稲垣 貴俊Amazonが配信映画の常識を変える ─ ベン・アフレック＆マット・デイモン最新作、3000以上の映画館で米公開
Amazonがいよいよ大手映画スタジオに勝負を仕掛ける。米Varietyによると、Amazon製作のベン・アフレック＆マット・デイモン最新作『Air（原題）』が、プライムビデオでの配信に先がけて、米国にて3000以上の映画館で劇場公開されるというのだ。
『Air』は、世界的スポーツブランド「ナイキ／NIKE」が、1980年代半ばに“バスケの神様”として知られたマイケル・ジョーダンと契約を結ぶまでの内幕を追った実話映画。契約のキーパーソンとなったナイキの元幹部ソニー・ヴァッカロをデイモンが、ナイキ共同創設者のフィル・ナイトをアフレックが演じる。アレックス・コンヴェリーの脚本をふたりが改稿し、アフレックが自ら監督を務めた。
どうやら本作をきっかけに、Amazonは映画ビジネスへのさらなる本格参入を進めることになるようだ。報道によると、Amazonは『Air』を3000館規模で公開するだけでなく、大手映画スタジオと同規模、あるいはさらに長期間にわたる劇場独占公開を予定している。本作は2023年4月5日に世界の映画館で公開される予定だが、プライムビデオへの登場は早くとも初夏ごろとなりそうだ。
さらにAmazonは、本作のプロモーションのため、2023年2月13日（米国時間）開催のスーパーボウルに700万ドル以上の宣伝費を投じたとのこと。『ワイルド・スピード10（仮題）』やDC映画『ザ・フラッシュ（原題）』などの話題作に並び、『Air』の予告編やスポットCMもテレビやネットを賑わせることになりそうだ。一見すると地味に思われがちな実話映画だが、Amazonはこの作品に相当の自信があるのだろう。
仕掛け人のひとりと思われるのが、2022年10月、Amazon Studiosでマーケティングの統括役に就任したスー・クロール氏だ。米ワーナー・ブラザースで長年にわたりグローバルの配給・宣伝を担当してきたクロール氏は、『ハリー・ポッター』シリーズや『ダークナイト』3部作、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』（2015）などを世界に送り出してきた張本人である。
クロール氏の就任翌月にあたる2022年11月には、Amazonが年間10億ドルを映画製作に投じ、年間12～15作品の劇場公開を目指していることが報じられていた。2023年の劇場公開作は少なめながら、段階的に本数を増やしていき、大手スタジオと肩を並べられるだけの作品数を確保する狙いだとされる。『Air』はあくまでもその第一歩にすぎないのだ。
『Air』の拡大公開について、ある関係者は「非常に大胆な取り組み。NetflixやAppleにとっては大きなプレッシャーになるだろう」と語った。両社を含む配信プラットフォームは、映画賞へのノミネート基準を満たすことを目的に最低限の劇場公開を実施するケースが多い。2022年11月、Netflixは『ナイブズ・アウト：グラス・オニオン』を600館で1週間限定上映したが、それでも同社は劇場公開をあくまでも配信のプロモーションとして位置づけているのだ。
こうした配信業界の傾向がある中、それでもAmazonはあえて大手映画スタジオに勝負を仕掛ける。同社がそれだけ映画館での興行を重視することは、イベントとしての映画興行に相応の価値を見込むことであり、同時に、コロナ禍で苦境を味わった映画ビジネス全体をふたたび大きな視野で捉え直すことでもあるはずだ。
映画『Air（原題）』は2023年4月5日に世界公開予定（日本公開情報は未発表）。劇場公開後、プライムビデオにて独占配信される。
