マーベル・スタジオのVFX問題、「ケヴィン・ファイギの手が回っていない」 ─ 怒涛の製作、労働環境の劣悪化で負の連鎖に

2023年2月、マーベル・スタジオ作品の過酷なVFX制作環境が告発された。『アントマン&ワスプ:クアントマニア』(2023)ではタイトなスケジュールのなか、怒涛の修正指示が飛び、スタッフたちは週80時間の残業を強いられることさえあったという。翌3月には、VFXを含むポストプロダクションを統括していたスタジオ幹部のヴィクトリア・アロンソ氏が解雇されている。
いったい内部でなにが起こっていたのか。米Varietyは、2021年以降のマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の過密な製作ペースにやはり原因があったことを指摘している。
もともと『アントマン&ワスプ:クアントマニア』には、2023年8月に公開される計画があった。これが2月に繰り上げられたのは、『マーベルズ』との公開日を入れ替えたためだ。ポストプロダクションのスケジュールが4ヶ月半も短縮されたことが、労働環境の劣悪化を招いたという。問題は、それでもVFXのクオリティに難があったことだ。ワールド・プレミアに参加していた業界の重鎮はこう語る。
「直前にVFXが追加されたシーンが少なくとも10はあり、(VFXには)焦点が合っていなかった。とんでもないことだ、今までにあんなものは見たことがない。誰もがその話をしていた。幹部の子どもたちでさえ話題にしていたほどだ。」
事実上、映画を完成させられないまま公開日を迎えた本作は、米Rotten Tomatoesで批評家スコア46%という低評価を受け、ファンの見方も厳しかった。2022年11月にCEOに復帰したボブ・アイガー氏らディズニーの首脳陣は、VFXトラブルに激怒してアロンソを解雇。社内の担当部署で大きなトラブルが起きているにもかかわらず、社外作品『アルゼンチン1985 〜歴史を変えた裁判〜』(2022)のプロデューサーとして広報に勤しむなど言語道断だ、という考え方は決して不思議なものではないだろう。
しかし『アントマン&ワスプ:クアントマニア』以前から、近年のMCU作品はVFXのクオリティをコントロールできなくなりつつあった。「ワンダヴィジョン」(2021)や『ソー:ラブ&サンダー』(2022)、「シー・ハルク:ザ・アトーニー」(2022)など複数の作品で、配信開始後にVFXの修正や追加が行なわれる事態となっていたのだ。
もともとMCU作品は、本撮影の終了後、編集や再撮影などのプロセスを経て作品全体を再構築するスタイルが特徴だった。そこで辣腕を振るうのがケヴィン・ファイギ社長で、「ケヴィンのスーパーパワーと才能はポストプロダクションにある。彼が手を加えると映画の仕上がりが良くなる」との証言さえあるほど。しかしそのデメリットは、どうしても作品の完成が遅れること、作業のやり直しによりスタッフに負荷がかかることだ。しかも作品数が増えたことで、「最近はケヴィンの手が回っていなかった」という。
問題はさらに根深いところにもあるようだ。「シー・ハルク:ザ・アトーニー」では、第1話の内容がもともと第8話に予定されていたことがわかっている。これを急遽第1話に繰り上げたため、VFXスタッフは急ピッチで作業を行なうこととなった。脚本・製作総指揮のジェシカ・ガオも「VFXチームは普通なら不可能な仕事をしなくてはいけませんでした。とんでもない大仕事です、ただでさえ時間が足りなかったのに」とコメントしている。
「シー・ハルク:ザ・アトーニー」の関係者のひとりは、取材に対して「VFXの出来が悪いのは脚本が完成しきっていないせい」だと言い切る。「それはヴィクトリアではなくケヴィンの責任であり、もはやケヴィンよりもさらに上部の責任でさえあります。撮影の準備段階で対処されるべき問題ですが、この製作ペースのために、マーベルの幹部も作品に向き合うことができていないのです」。
目まぐるしい製作ペースに幹部からVFXスタッフまでが翻弄され、追い詰められるなか、製作トラブルが発生するほどコストはかかり、さらにマーベル・スタジオは苦しい状況に立たされる。まさに負の連鎖というほかない。
アロンソの解雇から半年後の2023年9月、マーベル作品のVFXスタッフは満場一致で労働組合の結成を決議した。マーベル・スタジオでVFXアシスタント・コーディネーターを務めていたアナ・ジョージは、「ついに限界を迎えたのが2023年でした」と話す。「マーベル・スタジオの低賃金と長時間労働が、労働組合を結成しなければならなかった動機です。完全に持続不可能な労働条件でした」。
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Source: Variety