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2011年の映画『コンテイジョン』新型コロナウイルス問題との恐るべき一致 ─ パニックやデマに陰謀論、脚本家はどう見る

コンテイジョン
© Warner Bros. Pictures 写真:ゼータ イメージ

今、とある映画がふたたび大きな注目を集めている。スティーブン・ソダーバーグ監督が2011年に手がけた『コンテイジョン』だ。わずか数日で人命を奪いかねない危険なウイルスが香港から世界各国へ拡散、たちまち致死率が20%を超え、世界が大混乱に陥っていくさまを描いたパンデミック・スリラーである。

劇中の出来事は、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大が切実な問題となった世界の情勢にピタリと重なる。感染経路の追跡をはじめとする科学的調査、人々の間で沸き上がる公的機関への不信、インターネットやメディアを通じて拡散されるデマといったトピックは、まるで今の現実を見ているかのよう。まずは予告編から、その恐るべき一致を確かめてほしい。

本作の脚本を執筆したのは、ソダーバーグ監督作品『インフォーマント!』(2009)『サイド・エフェクト』(2013)などを手がけ、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の脚本にも参加したスコット・Z・バーンズ。バーンズ氏とソダーバーグ監督は、「きちんと科学に基づいてパンデミックを描きたい」との思いから本作に着手。約2~3年を費やして、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)や科学者に対する取材に取り組んでいる。

Slate・米Varietyは、新型コロナウイルスが全世界の問題となっている今、改めてバーンズへのインタビューを実施。『コンテイジョン』執筆当時を振り返りながら、バーンズは現状に対する意見と不安を訴えている。

映画と重なる現実、「驚きはしなかった」

10年以上前に書かれた『コンテイジョン』のストーリーと、現在の状況が奇妙なほど重なって見えることについて、バーンズはどう捉えているのか。率直な問いかけに対し、まずバーンズは「人々が病気になり、亡くなっていることに非常に動揺しています。作り手というよりも、人間として打ちのめされています」と述べている。それから、映画と現実が重なっていることに「驚きはしなかった」とも。

「ソーシャルメディア上や、友人たちと話していて、“(現実に)ものすごく似ているね”と言われるんですが、僕にはそれがすごく奇妙に思えるんです。私自身は驚きはしなかったですよ。(リサーチのために)話した科学者たちの多くは、問題は“起こるかどうか”ではなく、“いつ起こるか”だと言っていました。だから科学を信じる者のひとりとして、彼らの言うことには耳を傾けたほうが良いと思いますね。」

バーンズいわく、リサーチに協力した科学者たちは、「パンデミックが起こったらどうなるか、ベストな予測を立てるのが最も大切だ」との信条で仕事にあたっていたという。「SARSはすぐに収まりましたが、もしウイルスが安定していたら、きっと我々は(映画と)同じ道をたどっていたでしょう。コロナウイルス(COVID-19)も同じです。科学者が正しいことに驚きはありません」。

その一方で、バーンズが「まったく予想できなかった」と語っていることがある。2018年、ドナルド・トランプ米大統領がCDCの予算を大幅に削減し、国家安全保障会議の感染症対策チームを解散したことだ。

「長い時間をCDCで過ごして、今回のような問題に取り組むのを待っている人たちが、本当に熱心な方々がいることを知りました。だから、政府が公衆衛生やパンデミック対策、科学に予算を割かず、それどころか、我々を守ろうとしている人々を信用しないなんて、脚本家として考えたこともありませんでしたよ。まったく予想できなかった。

たとえば消防士のことを、ほとんど仕事もしないでダラダラしている仕事だと考える人もいるでしょう。だけど、自分の家が燃えてから消防署を作ることはできない。そういうところを削減するってことは、必要になった時にもう一度作り直そうということで、そんなのはバカげているし危険なことです。政府にパンデミックの対策チームがいたのは、それが本物の脅威だからですよ。政府がそこを切り捨てると決断するのは、我々全員をリスクにさらすことです。」

公衆衛生、パニックの問題

『コンテイジョン』の執筆にあたり、バーンズはリサーチを通して「“公衆衛生”の本当の意味を学んだ」と語っている。「私の理解では、それはお互いに対する責任なのです」。バーンズはアメリカという国のなかで分断が起きていることに言及しながら、今こそ“橋を架ける”べきタイミングだと強調しているのだ。

「もし我々が正しいことをするとしたら、それは隣人との違いにかかわらず、お互いの安全を守り続けることでしょう。それは、なるべく人との接触を避けるということだし、頻繁に手を洗うということだし、病気ならば家にいるということ。そういうことが優れた第一歩になるのです。薬学的、科学的な治療薬が作られるまでは、私たちこそが治療薬。つまり、治療薬になりえるということです。公衆衛生局からの言葉をよく聞き、全員の仲間である人々への義務を意識することで。」

一方で『コンテイジョン』には、そうした行いとは真逆の振る舞いも描かれている。公開当時、日本版ポスターには「【恐怖】は、ウイルスより早く感染する」とのコピーが記されたが、劇中にはデマを信じ込む人々や、恐怖心に取りつかれて暴動を起こす人々も登場するのだ。扇動するのは、ジュード・ロウ演じるフリー記者のアラン・クラムウィディ。彼はブログを通じ、“世界保健機関(WHO)やCDCは真実を伏せている、製薬会社と手を組んで利益を得ようとしている”との陰謀論を発信する。さらには、自分もウイルスに感染したと嘘をつき、漢方薬「レンギョウ」で治癒に成功したというのだ。もちろん、レンギョウが治療に有用だという科学的根拠はない。

「当局職員にとって最大の懸念は――ジュード・ロウの役がやったように――不当に利益を得る行為が横行することでした。いま、私たちはまさにそういう状況を見ていますよね。じゃあ、価格の吊り上げをやめさせる司法はどこにあるのか。誤った治療法がインターネットで売られるとき、法はどうするのか。それに、たとえば火事が起きていない場所で“火事だ!”と叫ぶのが法律違反なら、火事のさなかに“落ち着け!”と叫ぶのも法律違反であるべきでしょう。お互いを守るため、どんな情報が本当に大切で、どんな情報がパニックを煽るのか、しっかり気を遣わなければいけないし、責任を持たなければいけないと思います。映画ではそういう連鎖反応を描くことも大切だと考えていました。」

ちなみにアメリカは、新型コロナウイルスが社会問題となっているさなか、来たる大統領選に向けての“選挙シーズン”真っただ中。バーンズは、このことも事態をいっそう複雑にしていると語る。「私が非常に懸念しているのは、投票する側と、出馬する側の両方が、現在の事態を政策に使ったり、自分たちを良く見せるためのストーリーに組み入れたりすること。そんなものは役に立ちはしないから。」

Source: Slate, Variety, Business Insider(1, 2, 3

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

THE RIVER編集部。「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。劇場用プログラムや各種媒体への寄稿なども喜んで承りますので、お気軽にお尋ねください。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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