ダニエル・クレイグ演じる6代目「007」を振り返る ― 成長するジェームズ・ボンド、ドラマ性の重視

映画「007」シリーズ最新作の監督がダニー・ボイルに決定したという正式なアナウンスがありました。脚本はボイル馴染みの脚本家で『トレインスポッティング』(1996)で知られるジョン・ホッジ。詳しい内容などはアナウンスされていませんが、制作は2018年の末に始まり2019年に公開予定とのことです。
「007」シリーズは次回で通算25作品目となりますが、ダニエル・クレイグは次作を最後にジェームズ・ボンドを卒業する意向を明らかにしています。クレイグがジェームズ・ボンド役に就任したのが『007 カジノ・ロワイヤル』(2006)ですので、次作公開時には就任13年になる計算です。彼自身も50代に突入しているのでそろそろ潮時と考えたのでしょう。前例を見ても、ショーン・コネリーやロジャー・ムーア、ピアース・ブロスナンも50代でシリーズを卒業していますので、この年代がボンドの“賞味期限”なのかもしれません。
今回はダニエル・クレイグ=ジェームズ・ボンドの花道となるであろう次作制作の報に触れて、この6代目ジェームズ・ボンドがどんな存在だったか振り返ってみたいと思います。
最も若い=成長するジェームズ・ボンド
クレイグが6代目のジェームズ・ボンドに就任した当時、クレイグ版ボンドは近年に例のない若いボンドでした。3代目のロジャー・ムーア、4代目のティモシー・ダルトン、5代目のピアース・ブロスナン。彼らは全員就任当初40代で、この三人の中でもムーアは就任当時46歳という最年長のボンドでした。
彼らに対し、就任当初のクレイグは38歳。初代のショーン・コネリーと一作のみの出演となったジョージ・レーゼンビーも30代でボンド役を得ていますが、彼らが活躍したのはもっぱら1960年代のことであり、ボンド=40代以上の成熟した大人というイメージはかなり強固なものになっていました。
この若い俳優を起用したことには制作側の強い意図を感じます。ダニエル・クレイグ版の6代目ボンドを一言で表現すると「成長するボンド」なのです。
クレイグの就任一作目となった『カジノ・ロワイヤル』で、ジェームズ・ボンドは「内部汚職の根を絶ち、殺しのライセンス・00(ダブルオー)を得たばかり」という設定になっていました。リブートされた6代目ボンドは年齢だけでなく、立場的にも未成熟な存在になっていたのです。
そして、クレイグ版ボンドは各作品ごとの連続感も強くなっています。2作目の『007 慰めの報酬』(2008)は『カジノ・ロワイヤル』の直後から始まる物語ですし、3作目『007 スカイフォール』(2012)では上司であるMが交代する事件が描かれ、4作目の『007 スペクター』(2015)ではクレイグ版ボンドの過去作品に登場した悪役たちへの言及があります。
先代のブロスナン時代まで、007シリーズは各作品ごとにつながりがなく、一本終わるたびにリブートされるような作りになっていました。対してクレイグ時代のボンドは連続性があります。クレイグ版のボンドは、シリーズを通じてジェームズ・ボンドというキャラクターが成長、変化していく姿が描かれているのです。6代目ボンドは間違いなく、今までのシリーズに例がないほどキャラクターに重きを置いた作りになっています。評論家や同業者もそれに鋭く反応しています。
また「007」シリーズはこれまでさほど映画賞には顧みられない存在でしたが、『カジノ・ロワイヤル』のボンドのキャラクターは高く評価され、ダニエル・クレイグは英国アカデミー賞主演男優賞の候補になりました。これはボンドを演じた俳優では初の快挙です。
『スカイフォール』は更に高い評価を受け、悪役のシルヴァを演じたハビエル・バルデムとMを演じたジュディ・デンチがそれぞれ英国アカデミー賞の助演部門の候補となり、作品自体も英国作品賞を受賞しました。
ドラマ性の重視
ここまで述べてきたように、6代目ジェームズ・ボンドの「007」は明らかにキャラクターに主眼を置いたドラマ性の強い作りになっています。それは起用されてきた監督の傾向からも言えることです。
先代のブロスナン時代まで、007シリーズは「職人」と呼ばれる監督たちの仕事でした。
『カジノ・ロワイヤル』を監督したマーティン・キャンベルは『007 ゴールデンアイ』(1995)以来2度目の登板でしたが、彼のフィルモグラフィーには『マスク・オブ・ゾロ』(1998)や『バーティカル・リミット』(2000)といったタイトルが並ぶ、いわばアクション色の強い雇われ仕事をする「職人」監督であり、彼の起用はシリーズの伝統に沿った結果という風合いだったのです。
今までも「007」シリーズはお馴染みの監督がやることが多い仕事であり、『007 ユア・アイズ・オンリー』(1981)をはじめ5作品も監督したジョン・グレンはいかにも雇われ監督という趣でした。
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