Menu
(0)

Search

【ネタバレ】『ブラック・ウィドウ』のヴィランが表すもの ─ タスクマスターの裏側と、MeTooの意図

ブラック・ウィドウ
(c)Marvel Studios 2021

この記事には、映画『ブラック・ウィドウ』のネタバレが含まれています。

ブラック・ウィドウ
(c)Marvel Studios 2021

タスクマスターの正体

プロモーション上、『ブラック・ウィドウ』の表向きのヴィランと紹介されるのはタスクマスター。コミックやアニメ、ゲームでもブラック・ウィドウの因縁の宿敵とされるキャラクターだ。

素性も目的もわからぬままナターシャらに奇襲をかける強敵だが、物語が進むに連れ、このヴィランはドレイコフの哀しき操り人形に過ぎないことが判明する。その正体は、かつてナターシャがS.H.I.E.L.Dの最終試験のために命を奪わざるをえなかった、ドレイコフの娘アントニア。実は爆撃を生き延びていたアントニアは、火傷痕を残しながら、敵のあらゆる動きをコピーする無慈悲な暗殺者として、レッドルームに仕えていたのである。演じたのは、『007 慰めの報酬』(2008)のオルガ・キュリレンコだ。

原作コミックなどでのタスクマスターの本名はアンソニー・マスターズ(Anthony Masters)またはトニー(Tony)・マスターズ。映画でのアントニア(Antonia)の名は、原作の設定にならったものだ。コミックでのタスクマスターは傭兵で、金のためならヒーロー側にもヴィラン側にもつく自由な性格。やがてコピーしたヒーローたちの技を他のヴィランに教授するようになると、ドラマ「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」にも登場したジョン・ウォーカー/U.S.エージェントにもキャプテン・アメリカの技を仕込んでいる。

ブラック・ウィドウ
(c)Marvel Studios 2021

映画では、キャプテン・アメリカのシールド術、ホークアイの弓矢、ブラックパンサーの爪や、ブラック・ウィドウの体術などをコピーしてナターシャに迫った。自由意志を奪われた寡黙なヴィランとしての描写は、原作のタスクマスターのファンからすれば賛否が別れるところだろう。米Comicbook.comは鑑賞者の声として、「作品のテーマに合っている」との好意見に加え、「タスクマスターらしくはない」「唯一の不満点」「PS4『スパイダーマン』のサイドミッションでのタスクマスターの方が、よっぽど深みが与えられていた」「マンダリンのように、またセカンドチャンスがあるといい」といった反応を紹介している。

『ブラック・ウィドウ』脚本を手掛けたエリック・ピアソンは、こうしたファンの声も認知しているとしつつ、タスクマスターの設定を改変した理由をComicbook.comにて説明している。当初の脚本では、原作通りの設定で検討されていたそうだ。しかし、「トニー・マスターズでは本作には合わないと思ったんです。一方で、“ドレイコフの娘に何が起こったのか?”という謎はありました。ナターシャ・ロマノフのストーリーはいつも地に足の着いたものですが、その中に楽しくて空想的な、マーベルらしさを取り入れたかったんです」。

ピアソンによれば、本作におけるタスクマスターの設定変更は、ドレイコフを「真のヴィラン」に置くためのものだった様子。「(ドレイコフの)愛するものが事故に巻き込まれ、テクノロジーを使ってその人のマインドを再構築する中で、動きをコピーするようになる。これなら、地に足着いたスパイスリラー作品に、マーベル・コミックの要素を加えられると思いました」。

真のヴィラン、ドレイコフ

『ブラック・ウィドウ』で本質的なヴィランとなるのは、レッドルームの首謀者ドレイコフだ。少女たちを誘拐・洗脳し、強制的な避妊手術を施して、従順なスパイ戦士“ウィドウ”として育てて従えている。レッドルームから放たれたスパイを世界中に配するドレイコフは、天空のオフィスから彼女たちを意のままに操ることができ、自ら手を汚さずとも軍事的・政治的な結果を得ることができる。

この狡猾な中年男性が、男尊女卑社会へのアンチテーゼであることは自明だ。エレーナ役のフローレンス・ピューが「彼女たちがどれだけ虐げられたのかについて、話し合う必要がある」と語るように、“ウィドウ”たちは男性主義社会によって踏みにじられてきた女性の権利や尊厳を象徴しており、ナターシャとエレーナはその支配からの解放を表している。

『ブラック・ウィドウ』単独映画化の始動と脚本家ジャック・シェイファーの起用が伝えられたのは2018年1月のこと。この頃までには有名映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインの長年に渡るセクハラ・性的暴行の疑いが明るみに出ており、これをきっかけにした#MeToo運動が活発化を見せていた。米Yahooによれば、シェイファーと主演スカーレット・ヨハンソンが本作のミーティングを始めた頃、ヨハンソンは#MeTooを念頭に置いていたという。とりわけヨハンソンにとって、ワインスタインは過去の出演作『私がクマにキレた理由』(2007)や 『それでも恋するバルセロナ』(2008)で共にしている。ヨハンソンは次のように語っている。

「女性が他の女性を支持し、トラウマという共通の経験を乗り越えて、名乗り出て支え合うというこの素晴らしい運動についてコメントしなければなりませんでした。これがどうなるかを真剣に考え始めた当初は、ちょうど#MeToo運動が始まった頃で、それらを比較する機会を逃すわけにはいきませんでした」。

本作はもともと2020年5月の公開を予定していたから、コロナ禍さえなければ、マーベル・スタジオはもっとスピーディーにこの重要な問題を取り入れた物語を伝えられていたことだろう。劇中でのナターシャは、妹のエレーナと出会うことによって、幼少期からのトラウマに向き合いなおし、立ち上がる。「それこそ、実際に今起こっていることだと思いました。こういったことを伝えられる機会が持てたというのは、素晴らしいことです」と、ヨハンソンは物語に込められた想いを述べている。

現実にも通用する悪役

脚本のエリック・ピアソンは、ドレイコフのキャラクター設計が「最もトリッキー」だったと米/Filmに話している。難しかったのは「現実にも通用するような悪役を描き、かつ、他のMCU映画の中でも気づかれていない」設定を考えること。「卑怯者で闇に隠れて、裏で物事を操っているようなヴィラン。卑怯者だから、人の人生をめちゃくちゃにしていることを気にもとめない」と、ピアソンはドレイコフの性格について説明している。別のインタビューでも、「影に隠れて力を振りかざす卑怯な男で、ほとんど独りで過ごしているんです。外の世界に出ることを恐れているから、自分がどれだけ偉大な存在なのかを、まるで独り言みたいに喋っているんです」と解説する。

その通り、ドレイコフは他のマーベル・ヴィランとは異なる。自分は戦闘能力を持たず、安全な場所に隠れていて、ロキのように軍を率いて自ら出陣することもないし、サノスのように「自分でやる」と立ち上がることもない。アベンジャーズに手出しすることすら、しないのだ。ピアソンはドレイコフの秘密主義的な悪が「スパイスリラーものとしてうまくいく」と考えた。「“月を破壊してやる”みたいなことは言わないわけです。そもそも、それは『インフィニティ・ウォー』で見ましたからね」。

ドレイコフを演じたのはレイ・ウィンストン。ナターシャと鼻先がつきそうなほどに接近するシーンでは、スクリーンから口臭が漏れそうなほどの嫌悪感を脂身たっぷりに演じた。これまでに、『ディパーテッド』(2006)や『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(2008)などに出演。『ブラック・ウィドウ』での怪演を、米APは「素晴らしい」、米Entertainment Weeklyは「悪意たっぷりで図太い」、米LA Timesは「邪悪だ」と評している。ドレイコフは、スーパーヒーロー映画の中でも最も現実的な悪役として記憶されることだろう。

『ブラック・ウィドウ』は2021年7月8日(木)映画館 & 7月9日(金)ディズニープラス プレミア アクセス公開。※プレミア アクセスは追加支払いが必要です。

Source:Comicbook.com(1,2),Yahoo,/Film,AP,EW,LA Times,『Total Film』#312

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

Ranking

Daily

Weekly

Monthly