映画における「感動ポルノ」とは何か ─ 『グレイテスト・ショーマン』『ワンダー 君は太陽』への声で思うこと

「感動ポルノ」という言葉を考案したのは、オーストラリア人の故ステラ・ヤング(1982-2014)さんである。コメディアンであり、人権活動家でもあったヤングさんは、「障害者は困難に立ち向かう素晴らしい人々だ」というレッテルに違和感を覚えていた。ヤングさん自身が骨形成不全症により車椅子で暮らす障害者だったからだ。
故ステラ・ヤングさんが提唱した「感動ポルノ」の定義
2014年4月、TED×Sydneyに出演したヤングさんは「私が人前に立つだけで『感動的なスピーチをするはずだ』と期待される」と話し、会場を笑わせた。そして、障害者の人格を無条件で称えるような画像を何点か紹介したうえで「私はこれらを『感動ポルノ(inspiration porn)』と呼びます」と宣言した。かねてよりヤングさんは、「感動ポルノ」という造語を用いてきたが、TEDのスピーチで世界中に広まったといえるだろう。
「感動ポルノ」という概念は、以後、障害者を美化する表現を批判するとき頻繁に使われるようになった。しかし、筆者個人は「感動ポルノ」という言葉以上に、TEDでヤングさんがこのように続けていることが大切ではないかと思う。
「ポルノ」という言葉をわざと使いました。なぜならこれらの写真は、ある特定のグループに属する人々を、ほかのグループの人々の利益のためにモノ扱いしているからです。障害者を、非障害者の利益のために消費の対象にしているわけです。
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つまり、ヤングさんはここで「感動ポルノ」をしっかりと定義付けしている。
- 「特定のグループに所属している人々を描いている」
- 「それ以外のグループの利益のためにある」
- 「消費の対象となっている」
以上3つを満たしているのが、ヤングさんの言う「感動ポルノ」なのである。そして、コメディアンらしい皮肉まじりのニュアンスが「感動ポルノ」という言葉に含まれていることも忘れずにはおきたい。
「感動ポルノ」かどうかという反響があった2作品
さて、どうして「感動ポルノ」という言葉の由来を書いておきたかったのかというと、2018年、日本で『グレイテスト・ショーマン』(2018)と『ワンダー 君は太陽』(2018)という2本の映画が公開され、大きな反響があったからだ。筆者はいずれも秀作だが、欠点がないわけではないとも感じた。だから、さまざまな意見が観客やメディアの間で交換され、議論が活発化する状況は歓迎すべきだと思う。(筆者の意見では、2作品ともプラス面がマイナス面を上回っているので秀作である。)
ただ、筆者が驚いたのは、SNSを中心として2作品が「『感動ポルノ』か否か」という部分に言及した感想が目立ったことだ。特に、『ワンダー 君は太陽』については、肯定派が「『感動ポルノ』ではない」と主張し、否定派が「『感動ポルノ』である」と反論する構図が強いように見える。