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【最速レビュー】『DUNE/デューン』全身全霊をかけた究極の映像体験、いま問われる「映画の力」

DUNE/デューン 砂の惑星
©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

2020年代。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、100年以上にわたって続いてきた“映画”という芸術形式に根本的な1つの問いを投げかけた。「映画とは、映画館で観るものなのか?」と。

ストリーミングサービスの興隆もあり映画の在り方への解釈に変容が見られる今、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が新たに手がけた『DUNE/デューン 砂の惑星』は、映画館でしか味わうことの出来ない“映画の力”を再提示した作品だ。心を打つようなストーリー、作品に精魂を注いだ映画監督の気概、そして異世界への没入感。ひと足早く『DUNE/デューン』の興奮に触れた筆者は、この3つの構成要素が融合した“究極の映画体験”を文字通り身をもって体感したのである。

ビジュアライズすることが最も困難と言われるSF小説待望の再映画化であることや、ティモシー・シャラメをはじめハリウッドの豪華キャストが揃った本作を待ちわびるファンは多いだろう。本記事では、そのような方々のためにも世界最速のレビューをお届けしたい。当然のことながら、公式から出されているあらすじの範囲を超えないようにしながら、そのスゴさをお伝えしよう。

原作からそのまま飛び出した世界

本作を実現させる上で必要不可欠だったと感じるのはSF作家フランク・ハーバートによる原作小説だ。日本向けに行われた記者会見の場でドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、小説をもとに自ら脚色した脚本を「バイブル(聖書)」とまで呼び、撮影現場では宣教師さながら、キャスト&スタッフに対して『DUNE/デューン』の布教に努めたと明かしていたが、本編を観ると原作小説がどれだけ重要な要素であったかを実感させられる。

ここで原作小説を読まれたことのない方は「そんなの分かりようがない」と思われるかもしれない。しかし、“小説が重要な要素だった”というのは、言い換えれば“小説の世界がそのまま映像によって映し出された”ということでもある。専門用語が連続する活字が、輝き溢れる壮観なビジュアルへと大変身を遂げ、個性あふれるキャラクター一人ひとりは過去の映像作品とは全く異なる解釈で良い意味でエキセントリックに具現化されているのだ。もちろん小説を読むに越したことはないだろうが、それは他の作品にも言えること。原作に目を通していない方でもDUNE/デューン』の世界に身を任せ、壮大な世界観にどっぷりと浸れることは間違いない。

 DUNE/デューン 砂の惑星
©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

小説『デューン/砂の惑星』は1965年、遡ること56年前に出版されたSFクラシック。名家の後継者として砂の惑星アラキスを治めていくことになる少年ポール・アトレイデスの成長譚は、ベトナム反戦運動に参加した若者たちが発祥とされるヒッピーカルチャー黎明期のアメリカに彗星のごとく現れた。第二次世界大戦後の40年代後半から冷戦真っただ中の60年代にかけて、異彩を放ち新たな価値観を提供した作家たちはビート・ジェネレーション、その価値観を実践した人々はビートニクと呼ばれたが、『デューン/砂の惑星』はまさにその時代の最後にオルタナティブな世界を差し出したのだ。

そして、現代。いよいよ公開となるヴィルヌーヴ監督の『DUNE/デューン』は、60年代の若者がハーバートの小説と未知との遭遇を果たしたように、2021年に生きる我々を新世界にトリップさせてくれる。緑に溢れた世界から一転、砂に覆われた惑星の統治を宇宙皇帝から命じられたアトレイデス家。神話的存在である巨大生物サンドワームとそれを崇めるミステリアスな先住民たち。宇宙を支配するために容赦なく裏切る悪党一族。こうした世界は、環境破壊や企業の搾取、先住民問題といった社会問題を抱えた現代へのアナロジーとして通じるところも多分にある。

『DUNE/デューン 砂の惑星』
©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

ドゥニ・ヴィルヌーヴの気概をみよ

本作は、ヴィルヌーヴ監督無しには成立しなかった作品でもある。少年時代、ハーバートの小説に出会ったヴィルヌーヴ監督は、ポールに課せられた運命に強く心を揺さぶられ、共感を抱いた。その時の小説体験を映像に昇華すべく、ヴィルヌーヴ監督は2010年の『灼熱の魂』ぶりに自らペンを執ったのである。

ハリウッド進出作となった『プリズナーズ』(2013)以降、監督は『複製された男』(2013)『ボーダーライン』(2015)『メッセージ』(2016)『ブレードランナー 2049』(2017)とテンポよく映画を世に放ってきた。しかしなぜだろう、筆者はこれらの作品が、『DUNE/デューン』のために存在してきたのだと思わずにはいられない。ヴィルヌーヴ監督は、ハリウッドで本作を実現させるべく、その信用を勝ち取るために、これまでのフィルモグラフィーをパズルのように完成させてきたのだと。それほど、本作の何から何までにヴィルヌーヴ監督の気概が感じられる上、この意味で本作は監督にとって1つの集大成でもある。

それはハリウッドの実力派が揃った製作陣の顔ぶれから見ても明らかである。脚本にはヴィルヌーヴ監督のほか、2人の逸材が携わった。『プロメテウス』(2012)『パッセンジャー』(2016)のジョン・スペイツと、『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994)『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2008)などのエリック・ロスだ。どちらも、それぞれタフなサイエンスフィクションとシュールなヒューマンドラマを巧みに描く熟練者である。ヴィルヌーヴ監督のヴィジョンに強力な説得力とリアルさを生み出すには欠かせなかった人材だろう。

そして、そのヴィジョンを可視化する撮影監督には、ヴィルヌーヴ作品初参加となる俊英が起用された。『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)や「マンダロリアン」(2019-)で知られるグリーグ・フレイザーだ。際限のない銀河世界にポツンと浮かぶ1つの惑星、その惑星に姿を現す巨大建造物や巨大生物、そうした広大な環境に身を置く人間。これらのビジュアルには“サイズの対比”が意識されており、とりわけ閉鎖的な生活を余儀なくされている我々にとって、“空間”を与えてくれている。さらに『ブレードランナー 2049』から続投のハンス・ジマーが奏でるエキゾチックな音楽が加わり、インパクト最大限に再現されたSFワールドには心が震えるどころか、飛び跳ねた。

 DUNE/デューン 砂の惑星
©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

また、ヴィルヌーヴ監督の気概は、劇中に登場するあるモノを通しても伝わってくる。巨大生物、サンドワームだ。日本の人気菓子“バカウケ”のようだと話題になった『メッセージ』の宇宙船をはじめ、これまで巨大な建造物を創り出してきた監督だが、本作では初めて巨大生物を誕生させた。これまでに監督が手がけた大きな生物といえば、『複製された男』に出てくる蜘蛛くらいだろうか。

予告編では砂漠からゴーッと現れるサンドワームの姿が映し出されるが、初対面の瞬間には鳥肌が立った。小説では最大で全長450メートルにも及ぶと言い伝えられるサンドワームだが、本作ではもっと大きいのではないだろうか。ヴィルヌーヴ監督は、このサンドワームを構想するのに丸々1年を費やしたというが、スクリーンをはみ出して映るその存在を前にすると畏敬の念を抱かざるを得ない。

あぁ、試写室の箱全体に響き渡ったサンドワームの轟音をIMAXで体験できたら……。筆者は今、遠足の前日に眠れない小学生のように、心をウキウキワクワクさせながら10月の封切りを楽しみにしている、そんな心理状態だ。

 DUNE/デューン 砂の惑星
©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

ジョン・スノウと重なるヒーローの誕生

本作を語る上で、主人公ポールと、演じるティモシー・シャラメについて触れないわけにはいかない。多くの方がご存知、『君の名前で僕を呼んで』(2017)で一躍ブレイクを果たしたティモシー。彼が演じるポールには、ある種スーパーヒーローの片鱗を見た。実際に、原作でのポールはアラキスで産出される香料メランジの効能により、“未来が視える”能力を持つようになっていく。

未来が視えるといえば、マーベルヒーローのドクター・ストレンジを想起する方もいるだろう。「ゲーム・オブ・スローンズ」のブランだって未来を透視できる。ポールは彼ら同様の特殊能力を身に付けていくわけだが、本作での彼は言うならば『スパイダーマン ホームカミング』(2017)のピーター・パーカーだ。まだヒーローとしての自覚に欠けていたピーターのように、ポールも自分に任される役割をはっきりとは自覚しないまま。とある“事件”が起きた時、初めてヒーローとしての萌芽を見せていくのだ。

ただし、いわゆるマーベル、DCコミックスに登場するような単独行動系ヒーローではない。どちらかといえば「ゲーム・オブ・スローンズ」のジョン・スノウのように仲間からの信頼を勝ち取ることで人の上に立つ、共感の持てるヒーローだ。ティモシーがこれまでに培ってきた自然体な演技で憑依するポールという存在は、観客一人ひとりの胸にスウッと入り込んでいくはずである。ともあれ、待っていたファンも多いはず、本作ではティモシー初のヒーローキャラクターが誕生すると断言していいだろう。

 DUNE/デューン 砂の惑星
©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

そして、本作で高く評価すべきは、ポールの冒険物語の全てをヴィルヌーヴ監督が1作品で描こうとしなかった点だ。これは1984年のデヴィッド・リンチ版の失敗でもあったが、『DUNE/デューン』を映画1作で収めることは不可能に近い。しかし、本作ではポールが歩む人生の段階分けが上手くなされている。これはティモシーファンにとっても嬉しいことだが、もしも構想通り2部作が実現するならば、ポールの成長をじっくりと見届けることができそうだ。ポールが乗り越えるべき試練は山ほどある。そして戦うべき相手も。

※これについては必ずしもデヴィッド・リンチの過ちと言えず、リンチの構想とスタジオ側の方針には齟齬(そご)があったと言われている。過去に映像化を試みたアレハンドロ・ホドロフスキー監督も、ドキュメンタリー映画『ホドロフスキーのDUNE』(2013)で「あれほど才能のあるリンチがこんな駄作を作るわけがない。製作者(スタジオ)のせいだ」と語っていた。

これぞ全身全霊、究極の映画体験

 DUNE/デューン 砂の惑星
©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

本作を観た筆者は“究極の映画体験”を味わったと冒頭で記したが、これはあくまで主観に基づく言葉である。しかし、本作が究極の映画体験を提供しているのだと、どうにか客観的に伝えられる定義はないだろうか。これまでのヴィルヌーヴ監督の発言をヒントに、筆者なりに考えてみた。思うに、“究極の映画体験”たらしめる条件とは、作り手の思いに従って鑑賞することなのではないか

ヴィルヌーヴ監督は、コロナ禍下で公開形式に複数の選択肢を用意したスタジオならびにハリウッドに対して、『DUNE/デューン』は“劇場で公開する作品だ”と断固として一人声を上げてきた。2021年8月下旬には、「『DUNE/デューン』をテレビで見るなんて、バスタブでモーターボートを走らせるようなもの」と発言し、物議を醸していたが、映像体験の側面だけから考えれば監督の意見には100%賛同する。

『DUNE/デューン』の上映時間は2時間35分。その一分一秒が映画館で観客が味わう映像体験のために作られたものといえる。上述の豪華な製作陣然り、あまりにも衝撃的な姿に絶句したサンドワームの登場シーン然り、本作を構成する全てのものが、映画館での体験のために用意されている。筆者はそう強く思うのだ。

米国では劇場&配信の同時公開が予定されているが、日本では劇場公開のみ。さらに、本作は世界で初めて「Filmed For IMAX®」に認定された作品でもある。米IMAX社全面協力のもと、作り手が意図したクオリティの映像と音響が、劇場で変換なしに再現することが可能になるのだ。環境的にも“究極”が追求された本作を劇場で観ないわけにはいかない。五感を解き放ち、大船ならぬ大宇宙船に乗ったつもりで、ヴィルヌーヴ監督が全身全霊をかけた“映画の力”を体感してほしい。

映画『DUNE/デューン 砂の惑星』は、2021年10月15日(金)全国公開。

Source: Indiewire

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SawadyYOSHINORI SAWADA

THE RIVER編集部。宇宙、アウトドア、ダンスと多趣味ですが、一番はやはり映画。 "Old is New"という言葉の表すような新鮮且つ謙虚な姿勢を心構えに物書きをしています。 宜しくお願い致します。ご連絡はsawada@riverch.jpまで。

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