【レビュー】マーベル「ワンダヴィジョン」第1話&第2話、不気味な魅力に釘付けに

複数の作品がひとつの世界観の中に同居する「ユニバース」展開で、娯楽映画を再発明したマーベル・スタジオ。彼らが直に手掛けるドラマシリーズとあって、「ワンダヴィジョン」は一筋縄ではいかない。
2021年1月15日よりDisney+(ディズニープラス)にて日米同時配信となった全9話構成の本シリーズは、1話ごとに異なる年代のTV番組へオマージュを捧げた異色の作品。第1話は1950年代の、第2話は1960年代のアメリカのシットコムを再現しており、共にモノクロで、アスペクト比も4:3になっている。
登場するのは『アベンジャーズ』のスカーレット・ウィッチ/ワンダ・マキシモフとヴィジョンで、この2人がなぜ、風変わりなクラシック番組世界の中にいるのかも説明がない。そもそも、ヴィジョンは過去のマーベル映画の中で死んでいるはずだ。誰も、何も教えてくれないままドラマが始まり、そして第2話まで駆け抜けてしまった。
郊外の静かな街に引っ越してきた、“普通の”新婚夫婦であるワンダとヴィジョンは、「奥さまは魔女」風のシットコムを笑顔で繰り広げる。オープニング映像では、役を演じる俳優(エリザベス・オルセンとポール・ベタニー)ではなく「ワンダ・マキシモフ」と「ヴィジョン」でクレジットされており、これが一種の劇中劇であることを示唆している。

ふたりは、隣人や、ヴィジョンの勤務先である(目的不明の)会社の上司夫妻とのやりとりの中で、自分たちがどの地の出身なのか、いつから結婚しているのかが分からないことに気づき始める。このドラマの撮影では実際の観客をスタジオに入れて収録したというが、無条件で大笑いする観客の目に見えぬ存在感が、明らかに不条理な物語とのミスマッチを起こし、えも言われぬ不気味さを醸し出している。
やがて物語の中に、説明のしようのない異物が混入するようになり、ワンダとヴィジョンのいる世界はいよいよ「サイコスリラー版『トゥルーマン・ショー』」のような様相を帯びていいく。おそらく、“意味がわかると怖い話”のような仕掛けが隠されているのだろう。ふたりの新婚生活をくるんだ糖衣が剥がされるとき、一体どうなるのかと、視聴者は次のエピソード配信が待てなくなる。

「ワンダヴィジョン」は、ドラマというフォーマットを逆手にとっている。世界中で大ブームになった「ゲーム・オブ・スローンズ」や、Netflixで展開された「デアデビル」をはじめとする一連のマーベル・ドラマなどは、ドラマながら映画並のスケールに挑み、そして功を奏した。一方「ワンダヴィジョン」は、1話あたりおよそ30分という短く区切られた構成の中で、「なぜ往年のドラマ風世界にいるのか」「なぜ死んだはずのキャラクターが登場しているのか」というそもそもの前提条件の説明すら後に残している。マーベル・スタジオのケヴィン・ファイギ社長が「『ワンダヴィジョン』のような体験は、映画では味わえないものです」と語っていたとおり、これは長編映画にはできない表現手法だろう。加えて、毎週配信というDisney+の戦略もマッチしている。「ワンダヴィジョン」のようなシーズンを通しての謎の解明が焦点となるタイトルの場合、全話一挙配信では視聴者の足並みが乱れていたはずだ。
本シリーズは、コミック「ヴィジョン」(ヴィレッジブックス)がひとつの原案になったとされている。これはシンセゾイド(アンドロイド)であるヴィジョンと、同じくシンセゾイドである妻、息子、娘の一家が郊外に引っ越してきたところから始まる物語で、人間の暮らしを真似ておくる機械仕掛けの家族の奇妙な日常が描かれる。「普通の家族」であることにしがみつこうとするヴィジョンらを悲劇が襲う様子は、「ワンダヴィジョン」の先を読むヒントになるかもしれない。
ちなみに「ワンダヴィジョン」第1話のミステリアスな脚本を執筆したジャック・シェイファーは、来たる映画『ブラック・ウィドウ』の脚本家でもある。さらに本シリーズは、映画『ドクター・ストレンジ』(2017)の続編『Doctor Strange in the Multiverse of Madness(原題)』の物語にも直接繋がるそうだ。「ワンダヴィジョン」は、マーベル・シネマティック・ユニバースのフェイズ4において明らかに起点となっている。
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