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【ネタバレなし】『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』徹底レビュー ─ 洗練された物語、そして新しいプラットフォームの誕生

アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー
© Marvel Studios 2018

とうとうこの時がやってきた。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の集大成、映画アベンジャーズ/インフィニティ・ウォーが世界的に劇場公開を迎えたのだ。2008年『アイアンマン』から始まった一連の物語は、本作、そして2019年公開『アベンジャーズ/エンドゲーム(邦題未定、原題:Avengers: Endgame)』でひとつの結論に到達するという。
どんな作品でも秘密主義を徹底してきたマーベル・スタジオは、本作でいつも以上の厳戒態勢を敷いた。出演者の誰一人として全編の内容を把握しておらず、アンソニー&ジョー・ルッソ監督は観客にもストーリーをむやみに明かさないよう呼びかけたのだ。MCU作品のお約束である、ポストクレジットシーンの有無についてすら明言は避けられた。

そんな『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』は、開巻の瞬間から最後の1秒に至るまで、圧倒的な情報量とサプライズに満ちた、これぞまさしく集大成というべき一本だ。しかし過去18本の映画から大量のキャラクターが登場し、その作品のそれぞれ、キャラクターの一人ひとりに熱心なファンがいる以上、どこを切ってもストーリーの重要なポイントを明かすことになってしまう。しかも本作の場合、そうした内容を明かさずに作品の魅力や重要性について語ることは簡単ではない。

けれどもあえて、そうした取り組みに挑んでみることにしよう。なにしろ『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』とは、これまでMCUを追いかけてきたファンはもちろんのこと、ヒーロー映画にさして興味を持たない観客層にも見られてしかるべき作品なのだし、現代の映画やドラマの動向を占ううえでも重要な一本だからだ。
まずは本作の予告編をご覧いただきたい。ここに映し出されている内容と関係者の証言を引用しながら、本稿では『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』を3つのポイントから語っていく。

https://www.youtube.com/watch?v=ET87HGsLEOk

1.キャラクターとアクションで紡ぐ、洗練された物語

アイアンマンとスパイダーマン、ソー……はもしかして微妙なところか。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』ではあらゆるヒーローが待望の共演を果たすわけだが、アメコミにさほど関心がない方ならばこの3人、ともすればアイアンマンとスパイダーマンだけを知っているという程度かもしれない。
では、その程度の予備知識で本作を、ヒーローたちの“夢の共演”を観て面白がれるのか? 結論を申し上げれば、何の問題もない…といえばさすがに語弊がありそうだ。しかし、この映画を入り口にしても「大丈夫」であることは間違いないだろう。なぜなら監督&脚本家チームは、この作品をヒーロー映画というよりもサノスの映画」だと明言しているのである。

サノスとは、紫色の巨体で登場するMCU始まって以来最凶の悪役(ヴィラン)のこと。予告編の冒頭で述べられているように、彼は6つのインフィニティ・ストーンを集めて宇宙の半分を消滅させようと目論んでいる。そう、この映画はインフィニティ・ストーンを探し求めるというサノスの行動が全編を貫き、その存在を介して数々のヒーローが繋がっていく構造なのだ。
1990年代の強盗映画を参考に製作を進めたという監督たちは、本作を「サノスがショーウィンドウを破るのをヒーロー全員で追いかける」作品だと説明する。すなわち映画のストーリーは至極単純、恐るべき悪役が秘密の石を手に入れようと画策するのを、いろんな技術や能力を持つヒーローたちがなんとか阻止しようとする、これだけだ。あなたがヒーロー映画に詳しくないとしたら、まずはこの枠組みに身を任せてしまえばいい。

『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』という映画が非常に優れているのは、このシンプルなストーリーを極めて豊かに、洗練された形で語ってくれるところにある。サノスを追うヒーローたちにはこれまで積み上げられてきたキャラクター性が存在するが、それらは劇中で速やかに、しかもわかりやすく提示される。彼らのやり取りと関係性で、物語はみるみるうちに重層的になっていくのだ。
たとえば、一人は使命感と葛藤に悩まされる天才科学者。一人は彼と対立して姿を消した元兵士。さらに経験の浅い高校生や、複雑に分岐する未来を見られる魔術師、アフリカに隠された国を治める若き王、そして宇宙人とチームを組んでいる冒険野郎。もちろん彼らはすぐに結託するわけでも、スムーズに意見が揃うわけでもない。複数の舞台で活躍するヒーローたちが一枚岩の集団ではないことがシリアスかつユーモラスに示されていくのである。これこそ『アベンジャーズ』シリーズの醍醐味ともいえる構造だが、本作ではキャラクターの幅広さや豪華出演者の演技もあいまって、群像劇としてのアンサンブルをあらゆる角度から楽しむことができる。

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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