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『ローグ・ワン』再撮影の真相を監督が激白。いかにして「スター・ウォーズ」と戦争映画は融合したか

映画『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』は、長らく“ダークな戦争映画になる”といわれてきた。今年の夏、世界中のファンを震撼させた「全編の半分を撮り直す」という事態は、そのあまりにダークすぎる内容をディズニーが不安視したのではないかとすら噂されたほどだ(記事)。しかしワールドプレミアを終えた今、すでに本作は高評価を得ており、再撮影や製作上のトラブルを気にする必要はないとすらいわれている。

では結局、今年の夏に行われた『ローグ・ワン』の再撮影とは一体なんだったのか? 公開を直前に控えて、ついにギャレス・エドワーズ監督がその真相を語った。再撮影はディズニーの要求というより、むしろリアルタッチの「スター・ウォーズ」を目指した監督のこだわりが生んだものだったのである。

「自分のスター・ウォーズを撮る」ギャレス監督の決断

『ローグ・ワン』の製作にあたり、そもそもディズニー側は、従来の「スター・ウォーズ」と『ローグ・ワン』を別物にすることを重要視していたという。そして、その思いはギャレス監督も同じだったようだ。

「もっともらしい、使い捨てのポップコーン・ムービーにはしたくなかったんだ。自分なりの『スター・ウォーズ』を真剣に作ろうとした。ユーモアはあっても、ファンとしては(世界を)リアルに感じられる映画にしたかった。そこで主観ショットや手持ちカメラ、ドキュメンタリー・クルーのような要素をいくらか取り入れたんだ」

そこでギャレス監督たちは、ベトナム戦争や湾岸戦争、第二次世界大戦の記録映像や写真を、『ローグ・ワン』の製作に使用している。なんと実際の映像を加工して、軍事ヘリの代わりにXウィングを合成したり、塹壕に潜む兵士たちに反乱軍のヘルメットを被せたりしたのだ。そうしてできた映像こそ、ギャレス監督が『ローグ・ワン』で作りたいものだったという。ディズニーとルーカスフィルムは、ギャレス監督のこの提案を快諾したようだ。

コンセプトアートより http://www.slashfilm.com/star-wars-rogue-one-concept-art/
コンセプトアートより http://www.slashfilm.com/star-wars-rogue-one-concept-art/

撮影現場も「戦争映画のよう」

こうして始動した『ローグ・ワン』の撮影では、時折ギャレス監督が自らカメラを持って現場に立った。K-2SO役を演じるアラン・テュディックによると、その様子は、スター・ウォーズというより第二次世界大戦の映画を撮影しているようだったという。

「彼(ギャレス監督)が実際にカメラを握るのはアクション・シーンなんだよ。“前線に立つ”と言った時には、彼は文字通り前線に立っていた。全編を通じて、僕らが立った前線の数々にだよ」

実際に爆発が起こり、人が空中を飛ぶ、その撮影の様子をテュディックはこう振り返る。

“ここがみなさんの進路です。ここから向こうに走ってください。道を変えないように、進路を外れないように。みなさんは絶対にここを通りたいんです”って言われて、みんなでビーチを走るんだ。他の部隊といっしょに砂の上を走るだけだよ。すると宇宙船が降りてくる。クレーンの上から撮ると、そこには射撃手がいるんだ。宇宙人のね。宇宙人の射撃手さ。宇宙船の着陸が映ったら、同時に煙が噴き出してきて、別の方向から部隊がぞろぞろと出てくるんだ。そして、宇宙船が離陸して頭上を飛んでいく。こういうことが、僕らが走っている間に起こるんだよ」

しかしギャレス監督は、こうした撮影の内容をあえて決め込まずに、フレキシブルなやり方で進めていった。監督の中には、「ものごとをハプニングに委ねることが新鮮さや斬新さにつながる」という確信があったようだ。

「「スター・ウォーズ」のように幻想的なものを作り、多くをCGIに頼るとき、リアリズムを生み出すことはとても難しい。だから物事を“制御不能”に任せたんだ。とても正しいとは思えないことが起こるのを、そのままにしたんだよ。そこに宇宙船を合成すると、うまくいけば、普通にやるよりもずっとリアルに見える。カオスを作ろうと試みたのさ。許してもらえないだろうと思ってた方法だよ」

しかしギャレス監督の選んだ方法は、プロジェクトを少なからず苦難の道へと導いた。通常の方法ならば撮影したシーンの出来を判断しやすいところが、撮影した素材を見てもその判断に苦しむ結果になったのだという。そして『ローグ・ワン』は、怒涛の再撮影に突入することになった。

本編の3分の1以上を再撮影、その真相とは

ギャレス監督は当初、『ローグ・ワン』の3分の1以上を“従軍ドキュメンタリー”のスタイルで撮影しようと考えていた。実際に撮影は行われ、映像素材は何十時間ぶんにもなったという。

「普通、僕たちはA、B、C、D、Eという(映像の)順序で映画を編集する。しかし今回は組み合わせの選択肢があまりにも多かった。(映画を)構築しうる方法がたくさんありすぎたのさ。正しいバージョンを見つけるのに時間がかかったんだ」

あえて決め込まず撮影を続けた結果、ギャレス監督らは、すべての映像素材を確認して最良のものを選び出す作業に長い時間を要した。そのため全体のスケジュールはとても遅れてしまったという。

ディズニーは(製作中の)映画を観て、とてもいい反応を示してくれた。そして“必要なものはなんでもお手伝いしますよ”と言ってくれたんだ。そこでVFXのショットが600から1,700近くにまで増えた。僕らが望んでいたことがいきなり実現したんだよ。しかし1,000ものVFXショットを作るには1年かかる。“困難にあたっては一致団結せよ”だった。つい1週間前(12月頭)まで一息つくこともできなかったよ」

この発言から推察するに、ギャレス監督が当初選んだ方法で製作された『ローグ・ワン』に足りない部分を補うため、再撮影とVFXの追加が行われたのだろう。監督本人の言葉を借りるなら、ようやく見つけ出した「A、B、C、D、E」の順序を、より高い精度で作品として仕上げるために、再撮影は欠かせないものだったのではないだろうか。

ちなみにK-2SO役のアラン・テュディックは、完成した映画を観た感想をこう述べている。

「(撮影中)ギャレスはこう言ってたんだ。“見てくれ、AT-ATがいる。振り返ったらAT-ATがいるんだ。今からこの道を走るとき、AT-ATは君を撃ってくるぞ”ってね。彼は“オー、ノー”っておどけてたけど、映画を観たらマジでAT-ATがいるんだよ。すごくスリリングだった」

その時、テュディックは自身が「スター・ウォーズ」に出ていることを実感したようだ。しかしそれは、従来の「スター・ウォーズ」とはまるで異なる次元だったという。彼は戦争映画として『ローグ・ワン』を体感したのだった。

「スター・ウォーズ」の製作は“チームスポーツ”

『ローグ・ワン』の再撮影では、脚本家のトニー・ギルロイが重要な役割を果たしたという。ギルロイの役割を尋ねられたギャレス監督は、直接的に応答してはいないものの、自身のスタンスについて答えることで、共同作業の様子を示唆した。

「脚本を書いて、その通りに撮って、編集して、ヒットするのは素晴らしいことだよ。でも芸術は――よい芸術は――そうはいかない。自分で体験して、反応して、改善する、という一連の行為なんだ。(中略)たとえば僕がクリエイティブな権限をすべて持ってて、“これをこうやって、ああやって、ああやる。誰の意見も聞くつもりはない、頭の中で決めてるんだ”って言うとする。でもそれは帝国軍みたいな映画づくりだと思うんだ。今回の映画づくりはむしろ反乱軍に近い。僕はほかの人たちより反乱軍らしいと思うよ」

コメントでは謙虚さを崩さないものの、ギャレス監督は『ローグ・ワン』の製作に最後までこだわっている。多くの映画とは違い、「スター・ウォーズ」は永久に残りつづけると考えた彼は、とにかく限界まで作品を改善しつづけることをスタッフにも要求したのだ。

「スター・ウォーズ」の製作はまさにチームスポーツだ。こんな巨大な映画を自分だけで作ることはできない。衣裳や銃、宇宙船、VFXに至るまで、すべてチームの努力だよ」

ギャレス監督自身のスタイルから始まった『ローグ・ワン』は、膨大な再撮影を含めた“チームスポーツ”による製作を経て、いよいよその全貌を全世界の観客の前に現すことになる。リアルでダークな戦争映画と、人々に愛された「スター・ウォーズ」はいかに融合しているのだろうか?

映画『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』は2016年12月16日公開

sources: http://collider.com/gareth-edwards-rogue-one-interview/
http://comicbook.com/2016/12/06/alan-tudyk-explains-how-rogue-one-went-from-war-movie-to-star-wa/
http://www.latimes.com/entertainment/movies/la-ca-mn-rogue-one-gareth-edwards-20161201-story.html
Eyecatch Image: http://www.slashfilm.com/star-wars-rogue-one-concept-art/ (remixed by THE RIVER)

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。