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【インタビュー】『アス』ジョーダン・ピール監督が語る「恐怖映画の作りかた」 ─ 『ゲット・アウト』手がけたスリラーの新旗手、クリエイティブの秘密とは

アス
©Universal Pictures

ジョーダン・ピール。今、ホラー/スリラー映画ファンを自称する者の中に、この名前を聞いたことがない人はまずいないだろう。コメディアンとしてキャリアをスタートさせ、俳優・脚本家として活動してきたピールは、監督デビュー作『ゲット・アウト』(2017)で大ブレイク。白人の恋人を持つ黒人男性が彼女の実家で味わう恐怖を描いた本作は、米国で高い評価を受け、ピールはアカデミー賞の脚本賞を手にした。

コメディ出身のクリエイターがホラーを撮り、しかもそこには社会的なテーマがしっかりと織り込まれている…。ホラー界のみならず映画界・ドラマ界、ひいてはエンターテイメント界全体に衝撃的な爪跡を残したピールが、新たに送り出す監督第2作がアスだ。このたびTHE RIVERでは、この新たなトップクリエイターに率直な疑問をぶつけてみた。いわば、これは「ジョーダン・ピール流恐怖映画の作りかた」である。

ジョーダン・ピールの見る「現実」と「ホラー」

そもそも、なぜコメディを手がけてきたピール監督はホラー/スリラーの世界に進出しようと考えたのか。“笑いと恐怖は紙一重”なんて言葉もよく聞かれるが、それにしたってジャンルを越境するきっかけは人それぞれというもの。ピール監督の場合、どうやら幼少期からホラー映画が大好きだったようだ。

「小さなころから僕はホラー映画が好きで、作品を観ては怖がって、楽しんでいたんですよね。ホラーを作る前から、いわゆる幽霊モノのストーリーを作る機会がたまにあったんですが、その時に、人を怖がらせる、そして楽しませるということに、ちょっと病みつきになってしまって(笑)。すごく楽しかったんですよ。」

アス
©Universal Pictures

ところが、“ホラーの英才教育”を自ら進んで受けてきたピール監督は、あまた作られる世間のホラー作品では満足できなりつつあった。

「8年から10年くらい前だと思うんですが、ホラー映画に満足できなくなっていました。大好きだと思える作品が、年に1~2本くらいしかなくて。だったら、自分が気に入るホラーを自分で書くしかないなと。そこで生まれたのが『ゲット・アウト』だったんです。」

『ゲット・アウト』と『アス』には、ちょっとした共通点がある。『ゲット・アウト』は黒人男性が恋人の実家に出かける物語で、『アス』は4人家族が母親のかつて暮らした我が家を訪れる物語。きわめて日常的な、誰もが経験するようなところからストーリーは始まり、やがて主人公たちはとんでもない事態に巻き込まれてゆくのだ。日常に非日常が入り込んでくるというスタイルにも、監督はこだわりを持っている。

ホラーとは、リアルに感じられるほど、より効果を発するものだと思います。僕自身、恐怖が少しずつ、ゆっくりとにじみ出てくるようなホラーの物語にこだわりがあると言っていいのかもしれませんね。リアリティを増していくことが、恐怖がゆっくりとにじみ出てくるという現象に繋がってくると思うんです。

それから僕は、現実を知ることが一番怖いと考えています。人間が想像できる範囲で、一番恐ろしい設定は“現実”ですよ。『ゲット・アウト』と『アス』では、物語に神秘的でミステリアスな要素を入れたり、示唆したりすることで、真実が明かされた時、それが想像以上に現実的に思えるというテクニックを使っています。個人的には、きちんと筋の通った、より満足できるものになるんです。」

『アス』が見せる「わたしたち」の恐怖

『ゲット・アウト』を経て注目度を高めたピール監督は、本作の製作に「より自由な心持ちで」臨んだという。次なる恐怖の題材に選んだのは“自分”。もっといえば、「自分自身という恐怖、自分自身の抱える恐怖心」だという。

物語の主人公である4人家族の母親アデレードは、かつての我が家を訪れ、そこで癒えていないトラウマを蘇らせ、ついには拭いきれない不安にさいなまれる。そしてその夜、一家4人に見た目がそっくりの、真っ赤な服を着た4人組が現れるのだ。彼らはどこまでも「わたしたち」を追いかけてくる。こちらが殺されるか、相手を殺すまで。

アス
©Universal Pictures

もちろん『ゲット・アウト』と同じく、ピール監督は本作の物語にも仕掛けを施している。しかしその内容は、ある意味で『ゲット・アウト』よりもずっと複雑で難解だ。「解釈は観客に任せたい」と言うピール監督だが、ここではネタバレを避けつつ、作品を読み解くヒントをこっそり教えてもらうことにしよう。

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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