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『ありがとう、トニ・エルドマン』ユーモラスでハートフル、人生を楽しむ父親と娘の絆 ─ 自粛疲れに効く、元気貰える映画を1日1本紹介

ありがとう、トニ・エルドマン
© Sony Pictures Classics 写真:ゼータイメージ

新型コロナウイルス感染拡大を受け、東京など7都道府県では緊急事態宣言が発令された。映画館は休業となり、日常生活も奪われてしまった。

THE RIVERでは、長く続く「自粛疲れ」に効く、編集部メンバーそれぞれがオススメする映画をご紹介。「明るく、元気が貰える」をテーマに、1日1本、4日連続でお届けする。自宅待機のお供に、ぜひ参考にして欲しい。

2日目は、MINAMIから『ありがとう、トニ・エルドマン』(2016)をご紹介。

『ありがとう、トニ・エルドマン』

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、日本でも遂に「緊急事態宣言」が発令された。これによって自宅待機を余儀なくされてしまった人がより一層増えたことだろう。そんな先の見えない状況で暗い気持ちになっている人たちを少しでも元気づけるため、筆者がお薦めしたいのは、性格も立場も異なる父娘が織り成す奇想天外な交流をユーモラスに描き、世界中が笑いと感動に包まれた、映画『ありがとう、トニ・エルドマン』だ。

主人公は、破天荒で悪ふざけが大好きな父親ヴィンフリート。のっけから実在しない刑務所帰りの弟を1人2役で演じ、郵便配達員をからかってみせるような男だ。そんなヴィンフリートは、コンサルタント会社で奮闘中の娘イネスとの関係が上手くいっていない。たまに会っても仕事の電話ばかりしている娘を心配したヴィンフリートは、彼女が務めるブカレストへサプライズ訪問することに。

偶然を装って突如会社に現れた父に戸惑うイネスは、追い返すのも酷と思い、彼をレセプションに招待する。しかしそこでも冗談を連発する父にイネスは頭を抱えてしまう。関係は悪化する一方だが、何とか父を追い返すことに成功する。しかし帰国したはずだったヴィンフリートが、今度はカツラと入れ歯を装着し、“トニ・エルドマン”を名乗りイネスの行く先々に現れ始める……。

どうしようもない嘘をついたり、くだらない冗談を吐いたりなど、誰もが呆れてしまうようなヴィンフリートだが、実はとにかく人生を純粋に楽しむことを肝に銘じており、それを娘にも理解してもらいたいだけなのだ。例えば、いつの間にかユーモアをなくし、働くロボットのようになってしまった娘の姿を見たヴィンフリートは、たまらず「お前は人間か?」と口にしてしまう。感情を失ったイネスを呼び起こそうとするこのシーンは、現代社会を懸命に生き抜こうともがく、全ての人に捧げられたエールだ。

また、しつこく絡んで来る父に対してイライラを募らせたイネスが、「パパにとって生きる意味って何?」と父に問うシーンでは、「とっさには答えられない。ただお前を心配しているだけだ」と、娘への想いを一心に伝える。嫌悪感しか芽生えないヴィンフリートだが、不器用にも娘を励まそうとする姿に心を奪われてしまうだろう

本作は父と娘の真実の愛を描くだけでなく、様々な分断に揺れるヨーロッパ社会も風刺している。イネスが暮らすブカレストは、ルーマニアの首都であり、海外の金持ち向けのホテルや商業施設が充実している高級エリアだ。しかし中心部を一歩超えれば、そこには貧しい人たちが大勢住んでいる。そんな貧しい地域を見下ろすことに違和感さえ感じずにいるイネスの姿も描かれており、今を取り巻く恐ろしい格差社会が浮き彫りになっていくのだ。

最後に、控えめな劇伴や手持ちカメラを用いて演出されるリアリズム、役者陣によるナチュラルな演技、イネスが歌うホイットニー・ヒューストンの代表曲「グレイテスト・ラブ・オブ・オール」、そして大爆笑必至のパーティーシーンにも注目して、是非ご覧いただきたい。鑑賞後には思わず「ありがとう、トニ・エルドマン」と胸いっぱいになっていることだろう。

Writer

南 侑李
minami南 侑李

THE RIVER編集部。「思わず誰かに話して足を運びたくなるような」「まるで、映像を見ているかのように読者が想像できるような」文章をモットーに映画の記事を執筆しています。四六時中、「映画」のことばかり考えている映画人間です。どうぞ、宜しくお願い致します。

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