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【解説】『シュガー・ラッシュ:オンライン』プリンセス集合シーンが出来るまで ─ 時代と共に進化するディズニーのプリンセス像

シュガー・ラッシュ:オンライン
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映画シュガー・ラッシュ:オンラインは、インターネットの世界を舞台に、ラルフとヴァネロペが様々な仲間たちと出会う。中でも見どころとなるのは、歴代のディズニー・プリンセスたちが一堂に会し、ヴァネロペを迎えるシーンだ。本記事では、この夢のシーンについて解説しよう。

自身が暮らすゲーム「シュガー・ラッシュ」筐体のハンドルが壊れてしまったヴァネロペは、e-bayでハンドルを手に入れるためラルフと共にインターネットの世界へ飛び込む。その冒険の中で、ヴァネロペはディズニーの公式サイトのひとつ、Oh My Disneyを訪れる。そこでヴァネロペは、ディズニー映画に登場するプリンセスたちと出会うのだった。ここでは、白雪姫、シンデレラ、オーロラ、アリエル、ベル、ジャスミン、ポカホンタス、ムーラン、ティアナ、ラプンツェル、メリダ、アナ、エルサ、モアナが一斉に登場する。

アイデアは「もしも」から

このシーンを生み出した本作脚本のパメラ・リボンが米Comicbook.comに明かしたところによると、構想を考え始めたのは、実に2014年まで遡るという。当時、まだ『モアナと伝説の海』(2016)に取り組んでいたはパメラは、「ヴァネロペだってプリンセスだ」と考えた。たとえば、「あらゆるプリンセスの中でも、私はフーディー(≒パーカーやトレーナー)を着たプリンセスだ、ラクな服でもいいじゃないか」といった自覚だ。そんなアイデアを頭の片隅に置いてたパメラは、『ズートピア』(2016)の仕事を終えると、このシーンに切り込みを入れ始める。本作のテーマであるインターネットについて製作陣と話すうち、ポイントは「メタ的」な部分にあり、プリンセス集合シーンもメタ的なものになるだろうと気付いていた。「ディズニーが自分で自分を小突くようなシーンになったら楽しいですよね」、と。

(※メタ的とはどういう意味か?少々説明が難しいのだが、通念のひとつ上の階層にある要素のことをメタという。例えば、『デッドプール』が映画の中で、物語の枠を飛び越えたギャグを言うのは、とてもメタ的だ。)

パメラは、「もしヴァネロペがプリンセス全員と会ったらどうなるか」というアイデアを広げ始める。公開版ではラルフがYoutuberのようなネット上の有名人となっていたが、初期の構想ではプリンセスと会ったヴァネロペがバズを起こすというアイデアもあったようだ。

その時パメラは、「もしヴァネロペがプリンセスに会ったら、最初に来る質問は”あなたは何のプリンセスなの?”じゃないか」と考え始めた。このアイデアの是非を友人にメールで尋ねたところ良い反応が返ってきたことから、パメラはシーンの執筆を始める。しかし…。

「シーンを書いて読んだ時、パニックになりました。床に横になって、”これ、私がクビになるか、とんでもない大事(おおごと)になるかだな”と思いました。」

パメラによれば、彼女の初稿は「読めたもんじゃない」ものだったという。どんな内容だったかは語られていないが、どうやら良い代物は書けなかったようだ。それでも、ヴァネロペがOh My Disneyの世界に飛び込んでからプリンセスたちが部屋着に身を包むという下りは、初稿からきちんと受け継がれたものだったそう。

なお、米Mashable(Mashableは劇中にもポップアップ作戦の対象先として名前が登場する)によれば、プリンセスの控室のデザインに影響を与えたものに、カリフォルニアのディズニーランド内、カリブの海賊の上にあった「Dream Suite」がある。2008年にオープンし、2014に閉業してしまっていたもので、ランダムに選ばれたゲストだけが入ることの出来る秘密の場所だった。

Oh My Disneyの世界

インターネットの世界を自由に描いた同作にとっても、このシーンでOh My Disneyを選んだことには狙いがあった。実在するこのサイトはディズニーによる公式の場でありながら、公式サイトでは取り上げないようなファン目線のカジュアルな記事やクイズなどが提供されており、ネット時代のファン・マーケティングに求められる「小回りの良さ」「親しみやすさ」から成るサイトだ。もちろんヴァネロペの行き先は、ディズニーの本家公式サイトであるDisney.comでも良かった。ただしこちらの公式サイトでは、パメラ曰く「パークやチケットみたいなものになっちゃう」、つまり少々お堅い空間になってしまう。「でも、ここ(Oh My Disney)は純粋なファンダム(=ファンの集合体)ですから。

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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