『バーベンハイマー』キノコ雲のポップなミーム化は見たくない

しかし『バーベンハイマー』がネットミーム化するにあたって、我々日本人にとってどうしても見逃せないところがある。両作を組み合わせたファンアートで、しばしば「キノコ雲」がポップに描かれていることだ。例えば以下のように。
こうしたファンアートでは大抵の場合、キノコ雲が『バービー』のピンク色に染まり、それを両作のキャラクターが眺めている。恐ろしさと可愛らしさがマッシュアップされた異物感が楽しまれているようだ。また、「I Survived Barbenheimer 2023(私は2023年のバーベンハイマーを生き延びた)」というフレーズも散見され、中にはTシャツやマグカップ、ステッカーなどとして販売されているものもある。
ここで注意しなくてはならないのが、これらのアートは映画の配給会社や製作陣が意図して作成したものではなく、あるいは奨励したものでもないということ。あくまでも二次創作の領域で、ファンが自発的に作成したものである。
言わずもがな日本人にとってキノコ雲とは、先の大戦と原爆投下の悲劇を最も痛々しく印象づけるもの。現在の日本人の8割以上が戦後生まれであるにせよ、母国の暗く重い歴史の象徴が、海外で知らないうちにポップな文脈で扱われ、拡散されている様を歓迎できない人も多いのではないか。
日本では学校教育などを通じて原爆被害やキノコ雲の恐ろしさに繰り返し触れることがあるが、海外ではそうでもないのだろう。筆者の米在住アメリカ人の友人はInstagramのストーリーで、『オッペンハイマー』鑑賞に向けてキノコ雲がモクモクと立ちのぼるGIFアニメを貼り付けていた。
『バーベンハイマー』の二次創作で、キノコ雲が単に荒唐無稽なアイコンとして用いられることに、違和感や不快感を覚える日本人がいるということを、こうしてどこかに記しておいても良いはずだ。この少し残酷なすれ違いについて、果たして本国の配給側はどれほど意識的でいるのだろうか。『バービー』も『オッペンハイマー』も映画ファンとして純粋に楽しみにしているからこそ、キノコ雲のミームが、間違っても公式に採用されないことを願う。
ところで『オッペンハイマー』だが、もしも今後日本で上映されるのであれば、宣伝ではあらゆる配慮が求められるのだろう。例えば、ヒット(hit)には「被弾させる」という意味もあるが、本作が成功したとして「大ヒット」と表現して良いものだろうか?
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