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『スター・ウォーズ』新作、なぜ「ゲーム・オブ・スローンズ」脚本家は降板したのか ─ ジェダイの起源を描く予定も、「有毒ファン」のバッシング危惧か

デイヴィッド・ベニオフ&D・B・ワイス
Photo by Gage Skidmore https://www.flickr.com/photos/gageskidmore/28472987182/ Remixed by THE RIVER

『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(2019年12月20日公開)でスカイウォーカー・サーガが完結を迎えるのを控えて、『スター・ウォーズ』シリーズは新たなる岐路に立たされている。2022年に第1作が公開予定だった新3部作から、脚本・製作を務める予定だった「ゲーム・オブ・スローンズ」(2011-2019)のデヴィッド・ベニオフ&D・B・ワイスが降板したのだ。Netflixで手がけるプロジェクトの間でスケジュールの折り合いがつかず、『スター・ウォーズ』を諦めたというのだ。

ところが、これに対して「話が少しばかり違う」との証言を得たのが米The Hollywood Reporterだ。発表から数日を経て、米国メディアでは降板劇の背景に迫る報道が飛び出してきている。なぜ、「ゲーム・オブ・スローンズ」のキーパーソンは『スター・ウォーズ』を離れたのか。2人の降板は、2019年8月から検討されていたものだという。

ルーカスフィルムとの軋轢

『スター・ウォーズ』の新作から映画監督が離脱するのは、なんと今回で4度目となる。企画されていたボバ・フェットの単独映画から『ファンタスティック・フォー』(2015)ジョシュ・トランクが、『スター・ウォーズ エピソード9』(当時)から『ジュラシック・ワールド』(2015)コリン・トレボロウが、そして『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(2018)から『スパイダーマン:スパイダーバース』(2019)フィル・ロード&クリス・ミラーが去っているのだ。降板の事態だけは回避したが、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)ではギャレス・エドワーズ監督に代わってトニー・ギルロイが再撮影・再編集を指揮し、本編を大幅に組み替えたことが判明している。

ハリウッドの大作映画において、「創造性の違い(creative difference)」を理由にフィルムメーカーがプロジェクトを去ることはそう珍しくもない。しかし『スター・ウォーズ』の場合、一度就任したクリエイターが降板するケースが続いているのだ。米Varietyは、こうした状況を受けて『スター・ウォーズ』への参加を警戒するクリエイターが現れていると伝えているほか、キャスリーン・ケネディ社長によるマネジメントを疑問視する姿勢を示している。

今回、Varietyは、ケネディ社長率いるルーカスフィルムが“結局のところはフィルムメーカーに自由を与えない”のだと強調した。複数の情報筋によれば、監督を起用する際にはクリエイティブの自由をある程度は与えると約束しながらも、クリエイターから新たなアイデアが出てくると、ケネディのチームが即座に却下するというのである。そして、方向性の不一致が激しくなると、妥協点を探るのではなく、フィルムメーカーがプロジェクトを離脱するという結末に至ってしまうのだ。

キャスリーン・ケネディ Kathleen Kennedy
キャスリーン・ケネディ社長 Photo by Dick Thomas Johnson https://www.flickr.com/photos/31029865@N06/25070399738

スカイウォーカー・サーガから独立した『スター・ウォーズ』を作る計画だったベニオフ&ワイスは、新3部作で「いかにしてジェダイは生まれたか」を描く内容に関心を抱いていたとのこと。ただし、ルーカスフィルム側がこのアイデアにどんな反応を示していたのかは分からない。

なぜならベニオフ&ワイスが『スター・ウォーズ』を去った最大の理由は、あくまで「Netflixでのプロジェクトと折り合いがつかなくなった」というものだからだ(創造性の違いが直接的原因でないことは、両者の声明でもアピールされている)。とはいえ、ルーカスフィルムとベニオフ&ワイスの関係が不穏なものになっていったことは確かだろう。降板が検討され始めた2019年8月とは、ベニオフ&ワイスがNetflixとの包括契約を結んだことが明かされた時期だからだ。

The Hollywood Reporterによると、ケネディ社長は、ベニオフ&ワイスがNetflixと契約を結んだことに不満を抱いていたという。「ゲーム・オブ・スローンズ」の製作が終了し、『スター・ウォーズ』に軸足を移した直後の契約締結となったことも大きいだろう。もっともベニオフ&ワイス側は、Netflixに対して『スター・ウォーズ』と並行して企画の開発を進めることを告げており、Netflix側も『スター・ウォーズ』新3部作の完了を待つことについては「10年はかからないだろう」と納得していたという。逆に言えば、「ゲーム・オブ・スローンズ」を成功させたベニオフ&ワイスは、Netflixにとってそれだけ待つ価値があるほど大きい存在だったのだ。にもかかわらず、ベニオフ&ワイスは『スター・ウォーズ』を去ることになった。Netflixにその事実が通知されたのは、降板が報じられる数日前のことだったという。

「有毒ファンダム」のバッシングを危惧

『スター・ウォーズ』からベニオフ&ワイスが降板したことについては、もうひとつの原因が伝えられている。それは、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)以降、特にSNSで問題視されている「有毒ファンダム(toxic fandom)」の問題だ。『最後のジェダイ』はその内容ゆえに激しい賛否両論を呼び、脚本・監督のライアン・ジョンソンには激しいバッシングや嫌がらせが行われ、殺害の脅迫もあったことが明かされている。また、ローズ・ティコ役のケリー・マリー・トランには、性別や人種に基づくヘイト発言が日常的に繰り返されていた。こうした出来事が取り上げられる中、プリクエル3部作でジャー・ジャー・ビンクスを演じたアーメッド・ベストは、かつてバッシングを苦に自殺を考えていたことを告白している

有害ファンダムの問題は、いまや『スター・ウォーズ』だけでなく、『キャプテン・マーベル』(2019)でブリー・ラーソンへの嫌がらせが行われるなど、オンラインで可視化されやすい状況にある。そしてベニオフ&ワイスの場合、「ゲーム・オブ・スローンズ」で、その経験を味わったばかり。2人は最終シーズンの展開をめぐって過激なファンからバッシングを受け、「脚本家はとんでもない無能」「最終シーズンを作り直せ」と要求する署名運動すら始まっていたのだ。これには出演者からも「無礼」「幼稚」との苦言が呈されていた

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The Hollywood Reporterによると、こうした経緯を受けて、ベニオフ&ワイスは『スター・ウォーズ』の参加を考え直すようになったと伝えられている。言葉は悪いけれども、俳優を追い込み、監督を攻撃対象にするファンが決して少なくないのである。情報源の人物は、『最後のジェダイ』のケースを引き合いに出し、「誰があんなことを経験したいんですか? これは“人生は短いんだし”というタイプの話ですよ」と証言したという。

ケネディ社長によるマネジメントか、Netflixとのスケジュール競合か、それとも有害ファンダムか。ベニオフ&ワイスの離脱は友好的に告知されたが、そこには解決しがたい問題がいくつも横たわっているようだ。現在、ディズニー/ルーカスフィルムは『スカイウォーカーの夜明け』後の新作映画について計画を立てられていない状態で、すでに新たなフィルムメーカーの検討に入っているという。

『スター・ウォーズ』シリーズでは、現在、『最後のジェダイ』ライアン・ジョンソン監督による新3部作と、マーベル・スタジオのケヴィン・ファイギ社長がプロデュースする新作映画(タイトル未定)が企画されている。ただしジョンソン監督の新3部作は初期段階であり、ファイギ社長の新作も、ベニオフ&ワイス作品の予定されていた2022年に繰り上げられる可能性は低いという。それもそのはず、ファイギ社長はマーベル・シネマティック・ユニバースの「フェイズ4」開幕を間近に控える身。Disney+での新作ドラマも多数抱えている中で、急遽『スター・ウォーズ』に出向くほどの余裕はないということだろう。

Sources: THR, Variety

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。