「ワンダヴィジョン」エキストラ俳優のデジタルレプリカが生成されていた

約16万人が所属する全米映画俳優組合（SAG-AFTRA）は、7月14日（現地時間）からストライキに突入している。SAG-AFTRAと全米映画テレビ製作者協会（AMTPT）との交渉が決裂した理由のひとつに、AIによるデジタルレプリカ（複製）の生成があった。AIの使用をめぐるガイドラインの制定に関して、両者の間で折り合いがつかなかったといわれる。

米NPRの記事では、マーベル・スタジオが「ワンダヴィジョン」の撮影現場で、数十人のエキストラ俳優の顔・身体をスキャンしていたことが明かされている。その内のひとりであるアレクサンドリア・ルバルカバによると、自身をふくむエキストラはひとりずつカメラの前に立たされ、「手を出して。入れて。こっちを見て。あっちを見て。怖い表情を見せて。驚いた表情を見せて」などと指示されたという。

スキャン開始からわずか15分で、ルバルカバのデジタルレプリカは完成。しかし、自身のデジタルレプリカがどのように使用されるのかといった説明は一切なかったという。彼女は無断で使用されるかもしれないとの思いから「もし私が（『ワンダヴィジョン』をもじって）『マリオヴィジョン』や『サラヴィジョン』に出たくなかったら？」と述べ、AIの脅威をこう訴えた。「AIはいずれエキストラ俳優を淘汰してしまうのではないかと危惧しています。もう私たちに用はないでしょう」。

SAG-AFTRA側の交渉担当者によると、スタジオ側は、スキャンを行った俳優に1日分の報酬を支払い、その後は生成したデジタルレプリカを本人の同意と追加報酬なく永久に使用できるという“画期的提案”を行ったとされる。しかし、AMPTPの広報担当者はこの主張を「誤り」と指摘。AMPTPはエキストラのデジタルレプリカについて、「その俳優が雇われたプロジェクトでのみ使用を許可されるもので、それ以外の使用には本人の許可と最低限の使用料が必要になる」との規定を提案していると訂正した。

テクノロジーの進化によって、エキストラ俳優という職業の存続が危ぶまれる中、大手スタジオ＆ストリーミング企業は、AIに対する取り組みを減速させない構えだ。直近ではウォルト・ディズニー・カンパニーやNetflixをはじめとする各社が、ストライキのさなかAI人材の採用を開始したことが明らかとなった。

Source: NPR, The Verge