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【旅レポ】世界のインフルエンサーと共に『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』巡り ─ THE RIVER編集長のLA紀行

タランティーノの所有する映画館 ニュー・ビバリー・シネマ(New Beverly Cinema)

そんな彼らと共にピンクスを後にし、今度は1929年より続くニュー・ビバリー・シネマ(New Beverly Cinema)に向かった。いわゆる「名画座」である本館は、タランティーノが「サウス・ベイから車を運転できるようになった年頃、1982年あたりから」通い詰めた劇場。2007年に閉鎖の危機に瀕した際、タランティーノは「そんなことは許さない」として劇場ごと買い取って救った。「僕が存命で、僕に金がある限り、ニュー・ビバリーは存続し、35mmの2本立て上映を続ける」としている。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でシャロンが訪れるメキシコ料理店のEl Coyoteにほど近く、劇中ではレストランを訪れた折にこの劇場のライトアップを目にして「なぜポルノ映画なのにプレミアなんてやっているの?」と首をかしげる場面でも登場する。

入り口の左右にはアール・デコ調のフォントで「NOW PLAYING」の文字と共に、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のポスターが掲げられていた。昔ながらのマーキーサインをくぐって劇場に立ち入ると、正面に小さなコンセッション・カウンターがあった。その右手には、『ワンハリ』劇中にも登場するシャロン・テートの出演作『サイレンサー第4弾/破壊部隊』(1969)のポスターもあった。コンセッションで、バターのかかったポップコーンとソーダを受け取ってシアター内に入る。

定員228席のこの劇場は、タランティーノの意向によって35mmフィルムでの上映のみというこだわりがある。「それをこの劇場の特色にしたい。ニュー・ビバリーの上映カレンダーを見ても、上映はDCPか35mmか聞く必要はありません。35mmです。それがニュー・ビバリーです。」タランティーノはこの劇場のオフィシャルサイトにそう記している。35mmフィルムは、現在のようなフィルムのデジタル移行が盛んになる前に主流だった。フィルムならではの粒子の粗さなど、映画らしい独特の質感が楽しめる、今となっては貴重な規格だ。

この日のニュー・ビバリーでは『ワンハリ』の上映前にタランティーノのコレクションから1960年代当時の古いコマーシャル映像が上映された。『ワンハリ』劇中に登場する映像もあって、ここでも『サイレンサー第4弾/破壊部隊』が予告編映像として登場した。主演のディーン・マーティンがシャロンを始めとする麗しき出演女優たちに囲まれて、得意げにジョークを言う牧歌的な映像だ。ニュー・ビバリーに集まった2019年のインフルエンサーたちが、このジョークにゲラゲラと笑っていたのが印象的だった。映画という芸術の喜びは、時を超えるのだ。

タランティーノの膝元で『ワンハリ』を観ることができたのだから、この作品から受けた印象を記しておこう。1960年代後半のハリウッドの史実と、架空のTVスター、リック・ダルトンとその相棒でスタントマンのクリフ・ブースの物語がまぜこぜになる本作で、観客はタランティーノが構えるレンズを通して、夏のハリウッドの日差しがザラメ糖に反射したようなときめきを観察することができる。例によってタランティーノならではの「オタク的」な引き出しが無数に開かれ、中にはただ開きたいから開きましたというような、本当に「オタク的」なリファレンスも多い。普通なら雑味に終わるような引き出しも、『ワンハリ』は芳醇な渋味として楽しめるし、舌が肥えた観客はこの渋味が堪らないのだろうということが感じ取られる。

本作の上映時間は2時間41分あって、これはタランティーノ作品としては珍しくない尺であるが、何でもかんでも効率化やダイジェスト化を求める現代にしてはやはり長尺の部類に入るだろう。アメコミ映画の『アベンジャーズ/エンドゲーム』が約3時間だった際には、その長さに観客が耐えられるだろうかという話題があったほどなのだから。

でも、『ワンハリ』が2時間41分である趣は、他のエンタメ作品とは全く方向性が違う。もしもこの脚本を極限までスマートに切り詰めたとしたら、もしかしたら2時間に収めることができるかもしれない。それでもタランティーノが、2時間41分使って本作をじっくり鍛錬したのは、思うに、下ごしらえにこそ真髄が宿るという美学のためではないか。それは例えば手巻きタバコに似ていて、バリバリと紙を広げ、自分の好きなだけ葉を詰めて、紙の端をツーと舐め、こぼれないように慎重に巻く、その一連の所作こそが嗜みなのだと、そんな趣がある映画だ。ましてや電子タバコでは得られない、じっくりと嗜む下ごしらえの歓び。たっぷり時間をかけて、ついに全ての下ごしらえを周到にしたタランティーノは、まさにタランティーノ節としか言いようのない怒涛のラストを用意している。

上映が終わると、ニュー・ビバリーの小さな劇場内は拍手と歓声で包まれた。外に出て、みんなで感想を話した。誰もが、たった今映画の魔法から現実に帰ってきたような、軽い高揚感にあった。この映画は、1969年8月9日に実際に起こったシャロン・テート殺人事件と、事件の主導者チャーリー・マンソンが非常に重要な要素だが、この史実を知らなかった様子の者もいた。劇中の大事な部分がピンとこなかったらしい。帰国したら、すぐにでもこの背景を紹介する記事を書きたいと思った

New Beverly Cinema 7165 Beverly Blvd, Los Angeles, CA 90036
Website http://thenewbev.com/

シャロン・テート最後の晩餐、エル・コヨーテ(El Coyote)

ホテルに戻って、シャワーを浴びた。夜はエル・コヨーテ(El Coyote)へディナーに出かけることになっていた。襟付きのシャツを多めに持ってきておいて良かった。みんな、昼と夜で着る服を変えるのが当たり前のようだったから。

ニュー・ビバリーから3ブロック、ほとんど目と鼻の先にあるエル・コヨーテは、ハリウッドが愛した老舗メキシコ料理店だ。開業は1931年で、現在の場所に移転したのは1951年のこと。フードはもちろん、名物のひとつはマルガリータだ。「ロサンゼルスで最高のマルガリータ」として地元紙でもお馴染みのようだから、ぜひオーダーしよう。グラスのフチたっぷり塗られた塩と爽やかなカクテルのコンビネーションが人気で、1日20ガロン(約76リットル)も提供しているらしい。

ここは、シャロン・テートが殺害される夜に、最後の晩餐を楽しんだレストラン。その様子は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でも再現されている。全部で375席あるが、運が良ければシャロンやマーゴットと同じ席を見つけられるだろう。

 
 
 
 
 
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テラス席もお勧めだ。特に夕暮れ時は、ロサンゼルスのカラリとした広い空を、マジックアワーの淡く儚い色彩があっという間に染め上げていく神々しいショーを堪能することができる。魔法にかけられた広大なキャンパスが、優美な哀愁と柔らかい色気に満ちていくすぐ下で、”El Coyote”の紅いネオンが凛と発光している。こんな景色と共にすするマルガリータは、そりゃ文句なしに最高だ。

El Coyote 7312 Beverly Blvd, Los Angeles, CA 90036
Website http://elcoyotecafe.com/

外国気分をたっぷり楽しんだが、メキシコ出身のメモにはお馴染みの感覚だったろう。お勧めのメニュー選びをメモに任せると、店員とメキシコ語でやりとりして、オーダーしてくれた。メモとは、ホテルに戻った後も、バーで一緒に飲んだ。爽やかなミントがたっぷり入ったモヒートをオーダーすると、メモはジン・トニックを頼んだ。これが酷くマズかったので、大笑いした。

映画声優であるメモと、映画の話題で盛り上がった。メキシコが舞台の『リメンバー・ミー(原題:Coco)』は、やはり誇らしかったようだ。日本では『リメンバー・ミー』というタイトルで呼ばれていると話すと、それもしっくり来ると頷いた。

大勢のフォロワーを持つメモのInstagramやYouTubeを見ると、彼も相当のスターであり、だからこそこのツアーに招待されたのだろう。ポップカルチャーを通じれば、立場や国籍を超えて酒を飲み交わすことができる。だからこの仕事は楽しいのだと、その日何杯目か分からないカクテルを飲みながら思った。

『ワンハリ』1969年ファッションを再現

旅も最終日になった。この日は朝から我々の写真撮影をするらしい。スタイリストによって60年代のメイクとファッションを再現して、『ワンハリ』スタイルの写真を撮るのだ。

向かったのは、Milk Studiosという撮影スタジオ。一切の曲線を許さない外観の、ラグジュアリーで雄々しい佇まいだ。マインクラフトで再現しやすそうだなぁと呑気に思っていたが、一歩立ち入ると神聖な気持ちになった。建物は大理石と見られる白い石材だけで設計されており、これが光を反射して、まるで神殿に立ち入ったような心地があるからだ。中に入ると美術館のように広々とした清潔感が広がっていて、贅沢に置かれたソファをいくつか通り過ぎ、スタジオ内部に入った。

いわゆる「メイキング映像」で見られるような光景が広がっている。カメラのレンズやいくつもの照明が、大型の撮影用スクリーン前に立ったモデルに向かっていて、目まぐるしく変わるポージングを撮り続けている。ポップソングが天井の高いこの空間によく反響して、軽い高揚感を与えてくれる。奥に通されると、いくつもの衣装がかけられたラックと、化粧台が並んでいて、先に到着していたメンバーを変身させていた。

しばらくするとスタイリストの女性がやってきて、僕のために衣装を選んでくれた。ディカプリオやブラピが劇中で着ていたような、1969年当時のアメリカン・カジュアルの再現がテーマだ。彼女はシャツやジャケットを何着か取って軽く吟味した後、幾何学模様のついた黒いシャツとダークネイビーのパンツに決めた。これに、トナカイの絵が彫られたブロンズバックルの付いたレザーのベルトと、コーヒー色のサイドエラスティック・シューズを合わせる。さらに、ヘアとメイク担当のスタイリストが、2人がかりで僕の顔をこねくり回す。髪はカールアイロンでクセ毛風に仕上げていき、はたかれているのはファンデーションかコンシーラーか、とにかく鏡の前の自分がみるみる小綺麗になっていく。髪にジェルをわしゃわしゃと付けた後、入念にスプレーして完成だ。

 
 
 
 
 
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見た目は人の態度に影響を及ぼすというのは本当で、すっかりカッコよく仕上げてもらった僕は急に背筋が伸びて、なんだか自信に溢れてきた。たぶん『クィア・アイ』の依頼者たちもこんな気持ちなんだろう。やがて自分の撮影の番がやってきて、明るい照明とカメラの前にひとり立つことになった。

僕は普段、インタビュー取材などでハリウッドスターの写真を撮影する側だから、こうして撮られる側に立ってみて分かったことがある。とにかく「ノリ」が大事だということだ。この時のカメラマンがとてもナイスガイで、「いいね!」「カッコいいぞ!」「君は感情を表現するのが上手い!」とどんどんおだててくれるので、こちらも色々なポーズを試みたくなる。

音楽も大事だ。ダンスするように求められたので、感じるままにリズムにのってみると、「いいぞいいぞ!」とまた褒めてくれる。そういえば以前、映画『パワーレンジャー』でデイカー・モンゴメリーの撮影をした際、彼が「音楽かけようぜ!」と提案して自分のスマホで好きな曲を流しながら、ノリノリで撮らせてもらったことがあった。なるほど、こういうことなんだね。

全てのソロ撮影を終えたのち、最後に全員集合のショットを撮り、それからケータリングでブリトーのランチを済ませて、2件目の撮影に向かった。今度は屋外で、衣装を変えての撮影だ。

バスでハリウッドヒルズを登って、高級住宅街に並ぶ1軒に案内された。広々としたリビングは余裕に溢れていて、奥側は一面がガラス張り。プライベートプールが丘を見下ろすテラスに出て建物側を振り返ると、すぐ上部にあの有名なHOLLYWOODのサインを望むことができる。

ここは撮影スタジオというより、普段は邸宅として貸し出しているらしい。ハリウッドの成功者たちが、平凡な日常を見下ろしながらパーティーをするにはうってつけの場所だろう。「すごい場所だな。何だってある」、僕はメモと口をあんぐり開けていた。驚くべきことに、室内には木が生えていて、メモがその大きな葉を見上げながら言う。「こんな所に住めたら凄いよね。」「いやいや、僕達もそのうち住めるようになるよ。」「そうだね、そうだと良いな。」

今回はターコイズブルーの、ハイネックのニットシャツにコインのネックレスを下げて、キャロットオレンジのスウェードパンツというコーディネート。ハリウッドヒルズの屋外は街よりも太陽にぐっと近いが、日本の高温多湿に比べればぜんぜん耐えられる。ハリウッドサインとプールを背景に、2度目の撮影をこなした。……こなした、と言うほど、撮影に少し慣れていた。

 
 
 
 
 
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最後に、プールサイドで全員集合の撮影を行った。カメラマンが屋根に登って撮ったこの一枚は、まるで群像ドラマのような仕上がりになった。その後、クルーが‟It’s a wrap!(撮影終了!)”と叫んで、全員が拍手と歓声で祝った。

アル・パチーノも登場した老舗レストラン ムッソー&フランク グリル(Musso & Frank Grill)

役目を終えた我々はその夜、ハリウッド大通り沿いにある有名レストランのムッソー&フランク グリル(Musso & Frank Grill)で最後のディナーを愉しんだ。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』では、ディカプリオとブラッド・ピットが、アル・パチーノ演じる映画プロデューサーと会うシーンで登場する。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
Leonardo DiCaprio, Brad Pitt and Al Pacino in Columbia Pictures ÒOnce Upon a Time in Hollywood”

レストランに到着した時、メモに「ここはどういうレストランなの?」と尋ねられたので「映画でアル・パチーノが登場した時の、あのレストランだよ」と伝えるとすぐに納得して、次の瞬間には‟仕事”を始めていた。レストラン前を歩きながらスマホに向かって話す彼のスペイン語は理解できなかったが、ところどころで「アル・パチーノ!」と言うのが聞こえた。

ムッソー&フランク グリルは1919年にオープンしているので、今年(2019年)でちょうど100周年を迎える。ハリウッドを代表する老舗中の老舗で、その代表的な常連客には……、あのチャーリー・チャップリン、それにマリリン・モンローもいたらしい。

店内は、100年前と変わらぬアンティーク調のシックな佇まい。ウェイターはみな20年以上このレストランに勤めていて、中には40年以上の勤務歴を持つ者もいるとか。つまり、従業員にも客にもずっと愛されているレストランということだ。格調高い赤のジャケットの制服姿は、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』にも登場する。映画では、リック演じるディカプリオとクリフ役のブラピが、カウンター席でカクテルを手にしていた。そこにアル・パチーノが上機嫌に入店してきて、ディカプリオを借りてテーブル席に移動する。彼らと同じ座席で食事が楽しめるかもしれない……、ここはハリウッドだ。

「グリル」と付く店名どおり、このレストランはグリルステーキが名物だ。中でも看板メニューは高級ヒレ肉の「フィレ・ミニョン」。ナイフを乗せるとするすると切れ、しっとりと、そしてしっかりした肉の味わいが忘れがたい。

舌鼓を打ちながら、僕はジェシカに尋ねていた。インフルエンサーと呼ばれる人々は一見自由で華やかに見えるが、常に厳しい競争に晒されているように思っていたので、聞いてみたいことがあったからだ。

「SNS見てるとさ、可愛かったりカッコ良かったり、華やかに見える人が毎日のように見つかるじゃん。そういう人ばかり見ていると、つい自分と比べて‟自分なんて”って落ち込むこともある。インフルエンサーの立場だと、どう考えてるの?フォロワーの数とか、いいねの数とか、そういうことはどのくらい気になるの?」

「確かに初めの頃は気にしていたこともあった。でも、もう慣れたよ。ほら、このテーブルを見て。」

インフルエンサーたちは、黙々と食事を進めていた。ナイフとフォークを握る合間にスマホを操作する姿に、特別感はない。彼らも皆おなじ人間で、それは当たり前のことだ。でもSNSの世界で、そんな当たり前のことをいつしか忘れかけていたのかもしれない。

「ね?私達は、常に華やかでキラキラしているわけじゃない。何でもない時間や、何でもない日もたくさんあるよ。だから私達は、一番華やかな瞬間だけを切り取って見せているだけなのかも。そう気付いてからは、気にならなくなったかな。」

ふと、リック・ダルトンのことを思い出していた。彼は、TV俳優として人気を得るも、その後のキャリアに伸び悩む。自分よりも若くてハンサムな俳優が次々と頭角を現し、リックに残された役割といえば、若い俳優の憎まれ役か、引き立て役が関の山だ。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』では、リックたちの何でもない日常も切り取られていた。

彼の時代にSNSがなくて本当によかった。よけいに気を病んでいただろうから。

Musso and Frank Grill 6667 Hollywood Blvd, Hollywood, CA 90028
Website https://mussoandfrank.com/

旅の終わり

デザートまで堪能したフルコースを終えて、ホテルに戻った。最後の夜だから、みんなでプールサイドバーで飲もうということになった。デッキチェアに腰掛けて、カクテルを片手にみんなで語り合った。そこで話すことができたナタリアは、401万人のフォロワーを持つロシアの女優だ。マーゴット・ロビーを思わせる美貌の持ち主で、ニュー・ビバリー・シネマではマーゴットのポスターと一緒に写真を撮っていた。ロシアに旅行した時には、サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館を是非訪れるようにとお勧めしてくれた。

 
 
 
 
 
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とてもハリウッドらしいことに、誰かが音楽プロデューサーや歌手の卵を連れてきたので、すっかり「業界人」の場になって、どんどん話題が広がっていく。好きな映画や音楽の話をしていくうち、夜も深い時間に入っていった。明日の帰国はそれぞれ出発時間がバラバラだから、ほとんどが今夜でお別れとなる。みんなとハグをして部屋に戻り、泥のように眠った。

翌朝、空港に向かうキャデラックの車内は、メモと、アジア系のルーツも持つドイツのYouTuber、チェンと一緒だった。チェンは、「気さくさ」が長いツイストドレッドを編み込んで、全身にタトゥーを入れて歩いているようなナイスガイだ。どこかドウェイン・ジョンソンやジェイソン・モモアのような、パワフルさと思慮深さが同居したような雰囲気を醸している。街でカスタムカーを見かけるとはしゃぎながら写真を撮って、「俺も自分の国ではJeepに乗ってるよ」とニカっと笑う。

 
 
 
 
 
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チェンのキャリアは10年ほど前に始まった。まだYouTubeも黎明期に近かった頃、自分で撮影したビデオをアップロードしては、いくつかの国に散らばっている自分の家族に共有して楽しんでいたという。「それからずっと動画作りを続けていたら、こうなった。今では、動画をアップしたら数万の再生回数がつく。未だに信じられないよ。」

チェンはいくつかのYouTubeチャンネルを持っていて、主に世界を旅する様子をアップしている。「京都にも行ったよ」と、日本で撮影した素晴らしい動画も見せてくれた。

時々、YouTuberとしてハリウッド俳優とコラボレーションすることもあるという。最近はウィル・スミスに会って、「子供の頃から憧れていた人に会えるなんて」と興奮した。それからドウェイン・ジョンソンとは、既に2度動画で共演している。ロック様は信じられないくらい良い人らしい。

僕も様々なスターに取材する機会に恵まれているので、ここは共通の話題となった。「僕もインタビュー中は上手く話を引き出そうと必死だけど、終わってからしばらくして実感が沸いてくることがあるよ。自分はなんて人と会っていたんだろうって。」チェンは「全く同じだ」と同意して、こう続けた。

「彼らはみんな、自分がスターだからといって驕ったりしないよね。とても平等に接してくれるから、同じ人間なんだなと実感できる。俺たちはみんな変わらないんだなって。ただ、彼らのやっていることの規模が、俺たちより大きいっていうだけで。」運転席で黙々と運転しながら我々の会話に耳を傾けていた大柄な黒人ドライバーが、コクコクと頷いている。

空港に到着して、メモとチェンとは「またいつか会おう」と約束して別れた。東京に戻る機内で、この旅のことを思い返していた。

ひとつは、映画と街のこと。1969年を描いた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』に登場するあのレストランも、あの劇場も、あの道路も、そして、あの空も。今も変わらない姿で、ハリウッドに佇んでいる。この街は、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の頃からずっと続く、映画の歴史の上で今日も生きているのだ。リックやクリフ、シャロンが訪れた地や、タランティーノが愛する劇場をめぐると、この映画の輪郭が手に取れるほど身近に感じられるようになる。

それからもうひとつは、旅で出会った13人のインフルエンサーたちのこと。常に自分らしさを貫く姿勢には大きな刺激を受けた。ほぼ全員が初対面だったが、数十〜数百万フォロワーを持つInstagramのアカウントを名刺代わりに交換して、「自分はこういうことをやっている」と紹介しあう様子は力強かった。

一方の僕は、そんな彼らに混じってカルチャーギャップを感じることもあった。でも、映画やポップカルチャーと通じて、世界中から集まった彼らと良い友だちになることが出来たのも事実だ。ジェシカやチェンの言う通り、誰だって普通の人間で、きっとポップカルチャーを愛していれば誰とでも親しくなれる。喜びや自信を与えてくれるのは、いつだってポップカルチャーなのだ。好きなことや信念を貫けばいい。俺はリック・ダルトン様だ!

映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、2019年8月30日(金)公開。

監督・脚本:クエンティン・タランティーノ
出演:レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、エミール・ハーシュ、マーガレット・クアリー、ティモシー・オリファント、ジュリア・バターズ、オースティン・バトラー、ダコタ・ファニング、ブルース・ダーン、マイク・モー、ルーク・ペリー、ダミアン・ルイス、アル・パチーノ
公式サイト:http://www.onceinhollywood.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/SPEeiga
公式Facebook:https://www.facebook.com/SPEeiga/

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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