マーベル『ワンダーマン』とんでもない「最強素人枠」誕生 ─ 何が異色?洋画ファンに刺さりまくるハリウッド風刺ドラマ

我らがマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)は巨大化しすぎたあまり、いまや「スーパーヒーローという仕組み」そのものが、別作品のパロディ対象にまでなった。「ザ・ボーイズ」のように“ヒーロービジネス”をグロテスクに見せる作品もあれば、「ザ・フランチャイズ」のように“フランチャイズ運営”の現場を風刺する作品も現れた。
その潮流を作り上げた張本人であるMCUより、まるで自らを風刺するような異色の新シリーズ「ワンダーマン」が登場だ。往年のスーパーヒーロー映画『ワンダーマン』を、アカデミー賞受賞監督フォン・コヴァクがリメイクすることとなり、そのオーディションに主人公サイモン・ウィリアムズが挑むという内容。ハリウッドの映画業界を舞台に映画製作の裏側を扱うという、これまでとは明らかに毛色異なる小洒落た新作。これはヒーローとヴィランの激闘記ではない。とある秘密を抱えた売れない役者の、マーベル流ハリウッド奮闘記なのである。

単なるアメコミ作品の文脈を超え、多くの映画ファンにとっても一見に値する。最近のマーベル・スタジオといえば、2025年公開の『サンダーボルツ*』ではスコセッシ監督のヒーロー映画批判発言を逆手に取るようにして、「Absolute Cinema(紛れもなくシネマ)」と打ち出したA24風予告編映像を制作するなど、インディーズ映画精神を押し出す時があるほどだ。
本作は、ハリウッドの夢と現実を、時に情景的に、時に風刺的・挑発的に描く作品の系譜と位置付けることができる。例えば、若き俳優志望者が夢にもがく『ラ・ラ・ランド』や、落ち目の俳優の悲哀とスタントマンの自由な暮らしを織り交ぜた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』、映画作りを志した若きスピルバーグの半自伝『フェイブルマンズ』……それから『ヘイル、シーザー!』や『バビロン』のような、煌びやかなハリウッドの裏をややコミカルに描く映画群とも、本作は思わぬ形で連なっている。
MCUファン以外も巻き込む?マーベルの静かな挑戦作
「ワンダーマン」の重要ポイントは、「ヒーローが世界を救う話」では全くなく、「役を勝ち取れるか」「自分は何者になれるのか」という、俳優の人生を賭けた物語であることだ。ジャンルで言えば、前に出るのはアクションよりドラマ。派手な仕掛けで押し切るのではなく、キャラクターの葛藤や、現場の空気で引っ張っていくことを目指した、マーベルの静かなる挑戦作である。
ややこしい用語・設定やクロスオーバー依存もない。MCUよりも、むしろ我々の知る現実世界とのリンクの方が積極的だ。デヴィッド・クローネンバーグやクリストファー・ノーラン、ジョセフ・ゴードン=レヴィットなどなど、実在の映画人や作品の名が次々と飛び出すのが楽しい(つまり、彼らはアース616にも存在する!スティーブ・ロジャースも要メモだ!)。
さらには、『マトリックス』のジョー・パントリアーノや『アナと雪の女王』オラフ役のジョシュ・ギャッドといった実際の有名セレブが本人役で登場し、物語に深く関わることも。洋画や海外セレブが好きであるほど、刺さる角度が増えていくタイプの作品世界だ。
ヒーローVSヴィランではない、夢と現実のハリウッド・ドラマ
主人公サイモンが戦うのは、裏社会の犯罪者でも、スーパーヴィランでも、ましてやマルチバース級の脅威でもない。彼が向き合うのは、オーディションでしくじるのではないかという不安、制作現場に振り回される緊張、そして「自分の内側にあるもの」との折り合いだ。
物語の基軸となるのは、サイモンが誰にも言えぬ秘密を隠し持っていること。実は、彼には特別なスーパーパワーが宿っているのだ。しかも業界では、パワー保持者を表舞台に立たせるのは御法度とされている。小さい頃に憧れたヒーロー映画『ワンダーマン』がリメイクされると知ったサイモンは、後ろめたい事実を抱えながら主演を争うレースに参加。その過程で、かつてテロリストの「マンダリン」を現実世界で演じた黒歴史を持つ先輩俳優トレヴァー・スラッタリーと絆を深めていく。しかし実は、トレヴァーの方も難しい事情を抱えていて……。夢を追うほど、二人の隠したい現実が重くなる。そのねじれがドラマの推進力になる。
トレヴァーの登場は、MCU文脈での大きなフックでもある。彼は『アイアンマン3』で、テロ組織の首領“マンダリン”を名乗る人物として世間を騒がせたが、実際は雇われた俳優にすぎなかった男だ。さらに『シャン・チー/テン・リングスの伝説』ではその“偽マンダリン騒動”の余波から逃れられないまま再登場。そんな彼の「俳優としての人生」が、同じく売れない役者である主人公サイモンと交差する。トレヴァーにとってもキャリアは一筋縄ではいかず、「もう一度、表舞台に立ちたい」「若き役者を助けたい」という渇望を抱えている。ヒーロー大戦ではなく、“俳優業”で繋がるMCUキャラクターの再登場が物語の肝だ。
また、ヒーローやヴィランによる社会的被害に対処する機関「ダメージ・コントロール局」も登場。過去作では主に『スパイダーマン:ホームカミング』『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』「ミズ・マーベル」で描写された。本作でサイモンを脅威と見なして監視するP.クリアリー捜査官は、過去作に登場した人物と同一。『ワンダーマン』での出来事が今後の作品に影響する可能性も残している。
テイストはマーベル・ドラマの中でも最も身軽だ。ロサンゼルスを舞台に、孤独にセリフを覚えたりセルフテープを撮ったりする下積み役者サイモンの地味な面と、彼を都合で振り回すプロダクションの気まぐれさが対照的に描かれる。1話あたり30分前後の尺感と合わせ、長大化しがちなMCUドラマの中でもかなり手に取りやすい。「MCUの前提知識がないと置いていかれるのでは」と身構える人ほど、むしろ相性がいいだろう。トレヴァーやダメージ・コントロール局といった“繋がり”はあるが、作品の面白さの核は「ハリウッドで生きる人間ドラマ」に置かれている。
ちなみに原作コミックでのサイモンは、バロン・ジモによるイオン・エネルギー注入で超人となり、アベンジャーズと戦ったことも、メンバー入りして共闘したこともある。ドラマ版では原作設定を独自に改変しているため、基本的には何も気にせず物語に集中すれば良いだろう。
「アベンジャーズ・イヤー」に現れた最強素人、サイモン・ウィリアムズ
『ワンダーマン』は、MCUが自分自身をセルフパロディしながら、ハリウッドという現実の舞台で“役者の夢”を描くシリーズだ。ヒーローものの文法で観なくていい。むしろ「洋画が好き」「ハリウッドが好き」「業界ものが好き」な視聴者ほど楽しめる。
一方でMCU文脈を見れば、2026年は夏に『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』が、9月に『アベンジャーズ/エンドゲーム』再上映が、そして12月には『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』が控える“アベンジャーズ・イヤー”。「ワンダーマン」がその初陣として登場したのは、今後の特大クライマックスに向けた何かの布石なのか……そう思わせるだけの余韻と説得力を残す。
サイモンのスーパーパワーは規格外のもので、本人が正しい使い方を学んでいないことを除けば、極めて強力な戦力になり得る。『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』や『アベンジャーズ/シークレット・ウォーズ』にひょっこり参戦すれば、“最強素人枠”として大暴れしてくれそうだ。
ちなみにエピソード監督を務めるのは『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021)のデスティン・ダニエル・クレットン。重要作『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』でもメガホンを取っている。実はもともと『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』(※当時の副題は『ザ・カーン・ダイナスティ』)の監督を務める予定だったが、本作「ワンダーマン」に専念するために降板している。

新ドラマ『ワンダーマン』は2026年1月27日、ディズニープラスにて全8話が一挙配信。『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』へ向けた、ちょっとした間食として気軽につまんでみてほしい。
Supported by ウォルト・ディズニー・ジャパン
























