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【ネタバレ無しレビュー】『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』は20年の総決算 ─ ハンの復活&ブライアンの存在、問われるファミリーの真価

ワイルド・スピード/ジェットブレイク
© 2020 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved...

『ワイルド・スピード』シリーズ20周年という記念すべき年に封切られることとなった第9作『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』が、コロナ禍前のハリウッドを取り戻す大きな活力として、世界中で大ヒットを記録している。

世界40カ国以上で公開を迎え、現時点までに世界累計興行収入はコロナ禍下で公開された映画としては初となる5億ドルを突破している。日本・イタリアなどでの公開を控えた中でのこの記録、その勢いはとどまることを知らない。

筆者は、日本公開に先がけて、一足早く本作を鑑賞する機会に恵まれた。シリーズ完結が判明した今、『ジェットブレイク』は20年分のストーリーのプロローグ的役割を果たしている作品だ。もちろん副題の通り、ジェットブレイクしてしまう驚異的なシーンも続出し、毎度前作を越えてくる『ワイスピ』らしさも余すとこなく見せてくれている。

公開まで残り2週間と少し。劇場に足を運ぶ前に、ネタバレ無しのレビューを読んでエンジンを温めておいてほしい。

『TOKYO DRIFT』との落とし前、TERIYAKI BOYZ以来の邦ラップ

なんと言っても『ジェットブレイク』には、誰もが死んだと思っていたハンが奇跡の復活を果たす。特に第3作『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』(2006)からのファンの方々は、ハンに起きたことの真相を固唾を飲んで見守ることになるだろう。手に汗握る緊張の瞬間である。

常にスナック菓子を口に放り投げ、冷静沈着なハンはあれからどう変化を見せるのか。トレードマークのロングウェーブはもうなく、爽やかさを増した短髪姿のハン。見かけの変化こそわかりやすいが、内面にもかつてとは違う何かを感じられるはずだ。その“違う何か”の1つがパッションだ。デッカード・ショウによって車で追突され、為すすべなく炎に包まれたハン。どのようにして生き延びれたのかはさておき、本作での彼は、自身の体を包んだ炎をそのまま心の中に宿したかのように激しいのだ。心なしか、得意のドリフトにも磨きがかかり、命がけのミッションでもかつてないほど頼もしく映った。

ワイルド・スピード/ジェットブレイク
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ハンだけではない。ハンがドリフトのいろはを叩き込んだショーンや、「アメリカノスニッカーズホシイ?」と片言の日本語を話したり、ハルクの拳がかたどられたミニバンを愛用したりする姿が印象的だったトゥインキーたちも帰ってくるのだ。北川景子とニコイチしていたテック担当のアールも姿を見せ、ひとくくりに言えば柴田理恵の教え子たちのその後もしっかりと描かれる。

「めちゃくちゃ大人になったなぁ」。これが、ショーンたちの姿を見た筆者のリアルな感想である。2006年に公開された『TOKYO DRIFT』は、時系列順では第6作『ワイルド・スピード EURO MISSION』(2013)後のストーリーだが、それにしては、高校生だったショーンたちは渋みを増しすぎている気もする。そこはご愛嬌としても、『TOKYO DRIFT』組がファミリーと対面する瞬間には、感動が押し寄せること間違いなしだ。

また、本作では舞台が再び東京に戻る。ここでは、レティやミアら女性陣の出番だ。レティ役のミシェル・ロドリゲスが、本作に出演する条件として女性脚本家の起用を要求したことはよく知られた話。女性のパワーは、とりわけ東京で本領発揮となる。予告編では和室での激闘シーンが垣間見られるが、そこに映る日本人出身のアンナ・サワイの活躍も見逃せない。サワイが演じるのは、超重要な役どころ。ミシェルは、サワイについて「見たら、圧倒される」と予告していたが、圧倒どころではないぞ。イメージとしては『ウルヴァリン:SAMURAI』(2013)に登場したユキオ再来といった感じだ。

ところで本作のサントラには『TOKYO DRIFT』TERIYAKI BOYZ(テリヤキボーイズ)以来の日本人アーティストJP THE WAVYが参加している。大スクリーンで日本語曲が流れる新鮮さと懐かしさ……とにかく格別な気分になる。JP THE WAVYも影響を受けたと公言するTERIYAKI BOYZの系譜をつぎながらも、トラップビートに乗せた邦ラップには、テンション爆上がりだ。

想像超える、あのファミリーの姿も

これまで明かされている情報では、ドムやレティらおなじみのファミリーと『TOKYO DRIFT』組の登場が判明している。果たして、ほんとうにそれだけだろうか。第3~6作を手がけたジャスティン・リン監督がメガホンを取るのだ。いわばファミリー全員に通ずる男と言っても過言ではないリン監督なら、思いがけない人物を再登場させるサプライズを仕掛けてもおかしくない。

鑑賞する前の筆者はそう思っていた。そして鑑賞後、筆者はこう思ったのだ。「もう一度、シリーズ全作を観返しておけばよかった」と。ここまで過去作との繋がりを持った『ワイスピ』は初めてかもしれない。「このキャラクターは第◯作の〜〜だ」とすぐに特定できなかった筆者は、日本公開までにもう一度前8作を鑑賞し直してから、2度目の『ジェットブレイク』にチャレンジするつもりだ。

もっとも、『ワイスピ』全作は一度くらいは観ているという方とっては、逆の楽しみ方もある。あえて、復習なしで『ジェットブレイク』に臨むのである。もちろん復習するに越したことはないのだが、記憶のアップデートなしで想像もつかない懐かしのキャラクターに再会すると、衝撃の度合いもその分増すはずだ。

ちなみに、『ジェットブレイク』で久々に登場したあるキャラクターを巡っては、その人物の姿を見るや目頭を熱くさせられた。筆者がすぐさま思い出したのは、ポール・ウォーカーが演じたブライアンの姿。思うところは人それぞれだが、『ジェットブレイク』ではこうしたエモーショナルな仕掛けが幾重にも訪れる。いずれにしても、予告編やこれまでに出た情報では明かされていないファミリーとの再会に向けて、どう準備するかはあなた次第だ。

アクションは「ブッ飛んでいる」のでご安心を

『ワイスピ』最大の見どころといえば、やはりアクションだ。第4作『ワイルド・スピード MAX』(2009)以降、大作映画の風格を帯び始めてからは、日常では絶対にあり得ないアクションを恒例行事の1つとして観客を楽しませてきた『ワイスピ』。この非現実的なアクション演出について賛否両論あるのは承知の上で、言わせていただきたい。『ジェットブレイク』のアクションはブッ飛んでいる。

すでに公開されている映像では、超強力磁石に吸い寄せられる車や、車をキャッチするマグネット飛行機など、新しいことが満載。しかし、これはまだ序の口である。今回の『ワイスピ』は、とにかく馬力がすごい。めまぐるしいほどのテンポで、車が突っ込み、吹っ飛び、宙返りし、ジェットブレイクする。反射的に体をグイングインと揺らしてしまうのは避けられないだろう。

特に本作では、見晴らしが違う。これまでに見られた壮観な風景といえば、第7作『SKY MISSION』での車ごとフリーダイビングや高層タワー間の突っ込みダイブなどが挙げられるが、さらなる高みを目指す『ワイスピ』において『ジェットブレイク』は、文字通り高さにおいて限界突破してしまうのだ。すでに見当がつく方もいるだろうが、実際には想像の斜め上を行く展開が待っている。向こう見ずなアクションをゴリ押ししてきた『ワイスピ』にしては、ロジカルでインテリジェンスな要素も楽しめるのが『ジェットブレイク』でのアクションだ。

長きにわたる確執、ついに激突

『ジェットブレイク』で注視すべきはアクションだけではない。本作の核となるのは、ドムの語られてこなかった過去、そして弟ジェイコブとのストーリーだ。ジェイコブを演じるのは、WWEのプロレスラーとして絶大な人気を誇るジョン・シナ。ヴィンに劣らぬ存在感を放つシナが扮するジェイコブが現れた瞬間は、嵐の前日みたいな不穏な雰囲気が流れる。

なぜここに来て、ジェイコブが現れたのか。トレット兄弟には何があったのか。ふたりの過去を巡っては疑問ばかりだが、このジェイコブの登場が、これまでの『ワイスピ』20年間が紐解かれる鍵となる。ストーリーが進むにつれて、ふたりの確執の間には嫉妬や憧れ、不安、後悔といった様々な感情が介在していることがわかるようになる。

以前、ドム役のヴィンは「ファミリーを諦めるな」が本作のテーマであることを伝えていた。まさにジェイコブとの関係を通して、ドムにとっての“ファミリー”という存在が明かされることになる。また、これまで車とファミリーのみに尽くしてきたドム。自らについて多くは語ってこなかったが、本作では妻と息子を持ち、父親となったドムの内面に心境の変化を感じられるはずだ。

ワイルド・スピード/ジェットブレイク
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あちこちに感じられるブライアンの存在

強調して伝えておきたいのは、2013年にこの世を去ったポール・ウォーカーが演じたブライアンの存在だ。ブライアンは、愛息子ジャックとミアとの時間を大切にするため、第7作『ワイルド・スピード/SKY MISSION』(2015)でドムたちファミリーと別の道を進んだ。

しかし、本作ではミアがファミリーの元に帰ってくる。ブライアンとはどうなったのか。浜辺でジャックを抱きかかえたあの姿のままに、彼は子煩悩なのか。子どもが寝静まったあとに、トヨタスープラやスカイラインGT-Rなんかを乗り回しているのだろうか。ミアの再登場を通して、ブライアンの今を知りたくなるのは当然のことだろう。

ワイルド・スピード/ジェットブレイク
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安心してほしい。本作では、劇中のあちこちでブライアンの存在を感じることができる。もちろんポールの存在もだ。ポールとは固い絆で結ばれたヴィンは、2013年にこんなことを話していた。「10作目でシリーズを終えることは、パブロ(ポールの愛称)と一緒に話していたんです」と。

結果的に『ワイスピ』は全11作での完結が発表されたが、始まりと終わりはドムとブライアン、ヴィンとポールで決めたことだったのだ。ポール亡き後も、ヴィンは親友の遺志を忘れていない。それはこの『ジェットブレイク』でしっかりと反映されている。

そのやり方は、先述のように筆者の目頭を熱くさせたあるキャラクターの再登場を通しても然り、ブライアン(=ポール)が愛してやまなかった“車”を通しても然りである。復習無しでも楽しめると記したが、第1作『ワイルド・スピード』を観ておくことをオススメしたい。きっと、本作のどこかで全ての始まりを感じることができるはずだ。

ジャスティン・リン監督が戻ってきた意味

ワイルド・スピード/ジェットブレイク
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そして最後に。『ワイスピ』を成功に導いた立役者が帰ってくる。シリーズ第3作『TOKYO DRIFT』から第6作『EURO MISSION』までを手がけたジャスティン・リン監督だ。一度は『ワイスピ』から離れたリン監督が、このタイミングで帰ってきたのには大きな意味がある。『ワイルド・スピード』という20年にわたる一大シリーズを完結させるためである。

『ジェットブレイク』で再登場するハン復活にあたっては、ハン不在で継続された『ワイスピ』に疑問を呈したファンが、「#JusticeForHan(ハンに正義を)」を掲げた署名活動を実施。これが大きな後押しとなった。この熱烈なファンと同様に、リン監督の存在なしにはハンが帰ってくることは難しかったに違いない。ふたりは『ワイルド・スピード』以前に、2002年公開の映画『Better Luck Tomorrow(原題)』で出会った盟友同士。ハン復活にあたってはリン監督が先陣を切り、本作では再登場にふさわしいストーリーを練り上げた。

ハンのほかにも、第7作『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015)ぶりにミア役のジョーダナ・ブリュースターが再登場する。実は、ジョーダナもリン監督とは『アナポリス 青春の誓い』(2006)でタッグを組んでおり、付き合いは長い(同作には、ローマン役のタイリース・ギブソンも出演)。

主演・製作のヴィン・ディーゼル自らが、本作と完結2部作の監督を任せるほど絶大な信頼を置くリン監督の存在は必要不可欠なのだ。全11作での完結を控えたこのタイミングでリン監督が戻り、ファミリーが再集結することで、サーガ閉幕に向けたスタートラインをセットするのが、この『ジェットブレイク』なのである。

映画『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』は2021年8月6日(金)日本公開。

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SawadyYOSHINORI SAWADA

THE RIVER編集部。宇宙、アウトドア、ダンスと多趣味ですが、一番はやはり映画。 "Old is New"という言葉の表すような新鮮且つ謙虚な姿勢を心構えに物書きをしています。 宜しくお願い致します。ご連絡はsawada@riverch.jpまで。

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