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【ネタバレ】『ジョーカー』隣人女性ソフィーとは何者か ─ 女優ザジー・ビーツ、役柄解釈と役づくりの秘密明かす

ジョーカー
TM & © DC. Joker © 2019 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited and BRON Creative USA, Corp. All rights reserved.

この記事には、映画『ジョーカー』の重大なネタバレが含まれています。必ず映画のご鑑賞後にお読みください。

隣人ソフィーとは何者か

『デッドプール2』で“運が良い”というスーパーパワーの持ち主ドミノを演じたビーツは、コミック映画が隆盛を迎えている現在、『ジョーカー』の脚本を受け取った時点では「いわゆるスタンダードな映画化なんだろうなと思っていた」という。しかし、脚本・監督のトッド・フィリップスと共同脚本のスコット・シルバーによって執筆されたものを読むや、すぐに引き込まれ、「10ページ読んだ時には、この映画に出なきゃと思っていた」という。ホアキンが関わっているということも、ビーツにとっては大きなポイントだった。

オーディションを受けたビーツは、フィリップス監督との読み合わせに参加し、さらに「どうしてもこの役が欲しかった」ため、オーディション用のテープを監督宛てに追加で送っているほど。その後、ホアキンも交えた読み合わせを経て、正式に役柄を射止めた。ホアキンの演技に「遊び心があり、思慮深く、しかも自由」と感銘を受けたビーツは、自分が出演していないテイクやシーンの撮影も見学。「勉強させてもらいました」と振り返っている。

ジョーカー
© 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved” “TM & © DC Comics”

ビーツが演じたシングルマザーのソフィー・デュモンは、アーサーと母ペニーが暮らす、決して綺麗とは言えないアパートの隣人だ。ある日、アーサーはエレベーターに駆け込もうとしてくるソフィーのためにドアを開けておいてやる。そこで、アーサーとソフィーは言葉を交わしたのだ。……おそらく。

「おそらく」と書くしかないのは、実際のところ、ソフィーという人間が本当に存在したのかどうかさえ、観客には分からないからだ。アーサーとソフィーは急激に仲を深めていき、アーサーがコメディアンとしてステージに立てば客席にソフィーの姿があり、母の入院する病室にもソフィーは訪ねてきてくれるのだが、物語の後半に至って、結局それはアーサーの妄想にすぎなかったことが明かされるのである。

ビーツによれば、ソフィーの人物像は脚本段階から大幅に変更されたとのこと。ホアキンは日々の撮影の中でアーサーという人物を探っていたというが、ビーツも同じように、フィリップス監督とのディスカッションや実際の撮影を通じてソフィー像を確立していったという。

「ホアキンもトッドも、(役柄を)理解していく中にすごく遊び心があって、新しいことをいくつも試していくんです。素早く撮影が進むので、“新しいシーンを撮ろう、こんなことやあんなこともやってみよう”というだけの余裕もあって。[中略]こういう役だと決める前に、いろんなことをあれこれ試してみたものが(ソフィーという人物では)実を結んでいると思います。私自身の解釈はすべてありますが、必ずしもお話ししたいかといえば、それは別。みなさんの解釈が分かれるのが面白いんですから。」

解釈が定まっていないからこそ面白いという考え方は、ビーツだけでなく、フィリップス監督やホアキンにも共通するもの。もはや、これは『ジョーカー』を創った人々の総意とさえ言えそうだ。ビーツは本作について「ほとんど全てがアーサーの視点から描かれた映画」であり、「あらゆるものが解釈しだい」だと述べている。

そこでビーツは、ソフィーを演じる上で「現実に存在する人物というよりも、アーサーの脳内に入り込んでくる存在」だと理解したことを明かしている。ただしフィリップス監督は、“どの場面が真実で、どの場面がそうでないか”という情報を、俳優にもあえて全ては伝えていなかったよう。なにしろ、ビーツは「場面ごとに“ここは空想です”という話をしていたわけではありません」と証言しているのだ。

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『ジョーカー』USプレミアにて © 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved” “TM & © DC Comics”

妄想のソフィー、現実的なソフィー

自分が実在するのかどうか分からない。実在するにせよ、どれが現実のソフィーで、どれがアーサーの妄想するソフィーなのか分からない。それぞれのソフィーは独立しているのかもしれないし、ある場面では混ざり合っているところさえあるのかもしれない。まさしく掴みどころのない役どころだが、少なくともビーツは、“妄想のソフィー”を演じるため、他ならぬアーサー自身について深く掘り下げていったようだ。

アーサーの作ったソフィーは、彼が必要としている存在であり、彼が欲している存在です。アーサーはアイデンティティを彼女に託しているんですよ。なぜなら初めて出会った時、ソフィーが彼のことを、ただ知っていたから。作品の大部分を通じて、彼は自分という存在を探しています。“自分は本当にここにいるんだろうか?”って、自分自身を疑問に思ってさえいますよね。

だけどソフィーは、母親と仕事という、アーサーにとって身近な場所の外側にいます。そんな人が、“ねえ、私たち一緒だよね、これって最低だよね、そう思わない?”って言ってくれることが、彼にとっては自分を承認してくれることになる。しかもそれが女性だったら……アーサーは自分の状態のために、恋愛に打ち込んだ経験もありません。だから彼にとっては、その出来事が実際以上に大きな意味を持ったんだと思います。」

ただしこれは、あくまでアーサーから見たソフィーを演じる上でのアプローチである。ビーツ自身は「もちろん、アーサーの頭の中にいる女性は、実際の彼女とは違います」と言い切り、仮にアーサーとソフィーが本当に交際したにせよ、「現実的に2人がうまくいったとは思いません」と述べた。

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(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC Comics

ともかく、アーサーとソフィーの仲睦まじい関係は、唐突に、アーサー自身も想像しなかった形で終わることになる。アパートでソフィーの部屋を訪ね、ソファに座ったところ、現れたソフィーがアーサーの姿に悲鳴を上げて凍りつくのだ。「アーサー、でしょ? 部屋を間違えてる」「お母さんを呼ぼうか?」。ビーツはこのシーンのリアクションを演じた際のエピソードをこう振り返っている。

「トッド(監督)と話し合って、基本のリアクションは、まず本能として娘をすぐに守ろうとするだろうし、大騒ぎはしないだろうって。そうすることが危険になるかもしれませんから。私自身は、部屋に誰かが――隣人であれ親しい人であれ、そこにいるべきでない人が――いたという経験はありませんから、分からないことではあります。でも私なら、誰かを守らなきゃいけない時には、反射的な反応を抑えようとすると思うんです。だから全体的にはリアクションを抑えて、その中でセリフを言うことにしました。」

ちなみにこのシーンの撮影は、カメラアングルや撮り方を変えながら5テイクほど行われていたそう。『ジョーカー』の撮影では即興演技が取り入れられることもあり、ホアキンは部屋への入り方やソフィーへの近づき方を変えながらテイクを重ねたという。対するビーツも、基本的な演技を一貫させながら、演技のしかたには同じく変化を加えていったと語っている。

映画『ジョーカー』は2019年10月4日(金)より全国公開中

Source: THR

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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