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【ネタバレ】『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』リック・ダルトンの名作シーン、こうして完成した

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
Leonardo DiCaprio star in Columbia Pictures メOnce Upon a Time in Hollywood"

この記事には、映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のネタバレが含まれています。

リック・ダルトンと『大脱走』

西部劇ドラマ「賞金稼ぎの掟」を代表作とするテレビ俳優リック・ダルトンは、キャリアの岐路に立たされ、映画界への転身を図っている。しかし、その試みは必ずしもうまくいかない。テレビ界では主演スターとしての座を追われつつあるリックは、後輩の主演ドラマに悪役としてゲスト出演したり、撮影の本番中にはセリフに詰まったりと、“我ながら情けない”日々を送っているのだ。

そんなリックは、ある時、スタジオでひとりの後輩俳優と言葉を交わす。ドラマ「対決ランサー牧場」(1968-1970)に主演するジェームズ・ステイシー(演じたのはティモシー・オリファント)だ。ジェームズはリックに、スティーブ・マックイーンの代わりに『大脱走』(1963)に出演するかもしれなかったという話は本当か、と尋ねる。ジョン・スタージェス監督に気に入られていたという話はどうなのか、と。

むろん、リックは『大脱走』には出演していない。もし出演が叶っていたら、マックイーンよろしく映画スターになれていたかもしれないが、リックはそうはならなかったのだ。しかしリックの脳裏には、“もし出演が叶っていたら”のイメージがよぎる。『大脱走』に自分が出演し、マックイーンと同じセリフをしゃべっていたら。ここで観客は、実際の『大脱走』に、マックイーンではなくリック・ダルトンが出演しているという“幻”を目の当たりにすることとなる。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
2488029 – ONCE UPON A TIME IN HOLLYWOOD

『大脱走』の本編映像からマックイーンを削除し、代わりにディカプリオを挿入する。本作で映画史そのものにアプローチしようというタランティーノの姿勢は、物語の結末のみならず、実はこの場面から炸裂しているのだ。

実は、撮影監督のロバート・リチャードソンが「『大脱走』をやるのは比較的シンプルなことでしたよ」と米Business Insiderに語っているように、このシーンを生み出す作業はさほど複雑ではなかった。まずは、ディカプリオが、『大脱走』でマックイーンが着用したのとそっくりの衣裳に身を包み、グリーンスクリーンを背景に、マックイーンと同じセリフを口にする。撮影監督の課題は、後から『大脱走』にきちんと合成できるよう、正しい高さとレンズで撮ることだったという。

苦戦を強いられたのは、『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(1977)から『シャザム!』(2019)までを手がける、CGの大巨匠ジョン・ダイクストラ率いる特殊効果チームだ。「『大脱走』の本編映像からマックイーンを削除し、代わりにディカプリオを挿入する」。言葉にするのは簡単だが、実作業は困難を極めた。すべての作業が適切に完了するまでには数ヶ月を要し、2019年5月、本作がカンヌ国際映画祭にて世界初上映を迎えた時点で『大脱走』の映像は未完成だったという。したがって、カンヌでの上映版では、ジェームズがリックに『大脱走』について尋ねるシーンは2人が会話するだけの編集となり、リック版『大脱走』は挿入されていない

ソニー・ピクチャーズのトム・ロスマン会長は、ディカプリオが『大脱走』に“出演”するシーンに大喜びした一人。「むかし『大脱走』を観た人なら、スティーブ・マックイーンの代わりにレオが出てくるのにはびっくりしますよね。あまりにうまくできてるので、私も驚きました」。ちなみに『大脱走』の権利はソニーではなく米MGM傘下のUnited Artistsが保有しているが、『ワンハリ』に映像を使用するための権利料は「高くなかった」とのこと。「古い映画のライセンスはそんなに高くないんですよ」。

映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は大ヒット公開中。

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Source: Business Insider

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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