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MCU異例の製作トラブル『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』、当初は「子どもらしい映画だった」 ─ 製作から8年、監督が振り返る

マイティ・ソー/ダーク・ワールド
© 2013 MARVEL

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)において、『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(2013)は指折りの“事情あり”映画だ。最初は、のちに『ワンダーウーマン』(2017)を撮るパティ・ジェンキンスが監督に就任したが、マーベル側との意見の相違から降板。「ゲーム・オブ・スローンズ」(2011-2019)などのアラン・テイラーが後任を担うも、MCUでは稀に見る製作トラブルが生じ、大幅な再撮影・再編集が行われた。

The Hollywood Reporterでは、公開から8年が経過した今、テイラーが当時の経緯を語っている。「ゲーム・オブ・スローンズ」シーズン2の製作中にオファーを受け、テイラーは『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』の仕事を引き受けた。いわく、「ケヴィン・ファイギ(マーベル・スタジオ社長)は前作の成功点と失敗点を見極め、改革を試みていました。そこに『ゲーム・オブ・スローンズ』を足したいということで、僕が呼ばれたんです」

当初、『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』は、そのタイトルの通り、よりダークで現実的な内容になる計画だった。なにしろ、前任者のジェンキンスは「『ロミオとジュリエット』をベースに、神々と人間の戦争を描く壮大な物語を作りたかった」と明かしているのである。ただしテイラーは、よりファミリー・フレンドリーなテイストを目指したのである。

僕が最初に作ろうとしたのは、もっと子どもらしい、不思議(wonder)のあるバージョンでした。子どもの想像力からすべてが始まって、(完成版よりも)魔法の要素はもう少し多かったですね。地球に戻ってからは、おかしな展開もあって。複数の要素が集まると、マジック・リアリズムをやれますから。それから、編集室で大きなプロットの変更があり、再撮影もやりました。」

たとえば本作において、ロキは本編で一度死んだかと思われたものの、ポストクレジットシーンではオーディンに姿を変えて王座に座っている。しかし当初の脚本では、ロキは本当に死んでしまうはずだったのだ。試写の反応を受け、マーベルはロキを死なせないことを決定したのである。おそらく、ほかにも“死にっぱなし”だったキャラクターがいたのだろう。再撮影・再編集を経て、テイラーは「死んでいた人々が死ななくなり、離ればなれだった人々が再会した」と言っている。

これだけ創作に紆余曲折を経たにもかかわらず、『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』は批評家・観客からの高い評価を得られなかった。現在、テイラーは「タイカ・ワイティティやジェームズ・ガンのように、とても個人的なビジョンを貫けるスキルの持ち主を心から尊敬します」と語っている。「彼らは大企業の要求を、うまく自分のビジョンに組み込むことができる。僕のスキルは、そういうものとは違うのかもしれません」。

ちなみに、その後、テイラーは『ターミネーター:新起動/ジェニシス』(2015)でも監督を務めた。オファー当時、パートナーは『ターミネーター』ではなく「もっとパーソナルな作品をやるべき」と勧めたというが、テイラー自身はシリーズのファンだったこともあり、脚本を読むや「問題点を直せば成功する」と判断したのである。

ところが、批評家とファンは完成した映画に厳しい言葉を投げかけた。当時、テイラーは深く落ち込んだようで、「映画を作っていく、監督として生きていく気力を失いました」とまで言っている。「それは誰のせいでもないけれど、良いプロセスではなかった。映画づくりの喜びを再発見しなくてはいけませんでした」。

それから6年、テイラーは再び映画の世界に戻ってくることになった。かつて自身が参加した人気ドラマ「ザ・ソプラノズ」の前日譚映画『The Many Saints of Newark(原題)』は2021年10月1日に米国公開&HBO Maxにて米配信予定。フィルムメーカーとしての真価を、今度こそ大スクリーンで発揮できるか。

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Source: The Hollywood Reporter

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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