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『マダム・ウェブ』未来予知タイムループ映画としての実力 ─ 他のマーベル映画とは一線を画すミステリー・サスペンス誕生

マダム・ウェブ
(C) & TM 2024 MARVEL

ヒーローたちの時代が、ひとまわりしたようだ。新しいマーベル映画『マダム・ウェブ』(2月23日公開)に、2000年代のハリウッド映画の記憶を見た。マーベル・シネマティック・ユニバース登場前夜、まだ誰も「映画のユニバース化」にこだわっていなかった、単独作品が当たり前だった頃の記憶だ。

アメコミ映画が登場するたびに、「他の作品を観ていなくても大丈夫!」「ここからでも楽しめる!」と紋切型に謳われることに辟易としている頃と思うが、『マダム・ウェブ』ほど独立したアメコミ映画はかなり久々である。この映画は始発駅から発つ娯楽列車なので、誰でも乗り込むことができる。

『マダム・ウェブ』の観客は、他作品との関連性だとか、マルチバース展開への(時に先走りすぎる)期待だとか、そういうことを考えなくて良い。もちろん原作コミックのキャラクター設定は知っておいて損はないので、それはそれでこちらの記事で楽しくタップリと紹介しているが、それ以外は何も気にしなくて良い。かつて一球入魂のアクション映画が闊歩していた頃のハリウッド大作を思い起こさせる、独自の魅力を持った作品だ。「スーパーヒーロー疲れ」が叫ばれる昨今の気分を、原点に振り戻してくれる。

マダム・ウェブ
(C) & TM 2024 MARVEL

だから、この映画で本質的に見どころとなるのは、「前の映画やドラマに出ていたキャラクターの背景」や「シリーズの今後につながる伏線」などではなく、本作そのものが持つ物語の純然たるミステリーだ(それこそが、映画が本来あるべき姿だろう)。ポイントは以下の5つである。

  • 未来を予知する女性キャシー・ウェブの力の謎
  • 同じ予知能力を持つ黒いマスクの男の正体と目的
  • キャシーだけが知る3人の少女たちに隠された重要な使命
  • アマゾンで行われた蜘蛛の極秘研究の実態
  • キャシー出生の秘密

『マダム・ウェブ』の主人公キャシー・ウェブ(ダコタ・ジョンソン)はニューヨークで働く救急救命士。ある日を境に未来予知能力に目覚めると、黒いマスクの謎の男エゼキエル(タハール・ラヒム)が3人の少女を襲うビジョンを見るようになる。何度危機を回避しても、謎の男はどこまでも追ってくる……。

マダム・ウェブ
© & ™ 2024 MARVEL

なぜキャシー・ウェブは未来を予知できるのか?黒いマスクの男の正体と目的は何なのか?3人の少女たちの重要な使命とは何か?蜘蛛の極秘研究の実態とは?そして、キャシーの出生にはどんな秘密が隠されていたのか?これらの謎が解き明かされる過程で繰り広げられるサスペンスが、観客の追求心に蜘蛛糸のように絡みつく。

未来予知サスペンスの醍醐味といえば、ミステリーと緊張感だ。観客は主人公の見る未来のビジョンを通じて、それがなぜ起こるのか、避けるためには何をすれば良いのか、予定されていた未来を変えた結果、新しい未来で何が起こるのか、といった謎の連鎖に対面することになる。

例えば、ニコラス・ケイジ主演の『NEXT -ネクスト-』(2007)という映画がある。「2分先の自分の未来が見える」という予知能力を持つ主人公が壮大な捜査に巻き込まれていくSFサスペンスだ。この主人公は一切の格闘能力を持たないが、これから自分の身に向かってくる危険を読むことができるので、相手のあらゆる攻撃や銃弾も軽々と回避することができる。

これから起こるバッドエンドを予め見てから、そうならないように別の行動を取るタイムループ演出は、『マダム・ウェブ』でも存分に堪能することができる。また、あくまでも超人的な身体能力を持たない主人公が、予知能力を駆使した“神回避”で絶体絶命を切り抜けるのも、本作のような未来予知スリラーならではのお楽しみだ。

マダム・ウェブ
(C) & TM 2024 MARVEL

あるいは、最悪の結末を回避しようとしてもなお、厄難から逃れられない宿命の様を描く『ファイナル・デスティネーション』(2000)シリーズや『バタフライ・エフェクト』(2004)、『デジャヴ』(2006)などにも通じる(興味深いことに、これらの作品は全て2000年代の作品で、『マダム・ウェブ』の舞台も2003年だ)。『マダム・ウェブ』劇中では、数分後に謎の男エゼキエルに殺されてしまう未来を予知した主人公が、違う行動を取ることで目前の未来から逃れようとする場面がいくつもある。しかし、いくら未来を書き換えても、エゼキエルは絶対に地の果てまで追いかけてくる。

未来予知ミステリー・サスペンス映画では、能力を通じて察知した危険を回避するために、しばしば「時間との闘い」が強いられるものだ。『マダム・ウェブ』予告編映像にも描かれているように、彼女は予知した脅威をかわすために、必ず「その瞬間がいつやって来るか」を注意深く意識しなければならない。『マダム・ウェブ』では全編にわたって緊張の<糸>が張り巡らされており、危機や災難が含まれた<運命>を回避すべく、すべての瞬間において高い集中力を研ぎ澄ます戦いが描かれる。

<運命>……。これは、『スパイダーマン』映画に必ず登場するキーワードだ。これまで、ソニー・ピクチャーズ『スパイダーマン』映画シリーズ(SSU)からは『ヴェノム』シリーズや『モービウス』(2022)といったヴィラン映画が続いていた。あまり注目されていないことだが、『マダム・ウェブ』はSSUにとって、『スパイダーマン』以外としては初めてのヒーロー側の映画だ。原作コミックでは予知能力を駆使して度々スパイダーマンを救っているマダム・ウェブだが、本作ではその誕生の物語が描かれている。スパイダーマンは「大いなる力」「大いなる責任」という運命を抱いていたが、マダム・ウェブではどのようなヒーロー・オリジンが描かれるかにも注目してほしい。

マダム・ウェブ
(C) & TM 2024 MARVEL

ちなみに、本作は企画の早い段階で「本質的にはソニー・ピクチャーズ版ドクター・ストレンジ」と表されたこともあった。これは『ドクター・ストレンジ』(2016)のような作風ということでなく、シリーズにおける神秘的なパワーを持つ重要キャラクターになりうるという点で正しい。もしかしたら今後、マダム・ウェブがその予知能力を活かしてスパイダーマンたちを導く存在になるかもしれないと思うと、本作の鑑賞者はきっとその未来が楽しみになるはずだ。

実は『マダム・ウェブ』、プロデューサーの采配を見ても、他のマーベル映画とは一線を画していることがわかる。本作はこれまでの『ヴェノム』シリーズや『モービウス』を製作したアヴィ・アラッドやエイミー・パスカルではなく、全く別のプロデューサーが手掛けているのだ。

それは一体誰か?ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラである。『トランスフォーマー』シリーズのほか、『G.I.ジョー』『RED/レッド』『MEG ザ・モンスター』シリーズほか、『ザ・シューター/極大射程』(2007)『ロスト・フライト』(2023)など、これぞハリウッド!な大作アクション映画を多く手がけているベテランプロデューサーだ。

筆者はこれまで何度もボナヴェンチュラへの取材を重ねているが、中でも印象に残っているのが、「私はいつも1本の映画作りに集中するんです」と話していたこと。初めからシリーズ化を目指すのではなく、まずは1本の良い映画を作り、それがうまくいってこそ初めて次がある、ということだ(そして彼は、多くのシリーズ化を成功させている)。スーパーヒーロー映画がすっかりシリーズ前提の作風になった今、こうした伝統的な価値観を持ったベテランプロデューサーが単独作としてのアプローチを行なった意義は大きい。

 マダム・ウェブ
© & ™ 2024 MARVEL

監督はS・J・クラークソンで、マーベル・ドラマ「ジェシカ・ジョーンズ」「ディフェンダーズ」のエピソード監督やエクゼクティブ・プロデューサーを担当した人物だ。『マダム・ウェブ』も「ジェシカ・ジョーンズ」同様、「地に足が着いた気骨のあるトーン」の作品であると語っている。
特に「ジェシカ・ジョーンズ」に見られたクールなキャラクター主体の物語性は、本作にも存分に継承された。

最後に……、個人的に推したい本作のささやかな魅力は、2000年代リバイバルの要素があることだ。先ほど触れたように、『マダム・ウェブ』で描かれる題材や世界観は2000年代の未来予知/タイムループ系の映画に通じるところも多く、また劇中ではデスティニーズ・チャイルドなど2000年代のヒット曲がエモく流れる。とりわけ当時に青春時代を過ごした今の30〜40代の観客は、どこか懐かしい、馴染み深い気分に浸れるだろう。

この糸<ウェブ>が、すべての運命を繋いでゆく。マーベル初の本格ミステリー・サスペンス『マダム・ウェブ』は2024年2月23日(祝・金)公開。本作をより深く楽しむためのキャラクター解説記事はコチラから。

Supported by ソニー・ピクチャーズ

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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