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【特別企画】杉山すぴ豊さん✕THE RIVER編集長『アメコミ・ヒーロー大考察』徹底対談!

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スーパーヒーローものにおける“リアリティ”

「ブルース・ウェインはバットマンでいるときが本当の自分」

中谷:DCの神話のような描き方も良いですよね。マーベルとどちらが良いか、という話ではなくて。

杉山氏:良いですよね。DC映画は原作ファンじゃないと辛い部分はあるものの、ザック・スナイダーのドーンとした重厚感は好きですね。

中谷:好きな人にはたまらないですよね。ザック・スナイダーは「いかにカッコいい映像を見せるか」というのが上手な人ですよね。『ウォッチメン』や『300』もそうでしたけど。

杉山氏:異論はあるかもしれないんですけど、『アイアンマン』はトニー・スタークの映画だけど、映画版バットマンはブルース・ウェインの映画ではないですよね。アイアンマンはトニー・スタークでいるときが本当の自分で、ブルース・ウェインはバットマンでいるときが本当の自分だという気がするんです。

中谷:確かに。『マン・オブ・スティール』のクラーク・ケントも、”世を忍ぶ仮の姿”のようなところがあるかもしれないですね。

杉山氏:そういう描き方の違いも面白いですよね。

中谷:ドラマの『フラッシュ』なんかは、バリー・アレンの普段の姿もじっくり描いてて面白いです。

杉山氏:DCのドラマ、面白いですよね。

中谷:面白いですよね!なんか、DCのドラマは明るくてマーベルっぽいし、マーベルのNetflixドラマはシリアスでDCっぽいなぁと思いました。

Netflix/マーベルの異端さ

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中谷:Netflixの『デアデビル』は『ダークナイト』に通ずるところがありますよね。

杉山氏:ですよね。Netflixのドラマ・シリーズって、映画と違って13時間くらいあるから、物語をじっくり描くことができる。

中谷:しかもネット配信限定だから、バイオレンス描写とか普通に入れてきますよね。

杉山氏:マーベルとは思えないくらいダークでしたね。

中谷:『デアデビル』のキングピンも、彼なりに街のことを想ってるんですよね。アル・カポネじゃないけど、「なぜ私はこんなに責められるんだ」みたいな。ヒーロー側には、パニッシャーという正義感の危うい輩が入ってきて、正義の境界線がよけい曖昧になっていくという。

杉山氏:パニッシャーは自分をヒーローだと思ってないから、自分の顔を隠さないんですよね。シーズン2では、エレクトラが出てきてからちょっとスーパーヒーローものっぽくなったけど。

中谷:Netflixのマーベルドラマって異端ですよね。ハンディキャップの話が出てきたり、暴力も過激だし、LGBTも描かれて、『ジェシカ・ジョーンズ』ではセックスシーンもガッツリあって。

杉山氏:『ジェシカ・ジョーンズ』は、ヴィランのキルグレイブが“普通の人”っていうのが怖いですよね。宇宙人とかよりタチが悪い。

アメコミキャラと日本文化

中谷:『デアデビル』はニンジャと戦うんですよね(笑)。ニンジャがビルの壁を駆け上がってきて、手裏剣とか投げつけてくる。また間違った日本が出てきたよ、って笑って観てましたけど(笑)。

杉山氏:ありましたね(笑)。『スーサイド・スクワッド』でも、カタナに追い詰められてるヤクザの日本語が気になったり。

中谷『スーサイド・スクワッド』で福原かれんさんのカタナが嬉しかったのは、あのメンツの中で1人だけ“日本のノリ”をやってたところですね。戦う時に「ヤァー!」とか「エェーイ!」とか、日本のアニメのノリですけど、やっぱり日本のキャラクターってああいう掛け声を出しますよね。それをアメリカのアイツらの中で、あんなにカッコよくやってくれたのが誇らしくて、メチャクチャ嬉しかったです。

杉山氏:剣道で「面」って言わないと点にならない、みたいな文化がありますよね。ディアブロは「ディアブロファイヤー」って言わないですからね。黙って火を出す。

中谷:日本のヒーローは「ライダーキック」とか必殺技を叫ぶじゃないですか。だから、日本製のゲーム『マーヴルvsカプコン』だとアメコミヒーローがみんな必殺技の名前を言うんです。キャプテン・アメリカがシールドを投げる時に「シールド・スラッシュ!」って言ったり、スパイダーマンが糸出す時に「ウェブボール!」って言ったり。あれも日本的ですね。

杉山氏:日本側が「昇竜拳」とか言いますからね。
『マヴカプ』といえば、『マーヴルvsカプコン3』の開発途中に、いきなりマーベル側から「このタヌキ(ロケット・ラクーン)を出してくれ」って言われて、スタッフがみんなびっくりしたんですって。何だこのタヌキは、って(笑)。その頃から映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』が決まってたんだろうと。「キャプテン・アメリカのコスチュームをこうしてくれ」っていうオーダーもあって、それも映画のデザインに合わせたんだろうって。

中谷:へぇー!あのゲームの日本のアメコミカルチャーへの貢献度ってすごいですよね。

杉山氏:すごいんですよ。20世紀フォックスさんが映画『X-MEN』の公開のときに、「X-MENを何で知りましたか」って調査をしたんですけど、『マヴカプ』だった人が圧倒的に多かったそうです。

ちなみにX-MENっていえば、プロフェッサーXっていますけど、スキンヘッドで車椅子に乗った初老の男が地上最強って、よく考えるとすごいですよね。デアデビルも盲目だったり。

中谷:マーベルはダイバーシティをよく描いていますね。

杉山氏:だからスタン・リーって本当にすごいんですよ。今でこそ普通になっていますけど、あの時代に16歳のオタクの少年がヒーローになるとか、黒人がヒーローになるとか、車椅子の人がヒーローになるとかっていう話を描いていたわけですから。

中谷:あの時代に、っていうのがすごいですね。

スーパーヒーローと社会、ポップカルチャーとテクノロジー

杉山氏:スーパーヒーローものって人間の理想論を描くのに最適なんですよ。スーパーヒーローものを綺麗事だって言う人は多いんですけど、そうじゃなくて、理想をちゃんと描くことに意義があるんです。

中谷:道徳的な在り方でも、スーパーヒーローもののようなフィクションやポップカルチャーが先なんですね。
昨年(2015年)の12月に、東京コミコンのキックオフイベントに呼んでいただいて、そこでAppleのスティーブ・ウォズニアックがスピーチしてたんですけど。「ポップカルチャーとテクノロジーは表裏一体だ」って言うんですね。今のテクノロジーを開発しているエンジニアたちはみんな週末にポップカルチャーを楽しんでいて、映画やコミックに登場する理想のテクノロジーを現実で実現させようと開発に打ち込んでいるんだと。先に理想があって、そこに現実を近づけていく。それをウォズニアックが語っているというのに感銘を受けました。

杉山氏:そうなんですよね。人間は想像できないものは実現できないですから。

中谷:ジョージ・ルーカスの言葉にもありましたね。

杉山氏:テクノロジーとポップカルチャーの関係性ってすごく密接なんですよ。新聞の輪転印刷機が発明された時に、新聞だけじゃもったいないから雑誌が生まれて。次に、文字ばっかり印刷しても仕方ないということで、コミックが生まれたんですね。当時のヒーローが赤や青のコスチュームなのは、それが当時の印刷技術で一番綺麗に出る色だったからです。有名な話で、スタン・リーはハルクを最初灰色にしたかったんですけど、灰色が一番うまく出なくて、印刷ミスで緑になってから、ずっと緑のままなんですね。印刷技術の発達と一緒にヒーローのコスチュームも進化しているんです。

“ガール”と“ウーマン”の違い?

中谷:ちなみに杉山さんが今後の映画ラインナップで期待している作品はなんですか?マーベル・DC含めて。

杉山氏うーん、スパイダーマンが大好きなので、マーベル・シネマティック・ユニバースに入った『スパイダーマン:ホームカミング』がすごく楽しみです。スパイダーマンってヒーローの中では若造扱いですから、大人たちの中で、彼の目線をどう描いていくのかを早く観たいですね。

それから、『キャプテン・マーベル』と『ワンダーウーマン』はどうなるんだろうっていうのもありますね。今までの女性ヒーローものって、男性目線で描かれることが多かったですけど、今回はもっと女性が観ても楽しめる内容になるのかなと思います。『ワンダーウーマン』は女性監督ですしね。(補足:映画『キャプテン・マーベル』も女性監督になるとされている。)

中谷:女性が憧れる女性ヒーローってどういうものなんでしょう?男はスーパーヒーローに自分の憧れを重ねて観ることがある気がするんですけど、女性の支持率が高い女性ヒーローってどんな感じなんですかね。

杉山氏:どうなんでしょう。ハーレイ・クインは単純にカワイイから好きっていう方は多いですよね。

中谷:あぁそうか、ハーレイ・クインがいた。

杉山氏:ファッション性もありますよね。まぁ、セーラームーンが好きな女の子、みたいなこともあると思うんですけど。

あと、子供の頃にスーパーガールとワンダー・ウーマンを見て、“ガール”と“ウーマン”の違いってこういうことなんだ、っていうのをなんとなく思いましたね。

中谷:どんな違いですか?

杉山氏:なんとなく、スーパーガールって「初恋の相手」みたいなイメージなんですよ。でね、ワンダー・ウーマンは「憧れの年上の女性」みたいな。
だから、男の子にとって幸せなのは、クラスメイトにスーパーガールがいて、ちょっと不良の女の子でハーレイ・クインがいて、保健室の先生がワンダー・ウーマン。これが男の子にとって最高の状態ですよね。

中谷:最っ高ですね(笑)。

杉山氏:で、英語の先生がブラック・ウィドウみたいな(笑)。

中谷:あぁー、もう無遅刻無欠席で行けますね(笑)。

杉山氏:やっぱり付き合うならスーパーガールがいいなって。

中谷:たまにワンダー・ウーマンのところに相談行くみたいな。

杉山氏:ですね。ワンダー・ウーマンって永遠に「年上の女性」のイメージがあって、“ガール”と“ウーマン”の差ってそこだなって思います。

杉山氏の語る「アメコミの素晴らしさ」

杉山氏:例え話の続きでいくと、たとえば火事があった時に、中にいる人を救出しようとするのがスパイダーマンで、それが放火なら犯人を捕まえるのがバットマンで、「放火犯は許せねぇ」って殺しちゃうのがパニッシャーなんですよね。スーパーマンは地球規模の隕石による火災とかじゃないと出てこない(笑)。

中谷:あぁ?!(笑)

杉山氏:それから、スラム街でギャングに襲われてるおばあさんを助けるデアデビルと、宇宙からの侵略と戦うアベンジャーズ。どっちの正義が尊いかというと、どちらも尊いんですよね。
人それぞれに正義があるように、人それぞれにやるべき出番があって、それをやっている限りは人は尊いんだ、というのがアメコミの良いところだと思いますね。
スタン・リーは、「人間はどんな人でもヒーローになれるんだよ」ということを伝えたかったんじゃないかな。


アメコミ対談企画

杉山すぴ豊さん プロフィール

アメコミ原作映画やSF映画、ホラー映画を中心としたコラムや解説記事を執筆する日本の映画評論家、ライター(著作家) またいくつかのアメコミの翻訳本のプラニングも務める。(Wikipediaより

公式Twitter:https://twitter.com/supisupisupi

公式ブログ:https://supi.owned.media/

杉山さん、楽しい対談の時間をありがとうございました!

 

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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