Menu
(0)

Search

【レビュー】『X-MEN: ダーク・フェニックス』パーソナルで濃厚な人間ドラマが紡いだ「シリーズの根源」、最終章としての矜持

X-MEN︓ダーク・フェニックス
© 2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

危険な能力を持て余しながら居場所を求めてさまようジーンと、その後を追いかけるチャールズとスコットたち、そしてジーンを追い詰めようとするマグニートー/エリック・レーンシャー(マイケル・ファスベンダー)たち。心に傷を負い、トラウマを抱えた人間が突如豹変してしまったら、周囲の人間はどこまで当事者に付き合うことができるのか。彼らの一人一人は、当事者への信念をどこまで貫くことができるのか。「『X-MEN』史上もっともエモーショナルなドラマ」と形容されるストーリーのキモはここにある。メンタルヘルスの問題として捉えないにしても、他者との信頼関係やコミュニケーションに不具合を抱え、“相手のことがわからない”という対人関係の困難に直面した経験がある人ならば、きっと切実に受け止められるテーマにちがいない

ジーン・グレイの精神や、X-MENメンバーと彼女の関係といった課題に説得力を与えるべく、サイモン監督はひたすらリアルなトーンで本作を演出している。それはある意味で、スーパーヒーロー映画/アクション映画としてはやや禁欲的なものといっていい。冷たい印象を与える画面に、うねるような起伏があるとは言いがたいストーリーテリング。アクションシーンに本物のヘリコプターや地下鉄車両を使用したのも、現実的なタッチを求めたゆえだという。ジーンのキャラクターを作りあげるため、現実の疾患や依存症を参照したところからも、監督の意志の強さは十分にうかがえる。こうした努力の成果として、監督が一番に希求したテーマは高い純度をもって描き出された。

もちろん本作は、『X-MEN ファイナル ディシジョン』(2006)からシリーズに携わってきた、“X-MENを知り尽くす男”であるサイモン監督の技術が冴えわたった一本でもある。冒頭の宇宙ミッションからヒーローが結集するクライマックスまで、おなじみのヒーローをきちんと描き分ける脚本は巧みだし、ジーンをめぐるドラマに裏打ちされたアクションシーンでは、きちんと各自の心理に即した形で各キャラクターの見せ場が用意された。単なるファンサービスにとどまらず、ヒーローの個性と心情をアクションで示すことにも成功しているのだ。

X-MEN︓ダーク・フェニックス
©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

それだけではない。そもそも『X-MEN』とは、突然変異によってスーパーパワーを手にいれたミュータントの存在を通じ、マイノリティの孤独や社会との関係を描いてきたシリーズだった。本作のジーンが自分自身の性質に苦しみ、居場所を失い、親しかったはずの人々との信頼関係すら危機にさらしていくさまは、まさにシリーズの根源に触れるもの。X-MENというコミュニティもまた、人々を包摂し、時には弾き出してしまう社会にほかならないのである。

志の高さが見えるゆえに惜しいのは、ヴィランである“謎の女”と終盤の展開だ。ハリウッドを代表する女優ジェシカ・チャステインを起用してもなお、“謎の女”に託された役割と人物の描写には希薄さが拭えないし、また中盤までの人間ドラマが濃厚に展開する反面、クライマックスからエピローグがいささか駆け足になったことももったいない。本作のテーマが十二分に昇華され、作品/シリーズのクライマックスらしいカタルシスに繋がっていたかといえば、それはジーンと周囲の物語に誠実な作り手の姿勢とはまた別の問題だろう。

その一方、充実した俳優陣の演技はそうした欠点を補いもする。主に物語を牽引する、ジーン役のソフィー・ターナーとプロフェッサーX役のジェームズ・マカヴォイは、各自の心理描写のみならず、作品のテーマを真正面から体現し、苦難における一縷の希望を力強く示してみせた。マグニートー役のマイケル・ファスベンダーやミスティーク/レイブン役のジェニファー・ローレンス、ビースト/ハンク・マッコイ役のニコラス・ホルトらによるアンサンブルも見どころだ。本作のもつ群像劇としての厚みは、ひとえに彼らの演技がもたらした説得力の賜物である。

X-MEN︓ダーク・フェニックス
©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

Ranking

Daily

Weekly

Monthly