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【レビュー】『キングコング:髑髏島の巨神』に見る日本らしさ、戦争映画らしさのカラクリ

『キングコング:髑髏島の巨神』

もしもあなたが友人や恋人、家族に「花火大会に行こう」と誘った時に「いや、いいよ。あとでDVDで観るから」と言われたら、「いやいや、そういうことじゃないよ!それじゃ意味がないんだって!」と反論するだろう。

2017年3月25日公開の映画『キングコング:髑髏島の巨神』は、そういう類のエンタメ映画なのである。ジョーダン・ボート=ロバーツ監督が今作のキングコングを「映画館で観るべき作品にしたかった。だから大きなスクリーンで見栄えがするキャラにした」と語っているように、今作はIMAX3Dの大画面で、超弩級の迫力に圧倒されながら観るべき映画。後からDVDやテレビ放送で観られればよい、というのは、「花火大会をDVDで観ればいい」と言うくらいにトンチンカンな考えなのだ。

今回のキングコングを表現するには、ある意味ボキャブラリーは不要なのかもしれない。もはや「デカい」「強い」「ヤバイ」以上に表現のしようがない。今作の感想をどうだったかと聞かれれば、まず「ヤバかった」というヤバいくらい頭の悪いワードが真っ先に浮かんでしまう。鑑賞した者同士で感想を語り合うなら「ヤバかったよね」「いやぁ、ヤバかったよ」というやりとりが一回は出てしまうことだろう。
あなたは『キングコング:髑髏島の巨神』を鑑賞し終えて帰宅してから、ズボンにキャラメル・ポップコーンがへばり付いていることに初めて気付くかもしれない。コングのヤバさに思わず握った手の熱で、キャラメルが溶けてしまっていたのだ。

しかし今作は、完全に思考を停止させてただただヤバすぎるモンスターたちのデスマッチに圧倒されるアトラクション・ムービーとして完成度が高いだけでなく、映画ファンやゲームファンがニヤリとするような小ネタ、オマージュがこれでもかと忍ばされているのも大きな魅力。誰が観ても『地獄の黙示録』を思わせるポスター・イメージほか、ボート=ロバーツ監督が今作における日本のカルチャーからの影響を至る所で公言しているように、監督のオタク愛がギュウギュウに詰められた作品なのだ。今作はモンスター映画として非常に高い完成度を誇りながら、日本らしさと戦争映画らしさの再現度も魅力的。本記事では、そんな『キングコング:髑髏島の巨神』の注目すべきいくつかの側面を、「ヤバい」以外の言葉で書き留める。

極めて日本的な感覚で作られた「神」たち

本作におけるコングは、爆炎に包まれ怒りの雄叫びを挙げながら調査遠征隊のヘリコプターをはたき落とすシーンなどでは「人間が絶対に勝てないモンスター」として大暴れしてくれるが、ではコングが髑髏島の大自然の中で「日常生活」を営んでいるシーンはといえば、「人間が絶対に手を出してはいけない神」のように描かれている。山陰からぬらりと現れ、木々に馴染む深茶色の巨体で大河をザァザァと闊歩して水浴びするシーンは日本人の僕たちにとって「ダイダラボッチ」を思い出させる。(ちなみにコングを覆う1,900万本の体毛は、ILMが丸一年かけて手作業で描き上げたそうだ。)
また、髑髏島に住む他の動物スケル・バッファローは、老木のような長い角を備え、その巨体には草木が生い茂っている。普段は湿地帯で静かに暮らしており、顔の周りを小さな虫がブンブン飛び回っているが全く気にせず、髑髏島の自然の一部として息づいていることがわかる。日本人の僕たちが見ても、コングやスケル・バッファローは、そのままジブリ映画に登場してもおかしくないと感じることが出来る完成度なのだ。

©2016 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC., LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED
©2016 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC., LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED

これは、今作におけるコングたちが極めて古代日本的アプローチで描かていることに所以すると考える。思えば大陸に存在する西洋人にとって、生命を脅かす脅威といえば他国からの侵略者であった。西洋の物語に登場するモンスターたちが、ドラキュラやフランケンシュタインなど人の形を象っているのもそのためであり、近代になってもスーパーマンやスパイダーマンといったヒーローや、ジョーカーやヴェノムといったヴィランたちもやはり人の形をしていることに気付くだろう。
一方、島国に暮らす日本人にとっての脅威とは、人間というよりむしろ大地震や津波といった、人間にはとうてい太刀打ちできない大自然の脅威。日本に言い伝えられる妖怪や魑魅魍魎が姿形も大小も様々なのはそういったバックグラウンドを思わせるし、仮面ライダーたちは奇形の怪人と戦い、スーパー戦隊が平和を守るためには巨大ロボットに乗り込む必要があった。

『キングコング:髑髏島の巨神』に登場するモンスターたちも、僕たち日本人が無意識に馴染み深さを感じられる、「大自然由来」の生き物たちばかりだ。一部、スカル・クローラーなどの獰猛で不気味なモンスターは存在するが、彼らはおよそ自然と調和し、髑髏島ならではの食物連鎖の中で深奥な生態系を築いている。キングコングはそのバランサーとして君臨しており、島の先住民イーウィス族はその”和”を乱さぬよう物静かに暮らし、皆で独自のライフ・サイクルを組み上げている。

アメリカ人クリエイターが作った「間違った日本像」を、いつも僕たちは笑って観ているが、今作における「日本らしさ」の再現度…とりわけ「ジブリ感」の再現は、その霊感的感覚を深く理解しているという意味で頷かざるを得ない。劇中でキングコングを「神だ」と言い表すシーンがあるが、宗教的意味から外れて「畏怖の念を抱く対象」としての文脈で「神」という言葉が使われるのも東洋的だろう。

戦争映画らしさを演出するギミック

また今作は言わずもがな「戦争映画」としての要素も、ランドサット調査遠征隊がヘリコプターに詰め込んだナパーム弾と同じ量だけ含んでいる。『地獄の黙示録』の視覚的オマージュはこれでもかと言わんばかりに繰り返され、「これはモンスター映画か、それとも戦争映画か」と錯覚させられるほど独特の世界観を築いている。

もっとも、今作で「戦争映画らしさ」を担い、狂気的なアメリカ軍人を熱演したサミュエル・L・ジャクソンは、筆者が行ったインタビュー「むしろ戦争映画らしさは意識しないようにした」と語ってはいるものの、それでもサミュエルは戦争集結に満足が出来ず、戦地に取り憑かれた好戦的な軍人として「モンスター映画版『地獄の黙示録』」という側面を血と汗と泥にまみれながら表現しきっている。

今作がどれだけ往年の戦争映画へのリスペクトやオマージュに溢れているかは評論家の解説に任せたいとして、ここでは撮影舞台裏エピソードから、今作がいかに「戦争映画」を意識したかを少し明かしたい。

ベトナム戦争時のヘリコプターが復活

©2016 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC., LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED
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映像を見た瞬間、誰もが『地獄の黙示録』だと思わされる、夕陽をバックにしたヘリコプターの飛行シーン。このシーンではヘリコプターの”フワップ、フワップ、フワップ”という回転音が象徴的に響き渡っている。このシーンで使われている”フワップ”音は、実際にベトナム戦争当時に活躍したヘリコプター、UH-1(通称ヒューイ)からサンプリングされたという。音響班は、この音を録るため、カリフォルニアのベトナム・ヘリコプター博物館へ赴いた。音響デザイナーのピート・ホーナーは、本作の媒体向け資料でこう語っている。

「その博物館はヒューイを使わせてくれました。それに、あらゆる種類のマイクやほかの録音装置を装備して、私たちはプロペラが回転している間、機内のプロペラの真下に立ち、はっきりした”フワップ、フワップ、フワップ”という音を録音しました。」

「それから、私たちを乗せたヒューイは周辺を飛び、特別な操縦を披露してくれました。そのときの音は、髑髏島を囲んで守っている恐ろしい嵐の中をヒューイが飛行するシーンで聞こえてくるはずです。」

戦争映画さながらの小道具

また、登場人物たちが身を包む衣装も、1970年代当時のリアルな質感を再現している。トム・ヒドルストン演じるコンラッドは元特殊空挺部隊(SAS)隊員だったわけだから、英国軍エリート特殊部隊の元メンバーが書いた小冊子が恰好の参考資料となった。同じく媒体向け資料に掲載された監督の発言によれば、「あの時代のスティーブ・マックィーンの映画を彷彿させるような、すらっとしたパンツ、ブーツ、そして体にピッタリ合ったシャツなど、シンプルでヒーローにふさわしい洋服」になるよう心がけたということだ。

パッカードの部下たちが何気なく被っているヘルメットも見逃せない。隊員一人ひとりの戦地での日々が観客に伝わるよう、小道具スタッフは細かなディティールにも手を抜かない。ヘルメットに貼られたステッカーのいくつかは、実際にベトナム戦争で戦った元ヘリパイロットから購入したのだという。ヘルメットひとつひとつに、その持ち主の物語が宿っているというわけだ。

マーロウが用意していた脱出用ボートも、細部までじっくり目を凝らしたいアイテムだ。戦闘中にマーロウが乗っていたP-51と、イカリ・グンペイのゼロ戦を分解したパーツで組み上げられているこのグレイ・フォックス号は、戦争という対立を越え米兵と日本兵が手を取り合った奇跡の物語を象徴している。この風変わりながら感動的な設定にはロマンを感じずにいられない。

どれだけ気付ける?日本カルチャーへのオマージュ

2017年2月の来日時、今作について「日本のビデオゲームやアニメの影響がとても強い」と語っていたボート=ロバーツ監督。来日イベントでは以下のように語っていたことから、筋金入りの”日本オタク”らしさがわかる。

「日本文化への入り口は任天堂ですね。ゲームボーイをずっと持ち歩いてたし、ファミコンは最高にクールな遊び道具でした。『スーパーマリオ』や『ゼルダの伝説』をやったりしていて。日本映画への入り口は『ゴジラ』(1954年)でした。そこから、黒澤明監督が素晴らしい、小津安二郎監督がいい、三池崇史監督が……とか、いろいろと発見したんです」

「10代の頃、みんなは女の子と付き合ったりしますけど、僕たちはひたすらアニメやマンガ、日本の食文化などのカルチャーに没頭していました。あらゆる好きなものが日本発祥だということには、あとから気づいたんです。スクウェアやカプコンのゲーム、『クロノトリガー』『メタルギアソリッド』『ドラゴンボール』。そんなアニメやビデオゲームが、僕の趣味嗜好を決定していったんです。宮本茂さんや小島秀夫さん、宮崎駿さんの作品が、もっとも大きな影響を与えてくれました」

あの『シン・ゴジラ』樋口監督も「ホンモノです」と讃するボート=ロバーツ監督。各所で語られているように、今作には様々なオタク・カルチャーへのオマージュが見て取れる。どれだけ気付けるか注意しながら観るのも楽しい。

たとえば、日本出身のミュージシャン/俳優のMIYAVIが演じたイカリ・グンペイは、『新世紀エヴァンゲリオン』碇シンジとゲームボーイ生みの親として知られる故・横井軍平の名から。コングの佇まいはゲーム『ワンダと巨像』からインスピレーションを得たことが監督から語られているし、地表調査の名目で撃たれた爆弾”サイズミック・チャージ”は、『スター・ウォーズ エピソード2 / クローンの攻撃』でジャンゴ・フェットがオビ=ワンに向けて撃った高衝撃性カプセルの名だ。

ほか、手持ちの資料で事実確認ができないため個人的な推察に過ぎないが、ジン・ティエン演じる女性キャラクター「サン」は、その赤いカチューシャの出で立ちも相まって『もののけ姫』のサンが由来かと思わせるし、マーロウが用意していた脱出用ボートの名「グレイ・フォックス」は、監督がファンであることを公言しているゲーム『メタルギアソリッド』に登場するキャラクター名だ。それからビクター・ニーブスとスティーブから成るランドサットの科学者メンバーはスカイブルーのブルゾン・ジャケットを着用しているが、何となく『スタートレック』のバルカン人や、特にビクター・ニーブスは『スター・ウォーズ』のランド・カルリジアンを思わせる。(繰り返すが、これに関しては個人的な推察。)

このように、『キングコング:髑髏島の巨神』は、ひとまず「ヤバイ」の一言でダイナミックに楽しむことを許しながら、ディティール部分に目を凝らせば凝らすほど、語り尽くせぬほどの「監督、ガチやな」感を見出すことができるジューシーな作品だ。そういう意味で今作は、縦横無尽に暴れまわるキングコングよろしく全方位対抗型のエンタメ作品。「キングコングめちゃくちゃカッコよかったね!」「すごーい!君はモンスターを引きちぎるのが得意なフレンズなんだね!」と、ただただピュアにその迫力を楽しむのにも最適だし、「あのシーンって、あのオマージュだよね!」「これまでのキングコング映画に比べて今作は…」と、各々のリファレンスを全開にして批評的に観ても楽しい。デートムービーとしても楽しめるし、映画好きの友人と一緒に出かけて、帰りにバーガーとビールを散らかしながらアレコレ語り合うのも最高だろう。

そして何と言っても、今作は2014年のギャレス・エドワーズ版『GODZILLA / ゴジラ』に続く「モンスター・バース」序章作としても大重要作品。エンディング後には2020年に予定されている『ゴジラ対キングコング』に繋がるシーンも用意されているので、最後まで気を抜かないように。

キングコング:髑髏島の巨神:©2016 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC., LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED

Source:『キングコング:髑髏島の巨神』媒体向け資料
『キングコング:髑髏島の巨神』劇場パンフレット

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。