まだ黒澤映画を観たことがない若い世代も!『七人の侍』『マグニフィセント・セブン』をセットで観る
筆者はいろいろなジャンルの映画を観ることが好きだし、新しい作品から60年代ごろの古い作品も観ることがある。しかし海外の映画は観るものの、あまり日本の映画は触れたことがない。先日、『マグニフィセント・セブン』を観て、やはりオリジナルとなっている黒澤明監督の『七人の侍』が気になった。
“黒澤映画”は若い世代…10代から20代の若者はほとんどの人が観たことがないのではないだろうか。観たことがない、観るに踏み切らない理由はやはり”難しそう”という印象だからだと思う。作られた時代背景も全く違うし、なんだか敷居が高く感じてしまうのだ。
ところがこの『七人の侍』、一言で言うと本当に本当に面白かったのだ!普段洋画の方を多く見ている、こんな筆者(学生でもろにゆとり世代)が観ても面白い、と純粋に思えた。今回は『マグニフィセント・セブン』と比べつつ、『七人の侍』の魅力について改めて見ていきたいと思う。
『マグニフィセント・セブン』のキャラクターと比べて
『マグニフィセント・セブン』は西部劇、『七人の侍』はもちろん時代劇である。2つの作品の”七人”にを比べてみた。
『七人の侍』 登場人物

島田勘兵衛
侍たちをまとめる人物。『マグニフィセント・セブン』でいうチザムの存在。彼の人柄に惹かれて侍たちがついていくような印象を『マグニフィセント・セブン』よりも多く受けた。勘兵衛も最初のシーンでちょんまげを剃り坊主頭にするので、たまにデンゼル・ワシントンに見えてしまったのは本当の話。
菊千代
勘兵衛に惹かれてついてきた侍の1人。『マグニフィセント・セブン』でいうクリス・プラット演じるファラデーのキャラクターと思われる。侍なのに隙があったり、よく酔っ払っていたり、コミカルだが”やる時はやるぞ!”という男。ファラデーのおどけた雰囲気は、この菊千代からとっているのかと。
片山五郎兵衛
穏やかで優しい印象。勘兵衛と一緒に作戦を考えたりと、”できる男”といった感じ。『マグニフィセント・セブン』に五朗兵衛と全く同じようなキャラクターはいない。
七郎次
勘兵衛の昔からの知り合いで、誠実な侍。『マグニフィセント・セブン』では同じようなキャラクターはいないが、最後に生き残るバスケスかハーベストでいったら、バスケスの方が近い印象。(七郎次は戦いで生き残る。)
林田平八
明るく侍たちを笑わそうとしてくれるムードメーカー的存在。薪割りをしている所が出会いだったのと、そのルックスでキャラは違えど同じようにクマさんぽい『マグニフィセント・セブン』のジャックを思い出す。平八や菊千代たちのコミカルなやりとりは、ファラデーやバスケスのかけあいに受け継がれたのかと。
久蔵
寡黙でクールな剣豪。『マグニフィセント・セブン』でいうビリーのキャラクターと思われる。 ビリーが登場したシーンは、この久蔵の決闘のシーンのオマージュだろう。強く、冷静でとにかく格好いい人物。勝四郎に敬愛されているところはグッドナイトとビリーの関係を思い出させた。(あの2人のようにいつでも一緒にいるわけではないが)
勝四郎
七人の中で1番若い侍。百姓の娘、志乃と恋に落ちる。『マグニフィセント・セブン』で全く同じキャラクターはいないが、戦い方を教えてもらうところなどは村の住人、テディQを思い出させた。勝四郎も最後まで生き残るが、ハーベストのようなワイルドさがあるわけではない。

『マグニフィセント・セブン』のエマのキャラクターは、『七人の侍』では百姓の利吉という男だろう。彼も野武士たちに妻をひどい目に合わされ、”なんとかして村を救わねば”という強い意志を持っている百姓たちのリーダー的存在だ。
『マグニフィセント・セブン』では恋愛模様はなかったが、『七人の侍』では若い侍勝四郎と百姓の娘、志乃の恋も1つのポイントである。エマも男たちの中で、色っぽく輝いていたようの志乃の登場シーンも胸にさらしをまき、肩をあらわにして髪を洗うというなんとも艶やかなもの。

様々な有名映画の名シーンが
『七人の侍』 を観ていると既視感に多く襲われる。そう、『荒野の七人』や『マグニフィセント・セブン』といったリメイク作品以外でもこの『七人の侍』 をオマージュしている映画はたくさんあるのだ。
勝四郎と志乃が花畑にいるシーンは『ビッグ・フィッシュ』 を、雨の中で勘兵衛が弓をひくシーンは『ロード・オブ・ザ・リング』を思い出させた。

画面の切り替わりは「スター・ウォーズと同じだ!」と驚いた。思えば『マッドマックス 怒りのデス・ロード』も、七人組で戦っていた。マックス、フェリオサ、5人の妻たち。妻が1人死んでからはニュークスが加わったからやはり7人だ。様々な有名映画の随所に、この『七人の侍』要素が盛り込まれている。今まで観ていたたくさんの映画を思い出させる発見があって楽しむことができる。
『マグニフィセント・セブン』との違い
おおまかなストーリー、7人が村を悪者から救う…という流れは『マグニフィセント・セブン』も一緒だが、観終わったあとは全く違う映画のようも感じられた。
『マグニフィセント・セブン』では、”悪者”であり資産家、ボーグのキャラクターをよく感じとることができた。狡猾で、無慈悲で、どことなく神経質そうな男。『七人の侍』 では悪役、”野武士”のキャラクターがはっきりとはつかめない。それに、ボーグと違ってなかなか登場もしないのである。

その点、『マグニフィセント・セブン』より描写が多かったのは村の人々、百姓たちの描写である。貧しく悲壮感にあふれ、野武士たちに怯え、しかし戦いの場面では侍たちに負けじと竹槍で攻撃する。馬から落ちても相手をめった刺しにしようとする様子はただならぬ恐ろしさも感じた。
七人の侍たち1人1人の描写もとても細かった。それぞれが加わるまでの過程や、菊千代の過去、勝四郎の葛藤、そして多くを語らなくとも彼らの”魂”は伝わってくる。最後に死んだ4人の墓が映るのは2作品とも同じだが、『七人の侍』ではよりいっそう悲しみが感じられた。 きっと今の私たちが感じることのない思い、何層にも重なった感情や人間同士の関係を見ることができるのだ。

世界で絶賛され、名だたる映画監督たちにも影響を与えた『七人の侍』。今の若い世代が観ても「面白い」と思うこの作品。私たちはもう”武士道”や”大義”など、感じることは日常生活で無い。完全に理解することは難しい。
しかし、すぐには分からなくてもこの映画に触れることで、きっと自分の中に新しい感情が芽生えることと思う。そして年を重ねるごとに、この時代のことも、侍たちの魂も、最初に観た時よりも分かっていけるようになるのかもしれない。
とても長いが全く飽きることのなく、モノクロ映画とは思えないほどの迫力にあふれ、そして映画の原点を感じることのできる『七人の侍』。今まで黒澤映画に触れたことがない方も、この機会にぜひ観てみてはいかがだろうか。
もう1つ、筆者のように時代劇を観たことがない方は、字幕付きで観ることをおすすめする!
Eyecatch Image:http://www.imdb.com/title/tt0047478/mediaviewer/rm4220420352