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『ワンダーウーマン 1984』衣装解説 ─ 80年代の社会意識が反映されたファッションとテーマとは

ワンダーウーマン 1984
© 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC Comics

2017年に公開され大ヒットした『ワンダーウーマン』の続編、『ワンダーウーマン 1984』がただいま公開中だ。タイトル通り1984年が舞台となっているが、当時の社会意識が衣装や物語のテーマにも映し出されていて、非常に示唆に富んだエンタメに仕上がっている。前作から引き続き衣装を手掛けたデザイナーのリンディ・ヘミングの海外インタビューをもとに、主要キャラクターの衣装から80年代のアメリカ社会を紐解いてみよう。

あらゆる80年代ファッションを披露した「スティーブ・トレバー」

80年代というと、カラフルでポップでどこかチープなファッションを思い浮かべるかもしれない。だが、現実の80年代は、50年代から70年代までのファッションが細分化・多様化されて混在しており、ウェスタン、ロカビリー、パンク、ハードロックなどのサブカルチャーから派生したストリートファッションが、一流のファッションブランドにも取り入れられていた。また、テキスタイルの発達でデニムやスポーツウェアもファッションの一部となり、色々なスタイルが交錯していた時代でもあった。そういった80年代のファッションをリンディ・ヘミングはこう振り返る。

「当時、街中には70年代後半や50年代の装いをした人がまだいたんです。パンク・ファッションあり、テンガロンハットあり、カウボーイブーツあり」※1

そんなあらゆる80年代のファッションを一挙公開してくれたのが、スティーブ・トレバーだ。劇中、生き返った彼は1984年にふさわしい服装をしようと、マイケル・ジャクソン風の服装など80年代の“あるあるコーデ”を披露し、観客を大笑いさせてくれる。

懐かしい80年代の服装をとっかえひっかえした挙げ句、スティーブが最後に行き着いたスタイルは、黒のブルゾン、白T、黒のパンツにナイキのスニーカーとウエストポーチだった。そこには、「彼(スティーブ)は軍人ですから機能性と実用性を第一に考えるはず。だったら動きやすい服、ポケットのある服、今まで履いたことのないラクな靴を選ぶと思いました。そして、あのウエストポーチ――スティーブには便利なアクセサリー、私たちには80年代の思い出です」というヘミングの考えがあった。

面白いことに、スティーブを演じたクリス・パインはウエストポーチの便利さにすっかり魅了されてしまい、自分用にひとつ購入したという。※2

トレーナー姿からボディコンへ進化した「バーバラ」

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ワンダーウーマンの敵となるバーバラもまた、80年代に流行った異なるファッションで我々を楽しませてくれる。まずは、バーバラがスミソニアン博物館に赴任したときに着ているピンクのトレーナーと白のスパッツ。このスタイルには70年代に始まったフィットネスブームが日常着にもたらした影響が見てとれる。スパッツ、レオタード、レッグウォーマー、ヘッドバンドなどはダンススタジオでしか着用されなかったが、バーバラが身につけていたざっくりとしたトレーナーと白スパッツのコーデは、80年代の典型的なファッションだったし、ピンクという明るいカラーもこの時代ならではのものだった。

物語では、自分に自信のないバーバラが同僚のダイアナと出会い、彼女のようになりたいとドリーム・ストーンに願う。その願いが叶ったバーバラがマックスのパーティーへ赴く場面で着飾るのが、レースのボディコン・ドレス。80年代ファッションの代表格、ボディコンの先駆者だったチュニジア人デザイナーのアズディン・アライアのドレスをイメージに、強い女性へと変身していくバーバラの心の変化を表現するために、80年代アイコンだったマドンナのパンクテイストをヘミングが盛り込んだものだそうだ。※2

さらに、バーバラが着用するフェイクファーのジャケットやアニマルプリントのミニスカートも、彼女が“チータ”に変異していく過程を表現しているとヘミングは説明する。特に、破けたストッキングやスカートは80年代に流行したアイテムであり、野生の動物が茂みのなかを駆け抜けてきたような雰囲気を出すために取り入れられたという。※2

ブルック・シールズと『アニー・ホール』をイメージにした「ダイアナ」

様々なファッションが入り混じった1984年、ダイアナが身につけるファッションは、当時一世風靡していたデザイナー、ダナ・キャランやラルフ・ローレンを彷彿とさせる。80年代、ダナ・キャランとラルフ・ローレンは肩パットの入った「パワー・ドレッシング」で有名になっていた。「パワー・ドレッシング」とは80年代に社会進出を果たした、働く母親やキャリアウーマンが自身の“成功や有能さ”を際立たせるための装いをさす。

例えば、型くずれしない素材を使った、着心地のよいミニマルでスタイリッシュなビジネスウェアを得意としたダナ・キャランの影響が、ダイアナが着用する肩パッドの入った柔らかな白やネイビーカラーのブラウスに見受けられる。

また、スティーブと一緒にマックスの会社へ出かけるときにダイアナが着ていた、メンズライクなオーバーサイズのジャケットとワークパンツ、ベストと白シャツは、映画『アニー・ホール』(1977)でアニー役のダイアン・キートンが大流行させた「アニー・ホール・ルック」とそっくりだ。

ワンダーウーマン 1984
(c) 2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (c) DC Comics

「アニー・ホール・ルック」が生まれた逸話を知っているだろうか。『アニー・ホール』の撮影時に「好きな服を着てよい」とウディ・アレン監督に言われたキートンは、衣装の半分に自分の持ち服を使い、自分で全てをコーデした。その際に、アレン監督の親しい友人だったラルフ・ローレンの服を選んだという。

ガル・ガドットがインタビューで語ったところによると、ヘミングとガドットは実際に、ブルック・シールズがモデルをしているラルフローレンの広告を見つけたそうだ。そして、映画内で最もシックでゴージャスな服はマックスのパーティーでダイアナが羽織った白いドレスだろう。これはヘミングが84年に開催されたディオールのファッションショーから見つけたドレスを参考にしたものだという。※3

赤とゴールドが強くなった「戦闘スーツ」と「ゴールドアーマー」

『ワンダーウーマン 1984』
© 2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC Comics

ダイアナが着用する戦闘スーツにも工夫が凝らされた。『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016)から前作の『ワンダーウーマン』(2017)にかけて、ダイアナの戦闘スーツは赤、ゴールド、青がより光り輝く色へと変化していったが、今作は前作よりもさらに、赤とゴールドの色味が強い。それは、前作も今作も監督したパティ・ジェンキンスが80年代のカラフルで明るい雰囲気を戦闘スーツにも取り入れたかったから、とヘミングは語る。

「彼女(ジェンキンス監督)は前作のスーツよりも、もっと奥行きのある赤とゴールドの色味にしたかったのです。1984年という時代を際立たせるために、より一層美味しそうで甘いテイストをもたせました」※4

加えて、戦闘シーンとして一番の見どころである、伝説のゴールドアーマーにも注目してほしい。シリーズ初登場のこのゴールドアーマーは、翼を広げたりたたんだりすることができるというコミックスの設定にそってはいるが、戦闘場面でどのように使うべきか悩んだ、とヘミングは言う。そのとき、ジェンキンス監督はローマ兵が盾を壁にして円陣を組んでいた史実に着想を得て、アーマーの翼を羽だけではなく盾として使うことを提案。

そこからアーマーの翼のデザインを作り上げたヘミング。その結果、アーマーに写る物影が無機質なメタリックのアーマーに、ある種の”表情”を与えてユニークなものに仕上がったが、反面、余計なものが写り込まないようにするために、撮影監督はライティングに苦労をしたそうだ。※2

ワンダーウーマン 1984
(c) 2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (c) DC Comics

”消費主義が正義”とされた80年代のアメリカ。公民権運動、性革命、フェミニズム、ゲイ解放運動や反ベトナム戦争運動などの社会改革が起こった60年代に続き、ベトナム戦争終結後の不況やオイルショックに悩まされた70年代……人々は社会的・経済的な不安に疲れ果てていた。そういうわけで80年代のアメリカの人々は、幸せを“個人的な成功”に求めるようになっていたのだ。お金を含め、自分のほしいもの“すべてを手に入れる”ことが多くの人々の目標になっていたのである。

興味深いことに、こういった社会意識が物語の冒頭に登場するショッピングモールに象徴されているのだ。50年代に誕生した、“消費する場”であるショッピングモールは、ネットショッピングなどの影響で現在は衰退の一途を辿っているが、“アメリカ人の生活の場”として80年代にピークを迎えた。そうして、そんなアメリカの社会意識が、ファッションだけでなくマックスやバーバラの悪役像や物語のテーマにも絶妙に反映されている。ぜひ、こういった時代背景に思いを馳せながら衣装も堪能してほしい。

Source:※1:『ワンダーウーマン 1984』劇場用プログラム,※2:Golden Globe Awards ※3:SiriusXM ※4:CinemaBlend

Writer

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此花わかWaka Konohana

映画ライター。NYのファッション工科大学(FIT)を卒業後、シャネルや資生堂アメリカのマーケティング部勤務を経てライターに。ファッションから映画を読み解くのが好き。手がけた取材にジャスティン・ビーバー、ライアン・ゴズリング、ヒュー・ジャックマン、デイミアン・チャゼル監督、ギレルモ・デル・トロ監督、アン・リー監督など多数。 お問い合わせは Twitter @sakuya_kono  / Instagram @wakakonohana まで。

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