© 2023 MARVEL.

『マーベルズ』の米オープニング興収がMCU最低となる結果を受けて、マーベル・スタジオは「ディズニープラスのドラマ視聴前提」の映画のあり方を見直すかもしれない。そうなれば、もともと視聴者数の少なかった「シークレット・インベージョン」には、ますます触れづらくなるだろう。ところでスーパースクラルの能力を得たガイア(エミリア・クラーク)も事実上の“ひとりアベンジャーズ”状態となっており、映画に登場すれば多くの観客を困惑させることになってしまうのではないか。まさかドラマ自体が“シークレット”の扱いになってしまうとは、誰も望んでいないはずだ。

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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