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【レビュー】『X-MEN: ダーク・フェニックス』パーソナルで濃厚な人間ドラマが紡いだ「シリーズの根源」、最終章としての矜持

X-MEN︓ダーク・フェニックス
© 2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

2019年、アメコミ原作の映画シリーズふたつが完結を迎えた。『アイアンマン』(2008)に始まったマーベル・シネマティック・ユニバースの11年間にわたる物語と、『X-MEN』(2000)から19年間続いた“アメコミ映画史上最長シリーズ”たる『X-MEN』シリーズだ。前者は集大成『アベンジャーズ/エンドゲーム』で、そして後者は本作『X-MEN: ダーク・フェニックス』で、それぞれの物語に幕を下ろしたのである。

しかし、最初にきちんと記しておかなければならない。『アベンジャーズ/エンドゲーム』と『X-MEN: ダーク・フェニックス』は、同じヒーロー映画シリーズの完結編でありながら、まったく別の方向を志した作品だ。『アベンジャーズ/エンドゲーム』が11年間の物語を美しく、きちんと盛り上げて終えることに心を砕いたのに対して、『X-MEN: ダーク・フェニックス』は、もっとミクロな視点の映画なのである。これがシリーズの完結編であることに驚かされるほど、この作品は極めてパーソナルな、非常にスケールの小さい物語だ。決して悪い意味ではない。むしろ、それこそが本作最大の美点だといっていい。

X-MEN︓ダーク・フェニックス
©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

『X-MEN: ダーク・フェニックス』が「最終章」たりえる理由

前作『X-MEN: アポカリプス』から10年後のある日、X-MENにひとつのミッションが託される。宇宙空間で身動きが取れなくなったスペースシャトルから乗組員を救出してほしいというのだ。X-MENのメンバーは宇宙へ向かうが、現場は見るからに危険な状況にあった。クイックシルバーやナイトクローラー、ジーン・グレイらの尽力によって、無事にミッションは完遂される。しかしジーンは、シャトルからの脱出が間に合わず、熱放射を全身に浴びてしまった。これをきっかけに、ジーンは自分の力をコントロールできなくなっていく。かつての記憶が蘇り、彼女はもともと自分がいたはずの場所を目指しはじめた……。

この物語は、主にX-MENメンバーの対立によって進行していく。ダーク・フェニックスとしての恐るべき能力を覚醒させ、人類の脅威と化していくジーン・グレイ(ソフィー・ターナー)をめぐって、X-MENは大きく二分されてしまうのだ。ジーンを救えるという希望を抱くプロフェッサーX/チャールズ・エグゼビア(ジェームズ・マカヴォイ)や恋人であるサイクロップス/スコット・サマーズ(タイ・シェリダン)、もはやジーンを救うことはできないと考えるメンバーたちに加え、謎の女(ジェシカ・チャステイン)もジーンに目をつける。

X-MEN︓ダーク・フェニックス
©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

本作について「極めてパーソナルな、非常にスケールの小さい物語」だと記したのは、脚本・監督のサイモン・キンバーグが、ジーンの力で危機にさらされる都市や一般の人々ではなく、あえて、ジーンに振り回されるX-MENのメンバーに焦点を当てているためだ。しかも、サイモン監督とジーン役のソフィー・ターナーは、怒りを制御できずにパワーとして暴発させるジーンを描き切るため、統合失調症や解離性同一性障害、アルコールやドラッグの依存症などをリサーチして本作に臨んだという。オブラートに包まず書いてしまえば、これは心に傷を負った人間と、その周囲の人々の物語なのである。

不要なネタバレを避けるため、ストーリーに言及するのは映画の序盤、ごく限られた部分のみにとどめよう。幼いジーン・グレイは、両親とのドライブ中に自分の能力を発現させてしまい、一家の乗る車は交通事故を起こしてしまう。この事件をきっかけに、ジーンはチャールズと出会って「恵まれし子らの学園」を訪れるのだ。チャールズはジーンに、自分の能力には“使い方”があるのだと説く。しかし、幼くして両親と離れ離れになってしまったジーンは、その傷を癒すことができていなかった。私の居場所はここなのだろうか。どうして私はここにいるのだろう?

X-MEN: ダーク・フェニックス
©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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