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『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』ジョン・ワッツ監督、次回作は未就任 ─ ソニー/マーベルの対立報道、「かつてない契約」あらためて解説

スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム
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マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のスパイダーマン映画、『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019)を手がけたジョン・ワッツ監督が、同シリーズの第3作に未契約であることが話題を呼んでいる。

2019年8月21日、MCUの映画部門を統括するディズニー/マーベル・スタジオと、これまでスパイダーマン映画を製作してきたソニー・ピクチャーズの事業提携に関する契約交渉が決裂したことが判明した。これによって、スパイダーマンがMCUを離脱する可能性があるとの見方が強まったが、ソニー側は直後に公式声明を発表。マーベル・スタジオのケヴィン・ファイギ社長が『スパイダーマン』シリーズの新作映画でプロデューサーを務めないことのみを認め、マーベルとソニーの契約関係、MCUとスパイダーマンの今後については言及しなかった。

ソニーによる公式声明はこちら

ジョン・ワッツ監督が『スパイダーマン』第3作に契約を結んでいないという情報は、一連の流れの中で米国の大手メディアによって伝えられたものだ。米Deadlineによると、ソニーは『スパイダーマン』映画を2作品製作する計画で、ピーター・パーカー/スパイダーマン役のトム・ホランドとジョン・ワッツ監督の続投を希望しているとのこと。ただし、ワッツ監督とソニーは第3作以降の契約を結んでいないため、続投が叶うかどうかは不透明だとされたのだ。米The Hollywood Reporterによれば、ホランドはあと1作品への出演契約が残っているが、ワッツ監督はひとまず契約を満了しているため、ほかのプロジェクトを選ぶこともできる状況だという。

しかし、である。映画シリーズの最新作が公開された時点で、監督が次回作に続投することが決まっていないというケースは決して珍しくない。現に、ワッツ監督が『ファー・フロム・ホーム』の契約交渉に入ったと報じられたのは、第1作『ホームカミング』が米国で公開された直後の2017年7月20日で、続投が正式に確定したのは2017年12月だ。『ホームカミング』の公開時点で『ファー・フロム・ホーム』の米国公開日は決まっていたが、ワッツ監督の続投は決まっていなかったのである。ましてや、現状『スパイダーマン』第3作については公開日はおろか製作時期も不明。背景にマーベルとソニーの契約問題があるためだとみられるが、こうした状況下で監督の続投が決まっていないのは無理もない。

ちなみに、同じくMCU作品の近作を手がけた監督たちの場合、『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017)のタイカ・ワイティティ監督は新作『マイティ・ソー/ラブ&サンダー(原題:Thor: Love and Thunder)』就任以前に複数の作品を手がけているし、『ブラックパンサー』(2018)のライアン・クーグラー監督も続編就任以前に別の作品を撮りたいとの意向を示しているという。仮にワッツ監督が別のプロジェクトに移るとしても、いずれ『スパイダーマン』シリーズに再契約する可能性は十分にあるのだ。マーベルとソニーの間に起こっている契約の問題と、ホランドやワッツ監督の契約の問題は、ひとまず全くの別物だ。

スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム
ジョン・ワッツ監督

ところで、ワッツ監督が次回作への契約を結んでいないのがさして珍しくない状況である一方、スパイダーマンをめぐるマーベルとソニーの事業提携は、そもそもの成り立ちが“とんでもなく珍しい”ものだった

報道によれば、2014年に契約が結ばれた当時、契約書はわずか4~5ページのシンプルなもの。最初の契約では、ディズニー/マーベル・スタジオは映画製作に係る報酬を受け取らず、代わりにソニーからスパイダーマンの商品化権を1億7,500万ドルで買い取った。そして、年間およそ3,000万ドルといわれる特許使用料をソニーに支払うことで合意している。

そしてマーベル・スタジオ社長のケヴィン・ファイギは(映画を作る行為だけでは利益が生じないにもかかわらず)自らソニーに出向いて作品のプロデューサーを務めることになった。一方のソニーは、スパイダーマンの権利は自社が保有するものながら、ケヴィン社長に自由な裁量を与えている。関係者いわく、当時のマーベル・スタジオは「スパイダーマンを自社の映画に登場させることが最大のモチベーションだった」そう。ちなみに前述の特許使用料は、ケヴィン社長がプロデューサーを務めた映画の興行的成功によって多少なりとも左右されていたという。

一方のソニーは、その後もMCUに属しない『スパイダーマン』映画を製作しており、『ヴェノム』(2018)が世界的大ヒットを、『スパイダーマン:スパイダーバース』(2019)がアカデミー賞に輝く成功を収めてきた。しかしながら、こうした経験は、ソニー幹部に「もはやマーベル・スタジオ抜きでもやっていける」との印象を与えたとも証言されている。

とはいえ、そもそも成り立ちがこれ以上ないほど珍しいものである事業提携ゆえに、ケヴィン社長の『スパイダーマン』映画からの離脱が何を意味するのかもなおのこと不明だ。ケヴィン社長が離脱する、イコール、スパイダーマンがMCUから離脱すると見る向きもあるが、事態がさらに珍しい展開を見せることもありうる。むろん、このままストレートにスパイダーマンがMCUを去ってしまう可能性もあるのだが。

ちなみに業界の専門家たちの中には、「スパイダーマンをめぐる状況はいささか複雑化してしまった」「経済面でも創作面でもソニーに利がある状況」と見る者もいれば、「妥協できなければ両社ともに失敗する」と分析する者もいる。この人物は、「MCUに属さないトム・ホランドのスパイダーマン映画にファンがどう反応するかは誰にも分からない。スタジオはこんな賭けに出るべきではない」と主張した。

初報はこちら

Sources: THR, Deadline

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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