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『DUNE/デューン 砂の惑星』を「ヒーロー映画と呼びたくない」、衣装デザイナーが語る「叙事詩」として生まれたコスチューム【単独インタビュー】

『DUNE/デューン 砂の惑星』
© 2021 Legendary and Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

第94回アカデミー賞授賞式が日本時間2022年3月28日(月)に開催される。コロナ禍では3度目の開催となるが、2021年は『スパイダーマン』や『ワイルド・スピード』『007』『マトリックス』などのビッグバジェット作品が公開され、ハリウッドの大作映画復活を後押しするような年となった。

今回のアカデミー賞と繋がりの深い大作映画として挙げられる作品が、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督による最新作『DUNE/デューン 砂の惑星』だ。作品賞を含む計10部門で候補入りを果たし、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』に次ぐノミネート数を獲得した。SF古典の金字塔として親しまれてきた『DUNE/デューン 砂の惑星』待望の再映画化とあり、オスカー像の獲得数は気になるところだ。このたびTHE RIVERは、衣装デザイン部門にノミネートされたロバート・モーガン氏にインタビューする機会に恵まれた。

ファッション業界で長年活躍してきたモーガン氏は1990年代に映画・テレビ業界へ参入し、これまで『スピード』(1994)や『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(2008)『インセプション』(2010)『マレフィセント2』(2019)といった大作に携わってきた。そんなモーガン氏、アカデミー賞ノミネート入りは『DUNE/デューン 砂の惑星』が初。本インタビューでは、モーガン氏に率直な思いを直撃してきた。また、『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014)や『マン・オブ・スティール』(2013)『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016)といったスーパーヒーロー映画にも携わってきたモーガン氏には、『DUNE/デューン 砂の惑星』の同ジャンル的側面や、製作の舞台裏などもたっぷりと伺ってきた。

『DUNE/デューン 砂の惑星』ロバート・モーガン氏 インタビュー

── ロバートさん、はじめまして。本日は貴重なお時間をありがとうございます。

どうも、はじめまして。

── 最近はいかがお過ごしですか?

元気に過ごしています。今はスペインにいますよ。あなたは東京にいらっしゃるのですか?

── そうなんです。渋谷という場所にいます。

あぁ、素敵ですね。

── ちょうど太陽が上がってきたところで、日の出と共にロバートさんにインタビューが出来るなんて、なんだか気分がとても良いです。

こっちは夜の10時30分です。ちょうど夕食を食べたところで。スペインでは夕食の時間が遅いんですよ(笑)。

── そうなんですね(笑)。さっそくですが、『DUNE/デューン 砂の惑星』がアカデミー賞10部門でノミネートされました。おめでとうございます!ロバートさんが手掛けた衣装デザインも含まれておりますが、まずは率直な感想をお聞かせ下さい。

とんでもなく凄いことだと感じています。(ノミネートされたことを)聞いた時には泣いてしまいました。特に理由があるわけではないけれど、この業界には非常に長くいるので、とても光栄に感じましたし、感謝もしました。他にも素晴らしい作品がたくさんあったのに。私にとっては何だか現実ではないみたいでした。

── (共同で衣装デザインを担当された)ジャクリーン・ウェストや、ドゥニ監督、ティモシー・シャラメらキャストの方々とは、ノミネートされたことについて何かお話をされましたか?

アメリカにいる家族、パートナーとオンラインで連絡を取りました。それからジャクリーンにも連絡を入れました。彼女がいた場所は朝の5時で、私の所が昼の2時だったので、テキストを送りました。「オーマイガー」って(笑)。音響から編集、コスチューム、メイクアップまで、チーム全体が興奮していました。全員が企画を愛していましたから、まるで1つの家族のようでした。喜びを感じる仕事だったからこそ、こうやって認められるなんてもっと特別なものになりました。

DUNE/デューン 砂の惑星
©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

製作の舞台裏、本・自然・歴史からの着想

──『DUNE/デューン 砂の惑星』はこれまでデヴィッド・リンチ版の映画やアレック・ニューマン主演のドラマなど、何度か映像化されてきています。衣装デザインを構想する上で、こうした過去作は参考にされましたか?

若い頃、私は(『DUNE/デューン 砂の惑星』の)小説を読んでいました。ものすごく前の話ですけれど(笑)。小説を読んだ時はすっかり虜になりました。出版された当時は革命的でしたし、スプリングボード(契機)みたいにその後作られた映画に多くの影響を与えたじゃないですか。『スター・ウォーズ』や『アバター』など、そういった類の作品全てに。『DUNE/デューン 砂の惑星』の小説が出た後は一つのパターンが生まれましたよね。私も(『DUNE/デューン 砂の惑星』の)映画を観ていましたよ。すごく気に入っていました。しかし私もジャクリーンも、小説を参考にしました。

ドゥニも非常に強力で明確なビジョンを持っていて、一緒に働いた方の中でも一番協力的な方でしたから、(ビジョンに)沿うものと沿わないものの取捨選択から創作の枠組みが出来上がってきました。パトリス・ヴァーメットという素晴らしいプロダクション・デザイナーが、良く言えば『DUNE/デューン 砂の惑星』の“バイブル”を作り上げてくれました。それを全部門が共有しあっていたので、まとまりのある世界を作り出すことができて、コスチュームからセットの装飾、メイクアップまで、スタッフ皆が積極的に協力し合いました。そのトーンを作り上げてくれたのがドゥニです。

 DUNE/デューン 砂の惑星
©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

── 先程、パトリスさんがバイブルを作ったとおっしゃりましたが、それはアレハンドロ・ホドロフスキー監督が作ったようなアートブックのような形式をしていたのでしょうか?

そのことは詳しくありませんが、基本的にはルックブックみたいなもので、誰もが(オンライン上で)アップロードできるようになっていました。全部門が閲覧可能で、ドゥニが承認したらアップロード出来るんです。(ハンガリーの)ブダペストのスタジオで作業していた時は、道端でドゥニがルックブックを持って“ちょっと来て見てみてよ”と声をかけてくれる感じでした。私の場合、セットのデッキとかを歩いている時なんかは、「カーペットの色はどんな感じになるの?」ってスタッフに訊いて、「カーペットは宇宙船が着陸する時用に考えているので、その色を考えてみて」って返事をしてもらうようなこともあったかな。そういうやり取りのおかげで、私も「そしたらこの衣装にはあの生地を使ったほうが良いかも」とか「ちょっと手を加えた方が良さそうだな」って考えることができました。こうした素敵なプロセスって、全ての映画で出来るわけではないのです。それができた時には魔法のようなことが起こるんです。

──ところで、『DUNE/デューン 砂の惑星』はアカデミー賞でファン投票による「Fan Favorite Films 2021」部門でも選ばれていましたが、ご存知ですか?

はいはい、見かけました(笑)。ちなみに、ヨーロッパからはアクセスできませんでした(笑)。

── あ、確か海外からは出来ないですよね。そこでお聞きしたいことがあるのですが、本作の製作において、作品をどれほど大衆映画として意識されていましたか?

あまり意識していなかったです。私もジャクリーンも画家で、私は芸術史を学んでいました。二人ともファッション業界に身を置いていて、服のデザインも手掛けていました。ジャクリーンとは今回初めて一緒にデザインを手掛けましたが、2人とも歴史をとても大切にしていたので、数千年前の過去から1万年後の未来までを掘り下げていきました。なぜなら、過去には砂漠で生活していた人がいたという事実があったわけです。数千年前のものが、今も存在し続けている。そうした歴史的な言及は理解することができる。サイエンス・フィクションを参考にしたのではなく、この作品は一つの叙事詩的な映画、叙事詩的な旅として考えていました。ドゥニは早いうちから、“実際に宇宙船は無いし、エイリアンも存在しない。これはパンクではない”と言っていました。それがこの美しいおとぎ話を開発する際の拠り所となり、衣装もそれに従ったのです。

 DUNE/デューン 砂の惑星
©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

── 『DUNE/デューン 砂の惑星』の衣装は、ファッションブランドのバレンシアガから影響されていたと記している記事を見かけたのですが、これは本当でしょうか?

うーん……実際に意識したブランドは無いです。

── インターネットでは、本作の衣装との比較画像がたくさんあるんですよね。

私たちのファッションと紐付けようとしている方はたくさんいますし、そういうのは好きです。ジャクリーンも私もこの業界には長いのでね。ただ、ファッションってとても派生的なもので、繰り返されるものなのです。スーツには起源がありますし、ネクタイでさえ大元を辿れば起源があります。そうしたすべてのものが派生していって、何かが何かへと超越していくことからは逃れられない。そこから繋がりが生まれることもあって、素晴らしいことだと思います。

画家目線で言えば、誰かが私の描いた絵を見て「あなたの考えていること分かるよ」と言われる時が好きなんです。私も「君もこの雰囲気が分かるのって?」となれて、最高じゃないですか。とにかく衣装はどのファッションブランドも参考にしていないですし、どちらかというと歴史や自然のようなものから着想を得ていました。北アフリカに住む民族とかテンプル騎士団とか。ハルコンネン家の衣装はハエのような昆虫、ガイコツのようなものにヒントを得ています。

 DUNE/デューン 砂の惑星
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スーパーヒーロー作品と「呼びたくない」、叙事詩的な視点からの衣装作り

── 日本やアジアのカルチャーからの影響についてお聞きしたいのですが、何かございましたか?

これについては避けられないですよね。とにかく素晴らしいから。キャリア初期の20代にはオークチュールで仕事をする機会に恵まれたのですが、KENZOさんのようなデザイナーたちを紹介してもらいました。当時は、こりゃスゴイな、と思いましたよ。作るものが彫刻的ですし、見た時に振り向いてしまう。影響を受けたのは間違いないです。この世界を作る時も、アジアからの影響はありましたし、東洋からも西洋からもそう。ハルコンネン家を見たら明白ですけど、衣装には色々な文化が混ざり合っているんです。

── この作品は、ポールが時空間を超えた能力を持っているという意味でスーパーヒーロー映画的な解釈もなされ得るかと思います。ロバートさん自身、『X-MEN』や『マン・オブ・スティール』といった作品に携わってこられたと思いますが、『DUNE/デューン 砂の惑星』をスーパーヒーロー作品として意識しながら製作されていましたか?

同じことになりますが、過去からは逃避することはできないと思うのです。全てが知識の旅なのですから。私はスーパーマンが新しいスーパーマンに変わる時に携わりましたし、バットマンもX-MENもそうです。ただ、この作品をスーパーヒーロー映画とは呼びたくありません。どちらかと言えば叙事詩的な物語で、もっと地に足がついたような、現実的なもののように感じるのです。

私には“形態は機能に従う”というデザイナーとしての信念があります。ドゥニは物語や地形、建物について具体的なことをたくさん口にしていましたが、そうしたものの機能が形態を生み出す助けになるのです。キャラクターが着用している衣装は、生き抜くためのものでなくてはいけない。

バットマンやスーパーマン、X-MENを構想する時は、すでに存在しているコミックなどを参考にして、より良い衣装を作り上げていきますよね。今作では視点が全く違うのです。スティルスーツ(保水スーツ)一つを取っても機能的で機械的な服装でなければいけませんでした。エレクトリックでもLED的でもなく。スティルスーツにはポンプ作用があって、スーツから水を生成する。それがあの世界なんです。説得力を持たせ、観客に完全に受け入れてもらえるようにするためのチャレンジはたくさんありました。話が長くなってしまいましたね(笑)。質問にしっかり答えられているかな。

 DUNE/デューン 砂の惑星
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── とんでもないです。素晴らしいお話をありがとうございます!こうしたことを踏まえた上で、衣装製作で最も大変だった点は何でしょう?

たくさんありましたが、この作品はファン層がハッキリしています。私自身もファンなので、正しくやりたかった。信じてもらえるようなものを作りたいという思いがありました。それと同じくらい、原材料の調達や衣装の製作ボリューム、スケールも大変でしたね。また、キャストの全員がスティルスーツを着るためには、ティモシー・シャラメからジェイソン・モモアまで、全てのサイズを揃えなければいけませんでした。1つの衣装のために120パターンのサイズを作らなければいけなくて。1つにつき2週間かかって、それを200着作ったりもして、とにかくボリュームがすごかった……時間との勝負でした(笑)。これはよく言っていることなのですが、衣装のデザインって、ボートで水上スキーをしているような感覚です。ずっと何かに引っ張られていて、波が来る時は立ち上がらなければいけない。それでも前にスキーし続ける。というのも時間は常に動いているので、とにかく終わらせなければいけないんです。でないと失敗してしまう。期限までに完了させると解放的な気持ちになるので、私は好きなのですが(笑)。

 DUNE/デューン 砂の惑星
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── 最後に、ロバートさんは若い頃に小説を読んだとおっしゃっていましたが、ポール・アトレイデス役にティモシー・シャラメが起用されたことはどう思いますか?

完璧です。おかしいことですけど、本を読む時って頭の中で自分なりの映画を作り出すじゃないですか。私もそうでしたし、あなたもそうしたことでしょう。ティモシー・シャラメはもちろん、ジョシュ・ブローリン、ジェイソン・モモア、オスカー・アイザック、レベッカ・ファーガソン、ゼンデイヤ、シャロン・ダンカン=ブルースターまで、全てが完璧でした。ティモシーは特にですけど、それを体現してくれました。スーツのフィッティングの時なんか、彼は歩いたり、サンドウォークをしたりして、(役を)モノにしていました。蜘蛛のように地を這ったりもして。私たちにとっても勉強になりました。あんなに早い段階からそれをやってのけていた。彼もそれを楽しんでいましたよ。

第94回アカデミー賞受賞結果は、2022年3月28日(日本時間)に発表。『DUNE/デューン 砂の惑星』デジタル配信中、4K UHD、ブルーレイ&DVD好評リリース中。

『DUNE/デューン 砂の惑星』
© 2021 Legendary and Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

発売元:ワーナー・ブラザースホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
©2021 Legendary and Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

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SawadyYOSHINORI SAWADA

THE RIVER編集部。宇宙、アウトドア、ダンスと多趣味ですが、一番はやはり映画。 "Old is New"という言葉の表すような新鮮且つ謙虚な姿勢を心構えに物書きをしています。 宜しくお願い致します。ご連絡はsawada@riverch.jpまで。

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