「劇場は聖地だ、なんてくだらない」『アベンジャーズ』ルッソ兄弟が配信作品に舵を切った理由

『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)のアンソニー&ジョー・ルッソ監督は、同作で米国興行収入の歴代記録を更新したのち、新天地へと向かった。トム・ホランド主演『チェリー』(2021)はApple TV+作品、最新作『グレイマン』(2022)はNetflix作品。そのほかプロデューサーとしても数々の配信プラットフォームとの共同作業にあたっている。
米The Hollywood Reporterの取材にて、ジョーが「劇場は聖地だ、なんてくだらない(bullshit)」と述べたことは映画ファンの間で物議を醸している。なぜルッソ兄弟は劇場文化を離れ、あえて映画の配信リリースを続けているのか? 『グレイマン』を「劇場のために作った」という二人は、それでも「届け方にはこだわらない」と言っているのだ。
ルッソ兄弟がマーベル・スタジオで大作映画を手がけるようになったのは、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014)が初めて。マーベル作品のために世界中を飛び回った約10年間で、「ハリウッド的なコンテンツの作り方を超えていくことを学べた」とジョーは語る。そのことが、映画館にこだわらないという現在のスタイルの根幹にあるようだ。
「ひとつ思い出すのは、“劇場に行ける”という考え方自体がエリート主義的だということ。(映画館に行くには)ものすごくお金がかかる、それで“劇場は聖地だ”なんてくだらないという考え方になったんですよね。(劇場を聖地化することは)誰もが平等に触れるのを許さないということ。デジタル配信の価値は[中略]人々がアカウントをシェアできることにあります。ひとつの物語に触れるためのコストで40もの物語に触れられる。そこに価値があるかどうかという文化的戦争にはとても腹が立ちます。」
Netflixはルッソ兄弟がプロデュースした『タイラー・レイク ―命の奪還―』(2020)も手がけているが、ジョーいわく同作は「1億回観られていて、これを劇場公開で言うと(興行収入)20億ドルの作品に等しい」とのこと。作り手としてはそちらの価値を重視したいという考えなのだろう。
また、ジョーはNetflixを非常に高く評価しており、フィルムメーカーとして「昔ながらの映画スタジオよりも仕事がしやすい」ともコメント。「テック企業のようなメンタリティで放任主義。イライラさせる人はいないし、予算管理のアプローチも違うし、スタジオよりもストレスがない。利点がたくさんあります」と称えた。さらに「デジタル配信の5年間はハリウッドの100年間以上に多様性を促進した」とも述べている。
コロナ禍を経た興行のあり方について、アンソニーは「いかに進化させるかということに興味がある」と語る。「いかに既存のモデルを脱却し、これまで出会っていない観客に届けるか。それが最も面白いところ」なのだと。ジョーも「世界に変化が必要なことはわかっているし、変化を阻もうとするほどカオスが生まれるもの。次の世代のアイデアを拒むことは誰にもできません」と口を揃えた。
ルッソ兄弟の監督次回作は、ミリー・ボビー・ブラウン主演のディストピアSF映画『エレクトリック・ステイト(原題:The Electric State)』。再びNetflixとのタッグとなる。
Source: The Hollywood Reporter