『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』シャロン・テートは「タランティーノ作品らしさを避けた」 ─ 監督が人物に託した願いとは

レオナルド・ディカプリオ&ブラッド・ピットをダブル主演に迎えた、クエンティン・タランティーノ最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』には、1969年8月、マンソン・ファミリーによって惨殺される若き女優シャロン・テートが登場する。事件そのものを扱うかどうか逡巡したというタランティーノは、本作に登場するシャロンの存在に、ある“祈り”を込めていた。
ポッドキャスト「The Director’s Cut」にて、タランティーノは、シャロンを演じたマーゴット・ロビーは本作に必要不可欠だったと明かしている。「この映画にマーゴットがいないなんて想像できない」とまで言わしめたのは、マーゴット自身が持っている“力”ゆえ。タランティーノは「マーゴットには彼女自身の圧倒的な力があるんです。ものすごい明るさと善意がある」と言っているのだ。それこそが、本作のシャロン・テートには欠かせなかったのである。
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タランティーノがシャロン・テートを登場させた理由
「僕は、シャロンをクエンティン・タランティーノ作品のキャラクターにしないように努めていました」。単刀直入に、タランティーノはこう述べている。個性あふれるキャラクターが入り乱れることで知られ、映画ファンに愛されてきたタランティーノ作品だが、監督自身はシャロンという人物をその枠組みに取り入れることを忌避していたのだ。
「リック・ダルトンはクエンティン・タランティーノらしいし、クリフ・ブースもクエンティン・タランティーノっぽい。スティーブ・マックイーンでさえ、ちょっとクエンティン・タランティーノっぽいでしょう。だけど、シャロンはそうしたくなかった。彼女は彼女のままにしておきたかったんです。もちろん、僕が学んだことから解釈した人物でしかないんですけど。(劇中のシャロンは)明るく、軽やかな方向に寄せていますが、僕はそれこそが彼女だと思ったんです。別の側面があったにしても、僕にはそれを見つけることができなくて。」

そもそもタランティーノは、シャロンについて「映画の中で“普通であること”を表現するはずだった」女優だと語っている。しかしそのイメージも、彼女自身が犠牲になった惨殺事件から切り離せるわけではない。「シャロン自身がそういうつもりでなくとも、僕たちは(映画に)彼女の生きざまを見ています。だって、それは彼女が奪われてしまった人生だから」。
タランティーノ自身も認めるように、シャロンは「悲劇的な死によって定義づけられ、歴史に残った」存在である。だからこそ本作では、自分らしさの色に染めるのではなく、むしろあらかじめ付加されている無数の情報を剥ぎ取るような演出が試みられていたのだ。
「マーゴットがシャロンを演じるところを、実際のシャロンはそれ(事件の被害者)以上の人物だったというところを観ていただいています。シャロンはすごく素敵な人で、みなさんには彼女の精神や人生を感じ取ってもらえている。彼女は、普通の人が日常的にやるようなことをやるわけです。お使いもするし、車も運転する。本物のシャロン自身さえ(マーゴットに)並んで見えてくるように思いますね。
いまや、みなさんは従来とは違った形でシャロンについて考えることになるでしょう。彼女や、あらゆることについては、始まりと終わりだけじゃなくて、もっと学べることがある。とにかく彼女を甦らせるという点でいえば、この映画ではそういうことをやったんです。小さいけれど、意味のあることだと思っています。」
映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は大ヒット公開中。
Sources: The Director’s Cut, Collider