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【ネタバレなしレビュー】『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』このシリーズ最高傑作を、あと何度観ようかと考えている

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
©2021 CTMG. © & ™ 2021 MARVEL. All Rights Reserved.

「想像しろ。超えてやる。」『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』日本版のチラシに挑発的に刻まれたコピーだ。これは本作からの挑戦状であり、揺るぎない自信の現れだ。

もちろん予告編映像は何度も観たし、考察もした。本当かウソか分からない噂話の類も目にした。ある夜は『ノー・ウェイ・ホーム』を観ているという夢まで見た。こんなことは初めてだ。何せ20年来の『スパイダーマン』映画のファンとして、過去作の象徴的なヴィランが一気に戻ってくるなんて、大事件だからだ。

それで、出来うる限りの「想像」はした。結果はどうだったか?『ノー・ウェイ・ホーム』は、その想像のはるか高くを、華麗にスイングして超えていった。ノー・ウェイ!(まさか!)

予告されていたように、本作は前作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019)に直結する形で始まる。ミステリオ殺害の濡れ衣を着せられたうえ、マスクの下の正体が世界に明かされたピーター・パーカー(トム・ホランド)はこれまでの生活を失う。あまりの騒動に、大切な人たちにも迷惑がかかってしまうことを苦にしたピーターは、『アベンジャーズ』の盟友、ドクター・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)の魔術を頼る。しかし、術は失敗。別のユニバースから、スパイダーマンのヴィランたちが集結してしまう。

『スパイダーマン』(2002)からはグリーンゴブリン、『スパイダーマン2』(2004)からドクター・オクトパス、『スパイダーマン3』(2007)からサンドマン。そして『アメイジング・スパイダーマン』(2012)のリザードに、『アメイジング・スパイダーマン2』(2014)のエレクトロ。これは「ヴィラン版アベンジャーズ」とも言えるが、この表現では、本作が果たした奇跡を完全には説明できていない。なぜなら、あくまでも同じ世界観、同じシリーズのキャラクターが集合する『アベンジャーズ』に対して、『ノー・ウェイ・ホーム』のヴィランたちは、完全に別の3シリーズの衝突だからだ。

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
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ドクター・ストレンジは、ヴィランたちはみなスパイダーマンと戦って死ぬ運命なのだと告げる。しかしスパイダーマンは「他に道はないのか」と争い、これがストレンジとの軋轢を生む。『ドクター・ストレンジ』(2016)でも観られたような、折り重なる摩天楼の間を飛び交うスパイダーマン対ストレンジのチェイスシーンは圧巻だ。ちなみに当初のプロモーション案で本作は、スパイダーマン対ドクター・ストレンジ版『シビル・ウォー』として紹介されようとしていた。

マーベル・シネマティック・ユニバースからのスピンオフとしての側面もやや強かった『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)『ファー・フロム・ホーム』に対して、サーガ完結作である本作は、スパイダーマン/ピーター・パーカーとしての物語として、史上最も力強い作品になっている。劇中におけるピーターの動機は実にピーターらしいものであり、対面させられる問題や苦悩も実にスパイダーマンらしい。加えて、過去2作で準備したMJとネッドとのトリオ関係は鮮やかに花開き、結果としてこのサーガは青春物語としての力強い弧を描き終えている。

上品なイースターエッグも無数にある。それらは露骨なネームドロッピングなどではなく、過去作の何でもないシーンをふと思い出させるようなもので、『スパイダーマン』映画ファンの思い出の柔らかいところを、指先で優しく撫でるようなものだ。それはくすぐったくて、微笑ましい。いま、他の観客も、同じように気付いたかな、そうだといいなと、見知らぬ観客同士を見えないクモ糸で繋いでくれるようなものだ。

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のように、ありとあらゆる感情をボロボロと落とし、座席に置き忘れたままスクリーンを後にする作品は久しぶりだ。それらを取り戻すのにはしばらく時間がかかる。その充足感は、鑑賞した者同士で、何時間でも語り合いたくなるものだろう。1度観た後は、あと何度観ようかと考え始めるかもしれない。なぜなら、これはファンにとって、観る度に発見のあるような作品だからだ。『スパイダーマン』映画が積み重ねた20年の歴史が生んだ最高傑作だからだ。もしもあなたが、既にムビチケを複数枚購入しているのなら、それは大正解だ。いいや、もしかしたら、その枚数ではまだ足りない可能性すらあるだろう。

大作シリーズが時を超えて復活することは多い。そのシリーズへの思い入れが強いほど、時に新たな設定や解釈も加えられる新作を受け入れられないというケースもままある。『ノー・ウェイ・ホーム』は、『スパイダーマン』映画への思い入れが強ければ強いほど楽しむことができるだろう。シリーズものの最新作として、そして過去作のヴィランたちが復帰する作品として、祝福されるべき仕上がりとなっている。

本作は、世界公開からやや遅れて日本では2022年1月7日の公開だ。ネタバレ厳禁となる本作のため、ネットの利用(とりわけ、SNSやYouTube)には細心の注意を払ったほうが良いと、本気で推奨したい。一方、年末年始の期間が得られることで、過去作の復習に時間を充てられると考えるのも良い。サム・ライミ版3部作、『アメイジング』2作、MCU版前2作、これら合計7作を改めて観直しておけば、『ノー・ウェイ・ホーム』はあなたにとって一生に一度の映画体験になりうる。本作は、その「想像」を超えてゆくだろう。

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Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。