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『トップガン マーヴェリック』飛行体験をしたら失神スレスレで地獄を見た話 ─ 米サンディエゴで出演者と同じ本物フライトに行ってみた

トム・クルーズ主演の大ヒット映画『トップガン マーヴェリック』の舞台、米サンディエゴ。キャストたちの訓練と同じ飛行場で実際に小型飛行機に搭乗し、映画と同じ飛行体験をして「G」を体感する……。アメリカで開催されたプロモーションイベントに、この度THE RIVERは日本のメディアとして唯一参加した。

飛行機に乗り、カリフォルニアの青空を優雅に飛ぶ……。そんなお気楽な体験取材を想像して渡米した筆者は、想像を絶する激しい飛行に気絶しかけることになる。あまりの衝撃に全身一時麻痺、視界は暗転、涙は流れ、たまらず嘔吐。果たして、失神スレスレ地獄の体験取材の全貌とは。日本でたった1人の参加者が、動画と取材記の濃厚レポートでお届けする。

アメリカチームがカッコよく編集してくれたハイライト映像

本当は何があったのかを語るトーク映像

『トップガン』の街、米サンディエゴへ

2022年8月。サマーシーズンだというのに人の少ない羽田空港から飛び立って、映画『トップガン』の舞台である米カリフォルニア州サンディエゴに到着した。ロサンゼルスに次ぐ、西海岸最大の都市だ。『トップガン』の舞台となる街で、各所にそのロケ地がある。また、ポップカルチャー最大の祭典「サンディエゴ・コミコン」の開催地でもおなじみ。毎年夏になると、マリーナ地区にあるコンベンションセンター目掛けて世界中から大勢のファンやセレブが集結する。

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ここサンディエゴの中心街となるのは、国際空港から車で20分ほどにある「ガスランプ・クォーター」だ。その名の通りガス式街灯が立ち並び、19世紀の建物がそのまま残る、アンティークでロマンチックな繁華街。パブやナイトクラブが多く、夜になると若者たちが詰め寄るエネルギッシュなパーティー・ストリートへと変貌する。

今回のプログラムでは、米パラマウントからの招待を受け、ガスランプ・クォーターの一等地に位置する高級ホテル「Pendry Sandiego」のスウィートルームを用意された。イベント実施は月曜日、宿泊は日曜日~月曜日の2泊だったが、渡航決定時には既に都合の良い航空券がなくなっていたことと、わざわざサンディエゴまで訪れてわずか2泊のみで帰国するのは寂しいと思い、2泊前乗りで現地入りすることにした。

あちこち観光して周り、すっかりサンディエゴを満喫できたところで、プログラムが開始される日曜日となった。18時よりホテル会場でレセプション・パーティーがある。

Pendryにチェックインを済ませ、シャワーを浴び、身支度してルーフトップバーにたどり着くと、まずは米パラマウントのクルーたちが親切に出迎えてくれた。今回、日本からの参加者は自分1人だが、どうやらアジアからの参加者はほかにいないようだ。聞くと、合計25名のジャーナリストやインフルエンサーが参加しているという。

前日にUSSミッドウェイ・ミュージアム(航空母艦ミッドウェイをそのまま用いた巨大博物館)に訪れたことを話すと、そこは『トップガン マーヴェリック』のプレミアが開催された場所だと教えられた。「ほら、トム・クルーズがヘリコプターで現れた、あれだよ」、と。本場に来たことを改めて実感する。

空が群青の柔らかみを帯びた心地よい時間帯、ルーフトップバーには白いクロスがかけられた丸いテーブルが5台ほどと、バイキング形式のテーブルが3台あり、それぞれ配膳係が自分の仕事の出番を待っていた。建物に入るところには小さなバーがあった。パラマウントのクルーとしばらく談笑した後、バーでひとまずビールを受け取ったところで、自分はパーティーがそんなに得意ではなかったことを思い出す。とりわけ今回、自分は唯一の日本人であり、紛れもなくアウェーだ。ここは積極的に振る舞おう。既に各テーブルでは会話に花が咲き始めていたので、一番活気がありそうなテーブルを選び、「参加してもいい?」と尋ねてみると、「もちろんだよ!」と着席を薦められた。

アメリカの映画ライターたちとの交流

彼らは現地有力メディアであるIGNやCollider、ScreenRant、CinemaBlendからやってきたジャーナリストたちで、そこに日本からこうしてTHE RIVERが加わる形となった。国際色豊かな顔ぶれとなったが、しかし我々は皆、同じジャンルで同じ仕事をする同業者同士で、たちまち国を越えた映画トークが弾んだ。最近観た映画やドラマの話、印象に残った担当インタビューの話、我々の仕事ならではの「あるある」話……。

少し驚いたのは、彼らは「競合メディア」同士の間柄でありながら、既に過去のジャンケット(=取材)を通じて見知った仲で、和気あいあいとしていたことだ。日本ではあまり競合メディア同士で横の関係を楽しむ印象はないし、少なくとも僕はそういう経験がなかったから、彼らが「いついつのプレミア取材ぶりだね!」と再会を喜んで楽しそうにハグをしあう様子は羨ましかった。

中でも僕が打ち解けたのは、CinemaBlendからやって来たLawという男と、IGNのJoshという男だ。Lawはインド系の陽気な男で、よく喋る、気持ちの良い男だった。グルメが大好きで、日本に行って日本食をたらふく食うのが夢だと目を輝かせていた。Joshはベトナム系で、表情豊かな独特のオーラを持つ好青年だった。コロナ前に日本旅行をしたことがあるといい、東京や京都で撮影した写真とともに、初めて食した「つけ麺」に魅了されたという話を披露してくれた。この後、僕とLawは共に空を飛ぶこととなり、Joshとは2人で夜遅くまで飲みながら語る間柄となるのだった。

その夜、一同でホテル内のバーを2軒ハシゴしては飲み交わし、すっかり親睦を深めた後にお開きとなった。いよいよ明日は飛行の日だ。

『トップガン』キャスト訓練時と同じ飛行場へ

午前8時30分。「事前の食事はトースト一枚程度の軽いものにするように」というガイダンスを受けていたため、朝食はプロテインバーだけで済ませた。飛行場への出発直前にコロナの抗体検査を受け、陰性が確認された後、シャトルバスへ乗り込んだ。飛行場への移動は3グループに分割されたが、僕はLawと同じ「グループ1」、朝一番での出発組となった。

飛行場はSky Combat Aceという民間運営で、ダウンタウンからは車で北西に20分ほどに位置する。実は、現地に行って見るまで、どんな飛行機に乗り込むのか把握していなかった(てっきり戦闘機に乗るものだと勘違いしていた)。飛行場に到着してみると、赤や青でスポーツカーのようにカラーリングされた機体が何機も停まっていた。

『トップガン マーヴェリック』のキャストたちも、この飛行場、この飛行機で訓練していたという。後日公開された映画の特別映像では、まさに我々が滞在した飛行場でキャストたちが飛行演習に挑む姿が収められている。

チェッカー柄床の大きな2階建てオープンガレージには赤い2機が停まっている。飛行場のスタッフや撮影クルーたちが行き交う賑やかな間を通り抜け、2階のラウンジルームに入った。壁にはモニターがあり、これに向かってグレーのソファが二脚。奥にはダイニングテーブルとキッチンや冷蔵庫がある。テーブルには人数分の同意書とペンが並んでいた。飛行中に何があっても責任は負いかねるという旨のものだ。

サインを済ませた後、部屋の奥にトイレとベッドルームがあると案内された。扉を開けてみるとエメラルドグリーンの毛布がかけられたクイーンサイズのベッドがあったが、後に自分がこのベッドで瀕死状態のまま沈むとは、この時点で知る由もない。

しばらくすると、モニターを使っての飛行前ブリーフィングが始められた。Sky Combat Aceの代表リチャード・“テックス”・コーは元空軍兵であり、F-16パイロットとして複数年にわたる海外任務に従事した。現役時代、彼は1,000時間以上F-16を操縦し、300時間以上の戦闘を経験したという。熟練のパイロットであるテックスは、そうは見えないほど陽気な笑顔で、『トップガン マーヴェリック』とのコラボレーションについて楽しそうに紹介した。

おそらく飛行には様々な危険が伴うのだろうが、テックスはそれをまるで自転車の漕ぎ方のように説明した。これから我々が乗るコックピット前席には操縦桿があり、前方に倒せば機体のノーズ(先端)が下がって下降、手前に引けば上昇する。左右に倒せば、その方向に旋回。両脚のペダルを踏めば航路を左右に降る。コックピット左手にオレンジの突起ボタンがあるが、緊急脱出ボタンなので押さないように。その代わり、コックピット前方両面にはバーがあるので、通常はそこを掴んでいれば良いと。

操縦桿の親指部分には通信用ボタンがあり、押している間は一緒に飛ぶパートナー機とトランシーバー通信ができる。人差し指部分にはトリガーがあり、相手機体に仮想弾が命中すれば、煙が噴出される。そう、我々はこれから、2機同時に飛んで自ら操縦しながらドッグファイトを体験するというのだ。

えぇっ!?てっきり、コックピットの後部座席に同乗する程度のアクティビティだと思っていたぞ。ド素人の自分がいきなり操縦してドッグファイトをするって?自分が放り込まれた状況をなんとか理解しようとする一方、テックスは相変わらずの陽気さで、「後席のパイロットが“6時の方向にいる”とか指示を出すから、敵機をうまく見つけて撃ち落とせ」と説明する。相手機が進行方向を振ったら、自分も同じ航路に振って追うのがコツだという。

心配事は、乗り物酔いはもちろん、“G”耐性についてがあった。Gとは重力負荷のことだ。僕は『トップガン マーヴェリック』の取材で、伝説的プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーに直接会って一対一で話を聞いていた。日本の東京で、ジェリーは僕にこう話した。「1Gが自分の体重分。撮影では7Gが発生していましたから、つまり彼らは自分の体重の7倍の重力に押しつぶされていたんです。飛行機が上昇すれば、トムも実際に上昇している。下降する時も、旋回する時も同じです。あれは演技ではない。Gをリアルに感じていたんです」。

今回の飛行で発生するGについて、テックスは「Comfort Zone」、つまり「ほどほど」のものになると説明した。G対策として、事前にしっかり水分補給を行うと良いから、冷蔵庫に入っている水を飲んでおくようにと推奨された。

「飛行機なんて、ゲームの中でしか飛ばしたことがないよ」クリスタルガイザーのボトルを開けながら、Lawと興奮し合ううち、早速1組目の飛行準備が開始された。1組目のペアが、それぞれ機体の前で何やらカメラに向かって喋っている。飛行前のフリーコメントを収録しているのだという。しまった、何を喋るべきか、事前に国内チームで打ち合わせておけばよかった。

コメント撮りを終えた1組目ペアは安全用ジャケットを着用し、機体に乗り込んだ。程なくしてオープンガレージから移動すると、バルン、バルルルンという轟音と共にプロペラが回転を始めた。スマホのカメラで撮影してみると、プロペラはスロー回転しているように見える。やがて2機が走り出し、プロペラの音が空に消えていくのが聞こえた。

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カメラの前で何を言えば良いのか、不安になり始めていた。日本向けのプロモーションなのだから、日本語で話すべきだろうか?しかし、それでは本国のスタッフが編集に困るだろうか?結局、少しでも慣れている日本語でいこうと決意して、自分の出番はいつになるかをスタッフに尋ねてみた。そこで初めて、出番は次であり、一緒に飛ぶパートナーが偶然にもLawであることを知った。「君でよかったよ!」とハイタッチ。彼と飛べるなら、ずいぶん安心だ。

できるだけ水を飲み、何度もトイレに行き、いよいよ僕たちの出番となった。先に飛び出していったLawは流石の喋り上手で、カメラに向かってスラスラと話している。「Talk to me, Goose!」と、劇中のセリフを引用する余裕まで見せている。

お次は日本からやって来た自分の番である。ここにいる誰ひとり理解できないであろう日本語で、何度か詰まりながらもアドリブで喋ってみる。アップアップで2テイクを撮影すると、現場クルーたちは温かい拍手をくれた。彼らの親切心に救われた。

ともかく、ついに機体に搭乗することになった。安全用ジャケットを着用する。締め付けられるような感覚がある。僕の機体を操縦する添乗パイロットはミラーレンズのサングラスをかけて、「俺のことはサブゼロと呼んでくれ」と握手の手を差し出した。それが彼のコールサインだ。『モータルコンバット』で言うのなら、この日「フェイタリティ」を喰らうのは僕である。

ウイング部分をつたってコックピットに乗り込む。中は脚部が左右に分割されており、せりあがる作りになっている。車の運転席のような椅子型とは違って、やや仰向け気味に乗り込む格好だ。足元にはそれぞれ左右独立したペダルがある。目の前には操縦桿が一本だけあり、前面パネルにはタコメーターが二つと、ボウリングの玉が出るところにあるようなエアーの噴出口が二つ、クーラー代わりに設置されている。

一方、後部座席には無数のボタンやメーターが隙なく並んでいる。メインの操縦は後席で、前席は同乗や演習飛行用のようだ。

音声通信のヘッドフォンを装着する。右側からマイクが伸びていて、これをなるべく口元に近づけて話すようにと伝えられる。左手にはオレンジの脱出ボタン、前方両側には掴まるためのバーがあり、左部にはいざという時のためのエチケット袋が2つ結び付けられていた。カメラが回っている。機体に取り付けられた複数台のカメラで、搭乗中のすべての姿と発声がビデオ記録されている。「これを使わないようにしたい」と言ってみる。

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別の機体に乗り込んだLawと、笑顔でハンドサインを交わす。プロペラが回り始める。振動が伝わる。その回転音は外で聞くには豪快だが、しかしコックピット内では意外にも静かである。機体が走り出した。この時点で、機体はまだ飛行機ではなく、燃費の悪いクラシックカーのようだ。ゆっくりと滑走路に移動していく。ヘッドフォンからは、パイロットらが何やら通信している声が聞こえる。「準備は良いか」といったサブゼロの声が聞こえた。

地上にありながら、機体はぐんぐんと景色を更新してゆく。視界のほとんどに、自分がこれから飛び上がるカリフォルニアの大空が広がる。急に実感が湧いてくる。ついにこれから、『トップガン マーヴェリック』の本物の体験をするのだ!

機体は一本道の滑走路に進入した。先を走るLawの機体がふわりと飛び上がったのが見える。自分の機体も猛スピードになって滑走路を突き進んだ。すると滑らかに機体が持ち上がり、空と陸が離れるのを感じた。「飛んだぞー!すげぇー!」

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ハイウェイ・トゥ・ザ・デンジャー・ゾーン

「ペダルから足を離して。しばらく僕が操縦する」。どうやら後部操縦席の操縦桿と連動しているらしく、サブゼロが「操縦桿から手を離して」と指示すると、こちらの操縦桿がグリグリと動いた。

数分前まで所属していた地上世界が、あっという間に眼下の風景に変わった。コンクリート、土、木、畑、建物がのっぺりとした面を成し、ぐんぐん遠ざかっていく。行ったことのない、登ったことのない峰々が、日光をたっぷりと含んでシーツのように広げられている。

360°を雄大なパノラマ景色が包む。これだけコンパクトなコックピットとあって、身ひとつで飛んでいるような感覚だ。機体はグイグイと高度を上げる。誰の手も及ばない上空で、Lawの機体と横並びになる。「トランシーバー通信を試してみていいぞ!」との指示が聞こえたので、操縦桿の黒いスイッチを押して「Law、聞こえるかい?」と通信を試みた。ヘッドフォンから、「あぁ、聞こえるよ!この状況、信じられない!」とLawの応答。「僕もだよ!こんな状況、ありえない!」

するとLawの機体が、突如として逆さま飛行を始めた。映画でトム・クルーズが見せた技だ。反転したまましばらく悠々と飛ぶ機体を見て驚いていると、サブゼロが「こっちも行くぞ!掴まってろ!」と言い出した。次の瞬間、機体はギュルンと旋回飛行。その瞬間、空と陸が混ざり、平衡感覚がかき混ぜられる。まずいぞ、気持ち悪い!

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わずか4秒間の曲芸だったが、早くも体力が宙に飛散する。さらに続けて、サブゼロは方向転換のために機体を大胆に傾ける。平衡感覚が一気に狂い、あっという間に乗り物酔い状態になった。どうして酔い止め薬を飲まなかったのだろう?大好きな『トップガン』体験に興奮するあまり、初歩的な対策をすっかり失念していたことに気づくのは、飛行機を降りてからずっとずっと後のことだった。

とにかく今は、気持ちが悪いなんて言っている場合ではない。自分は日本からただ1人やってきた代表者なのだし、飛行はまさに始まったばかりだ。機内のコックピットとウイング部分、それから多分どこかわからない場所にはカメラが取り付けられていて、自分の姿はあらゆる角度から録画されている。「取れ高」とレポートを取るのが僕の使命だ。一生に一度の、この瞬間に集中しろ。

終わってから振り返ってみれば、この時の不調などまだまだ序の口ですらない。飛行はさらに過激さを増し、自分の体力はついに限界を迎えるのだから……。

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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