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【レビュー】『シャン・チー/テン・リングスの伝説』マーベル新時代がアジアから始まるということ

シャン・チー/テン・リングスの伝説
©Marvel Studios 2021

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)新ヒーローの誕生を描く新作映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』が、2021年9月3日よりついに公開となる。MCUファンは当然のことながら、アクション映画ファン、特にカンフー映画がお好みの方も大注目の作品だ。公開に先駆け、ネタバレなしでレビューをお届けしよう。

MCU最強かつ最高芸術点のアクション

これまで、SFやスリラー、学園モノにシットコムなど個性的な作風と共にユニバースに豊かな幅をもたらしてきたMCUが、『シャン・チー』で扱うのはカンフー映画。監督のデスティン・ダニエル・クレットンは本作について、ジャッキー・チェン映画や『グリーン・ディスティニー』(2000)、ドニー・イェンの『イップ・マン』シリーズなどから影響を受けたと公言している。その情報通り、『シャン・チー』ではMCU史上最高芸術点が与えられると言っても過言ではない、美しいマーシャル・アーツを堪能できる。

予告編ではシャン・チーがサンフランシスコのバス車内で悪党相手に格闘するシーンがフィーチャーされているが、これは全編にわたって繰り広げられるアクションのうちの、ごくごく一部にすぎない。この映画は、コレオグラフ(アクション振付)を通じて、驚きや愛、憎しみや自信といった豊かな物語を表現している。実践的な拳法をベースに、往年のユエン・ウーピン作品を彷彿とさせる、ワイヤーアクション調の幻想的で優美な動きを取り入れたアクションのひとつひとつは惚れ惚れするばかりで、鑑賞料金に値する芸術品を見せつけてくれる。

シャン・チー/テン・リングスの伝説
©Marvel Studios 2021

アジア系キャスト、しなやかに

香港スターのトニー・レオンは、息子シャン・チーに最強の武術を叩き込んだ犯罪組織のボス、ウェンウーという悪役で、本作でハリウッドデビューを飾っている。中国史の裏で何百年にも渡って暗躍したとされるこの男は、「悪に染まった」と紹介されているように、愛する妻と出会ったことで、家族思いの素朴な父親となっていた。しかし、妻を殺された復讐のため、一度捨てたテン・リングスの力を再び操り、今では犯罪組織の非情なリーダーとなっている。

レオンの研ぎ澄まされた眼光は、スクリーンにも良く映える。アジアの巨匠らとの仕事を重ねてきたレオンの熟練技を前にした監督は、最初のテイクにカットをかけた直後に「彼に何を監督すればいいのわからない」と漏らしたそうだ。

シャン・チー/テン・リングスの伝説
©Marvel Studios 2021

主人公役のシム・リウと、その親友ケイティ役のオークワフィナは、スーパーヒーロー映画のメインキャストを演じるにはすこし地味ではないかとの声もあった。そうした批判は、おそらく本編を鑑賞すれば止むはずだ。シム・リウは、絞りあげた肉体がしなやかに、それでいて力強く躍動する、寸分の隙もないカンフーアクションで魅せてくれるのはもちろんのこと、キャラクターが抱く父への複雑な思いを、全編を通して繊細に揺れ動かしている。やがてはアベンジャーズにも合流していくであろう新たなるスーパーヒーローの誕生を、劇的な形で成立させているのだ。

ケイティ役のオークワフィナは本編でサイドキックに徹しながらも、物語が進むにつれて驚くべき魅力を纏うようになる。本作では移民二世としてのアイデンティティも重要なテーマとなっているが、これは主にケイティを通じて表現されている。オークワフィナといえば『フェアウェル』(2019)や『クレイジー・リッチ!』(2018)といったアジア系コミュニティを祝福する作品で活躍しており、本作でのケイティ役もなめらかに演じている。ケイティとシャン・チーの男女の友情はとても愛らしいもので、トニーとピーター、ワンダとヴィジョン、サムとバッキーといったMCUの名コンビの中にも、肩を組んで仲間入りするだろう。

シャン・チー/テン・リングスの伝説
©Marvel Studios 2021

アジアを描く作品として

『ブラックパンサー』でアフリカ系コミュニティをフィーチャーしたMCUが、ついにアジア系コミュニティにスポットライトを当てる。『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)では日本の街が(少々イビツな形で)登場したほか、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015)や『ブラックパンサー』(2018)では韓国が大きな見せ場の舞台となったが、主な舞台やテーマとしてアジアが紹介されるのはMCU初のことだ。

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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