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なぜ『スパイダーマン』『ヴェノム』邦題は原題のままなの? 『ピーターラビット2』ソニー・ピクチャーズに聞く洋画宣伝の裏側

ピーターラビット2/バーナバスの誘惑

なぜ、この洋画にはこの邦題がついたのだろう?なぜ、日本版ポスターは本国版と違うのだろう?日本独自のローカライズ施策に対するファンの声を、配給会社は汲み取っているのだろうか?

洋画ファンならば一度は気になったことがあるであろう、映画宣伝の素朴な疑問を、THE RIVERでは映画『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』の公開を迎えたソニー・ピクチャーズ エンタテインメントに聞いてみた。

インタビューに応えてくださったのは、同社映画部門 マーケティング部にて、マーケティング部長として配給作品のプロモーションを行う堀内啓さん。『ピーターラビット2』の副題や日本版ポスターに込められた意味や、『スパイダーマン』『ヴェノム』シリーズの邦題が原題のままである理由、『ヴェノム』の「最悪」ポスター制作の経緯や、『スパイダーマン:スパイダーバース』ローカライズの背景、日本語版主題歌の理由など、普段は決して聞けない貴重な宣伝の裏側をじっくり教えてもらった。

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洋画ファン(&洋画宣伝ファン)必読のロングインタビューだ。

『ピーターラビット2』日本版ポスターの秘密

──まずは『ピーターラビット2』の公開おめでとうございます。堀内さんは、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントのマーケティング部長として、『ピーターラビット2』ではどのようなお仕事をされているのでしょうか?

弊社は、全作品において、部員全員で宣伝のコンセプトや企画を立て、施策を実行しています。マーケティング部長という肩書ではありますが、全作品の予告編やポスターなどのクリエイティブ制作から、宣伝全体を統括するプロデュース業務を行っています。

──『ピーターラビット2』のコンセプトはどういったものですか?

弊社が配給するほとんどの作品では、市場調査のためのリサーチを行います。今作の場合は、1作目の鑑賞客をあぶり出し、『2』に期待されている要素を明らかにしました。約20,000名を対象にリサーチした結果、前作の鑑賞者は20代〜50代の女性が圧倒的に多かった。その中で「『2』も観たい」と考えている人は、20~30代の女性に絞り込まれたんです。

1作目の公開当時、SNS上で「ウサギ版アウトレイジ」とか、「思っていたイメージとは違う」というような声がありました。百貨店の「ピーターラビット展」のような催事でWEDGWOODのお皿を購入されるような方からすると、この映画は「裏切られた感」があったかもしれません。しかし、20〜30代の女性のお客様は、このギャップ(悪いウサギ)を続編にも期待していることがわかりました。

そんな中で、ロサンゼルス本社で開発されたティザーポスターが、こういったものでした。可愛らしいですよね。

新作を売り出す上では、「新たな要素」の訴求が重要です。本作では、ピーターラビットが都会に出ていき、バーナバスという悪のウサギに出会うことによって、さらに悪くなります。新要素である“バーナバス”と“もっと悪くなる”という点が、続編の鑑賞も希望されている20〜30代との親和性が高くなると考えました。これをビジュアル上でも表現したいという意向があったのですが、このティザーポスターでは打ち出すことができない。そこで、日本独自に新しいビジュアルを開発しました。それがこちらです。

ピーターラビット2/バーナバスの誘惑

ポケットに手を突っ込んで悪ぶったピーターと、彼を悪に引き込むバーナバスの存在をしっかり訴求しています。キャッチコピーは、「湖水地方なんか、ウンザリだ!」。往年のピーターラビットファンからすると、「湖水地方を捨てるなんて」と驚かれるかもしれませんが、20~30代のお客様には新たな刺激を感じていただけるのではないかと推測しました。

それからリサーチの結果、評価の高かった結婚式のシーンと各ウサギのキャラクター達も背景にレイアウトしました。ピーターラビットの良さは、単純に動物界だけはなく、人間との共存・人間との対話を興味深く描いているところです。

──確かに前作は、ファンの間で『ウサギ版アウトレイジ』や『マッドマックス 怒りの湖水地方』と言われ、可愛らしい動物と激しい物語のギャップが楽しまれたのだと思います。今作の日本版ビジュアルも、そのギャップを演出されているのですね。
そこでポイントになってくるのが、ピーターを悪に導くバーナバスの存在です。海外版と日本版の予告編映像を見比べてみると、海外版ではそこまでバーナバスが推されていない印象です。日本では哀川翔さんを吹替声優に起用して、哀川さんによるプロモーションも打たれていると思います。さらに、本作の邦題は『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』ですが、原題は『Peter Rabbit 2: The Runaway』ですよね。日本では副題を変更してまで、このキャラクターをしっかり見せることになった経緯は?

繰り返しになりますが、続編には新しい要素が求められます。「相変わらずピーターが悪かった」だけでは具体的な進化が見えないと考え、バーナバスという悪いウサギの登場を押し出すことになりました。副題の「誘惑」は、ピーターが悪の道に引きずり込まれるということを匂わせています。

とはいえ、バーナバスも見た目はやっぱり可愛いウサギなんですよね。このウサギが本当に悪いんだぞということをダイレクトに伝えるために、悪役を演じることに定評のある役者さんをキャスティングすることになり、哀川翔さんの起用に至りました。

バーナバスは劇中ではサングラスを使用していないんですが、日本版のポスターではサングラスを持たせています。哀川さんをイメージできる、すこし「悪そう」なサングラスをデザインしています。

──バーナバス役には哀川さんしかいない!というファーストチョイスでしたか?

はい。さらにいうと、哀川さんが洋画の吹替をされるのも初挑戦になりますから、ひとつのニュースになるだろうと。あの哀川さんがウサギを演じるというのも、まさに映画の持つ「ギャップ」という魅力と重なりますので、迷いなく哀川さんにオファーさせていただきました。

──サングラスを取り入れた日本版ポスターや、哀川翔さんという有名人の起用は、もちろん本国の承認を経ているわけですね。

もちろんです。洋画吹替の声優は、事前に声を収録して、ボイスサンプルを本国に提出して、それでオーケーが出てから初めて配役されるんですよ。哀川さんには失礼になるのですが、オーディションをくぐり抜けて頂いた後のキャスティングなのです。結果として、キャラクターとして最適なキャスティングになったと思います。

──『ピーターラビット』は「ギャップ」が見どころですね。今作でもその「ギャップ」は健在ですか?

前作は、可愛いウサギの話だと思いきや、マクレガー家との抗争といった激しい内容が描かれるというギャップが楽しまれました。今回でのギャップは、ピーターが闇落ちするような、悪い話なんじゃないかと思いきや、実は根底には父子の心温まる要素があるところです。反目していたマクレガーさんとの絆や、バーナバスに父親の面影を感じてしまうピーターのセンシティブな面など荒くれた話だけではなく、心温まるエピソードを劇場で体験していただきたいですね。

──本シリーズのウィル・グラック監督は、前作では戦争映画の『プライベート・ライアン』を参考作にあげていて、今作では強盗映画を参考にしたそうです。映画ファンが喜ぶような、まさかの角度からのオマージュがあるというのも『ピーターラビット』の魅力ですよね。

我々も「『オーシャンズ』シリーズのようなシーンもあるよね」という話はしていました。そういった所は、ぜひ観ていただいたお客様に、SNSで話題にしていただきたい。さらに、アストンマーティンが出てきたり、陸・海・空と動き回ったり、そういうところはちょっと『007』シリーズ的なシーンがあり、実はポスターでユニオンジャックをひっそり忍ばせているのは、そんな要素を意識もしているんです。

──SNSのファンの声もチェックされているわけですね。

はい、めちゃくちゃチェックしています。SNSチェック、大好きです(笑)。

──今作のお気に入りのシーンはどこですか?

気に入りすぎて、ほとんどの動画クリエイティブに使っているんですが、結婚式でのピーターのドロップキックですね。ウサギが人間にドロップキックを浴びせるというキラーショットに興奮しました。やっぱりやってくれたぜ、という感じが(笑)。

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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