ここに、一体のアンドロイドが座っている。人間と全く同じ見た目をしており、人間と全く同じように動き、喋る。人間と同じように、辛い過去を経験していて、人間と同じように、それを乗り越えて、なんとか暮らしている。そしてこのアンドロイドは、自分がアンドロイドであるということを自覚している。

そんなアンドロイドに、「私が経験したものは現実なのか？」と尋ねられたら、どう答える？「自分が感じた（精神的な）『痛み』は、“本物”ではないのか？この痛みは想像上のものなのか？私（アンドロイド）とあなた（人間）の感じる痛みに違いはあるのか？」

いま、知的好奇心を抱いたあなたは、ドラマ「ウエストワールド」の最高のファンになるだろう。舞台は西部開拓時代をそっくり再現した巨大なテーマパーク。大金をはたいてやってくるゲスト（人間）をもてなすのは、人間そのものの姿をしたホストと呼ばれるアンドロイドたちだ。プログラムされたループに生きる彼らの中に、やがて過去の記憶が蘇る“不具合”を起こす個体が現れはじめて……。

米HBOが「ゲーム・オブ・スローンズ」を凌ぐクオリティで贈るこの傑作シリーズより、最新のシーズン3が「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」にて世界同時配信、「BS10スターチャンネル」で世界同時放送開始となる。待望の新シーズンを最高の状態で迎えるべく、THE RIVERといっしょに「ウエストワールド」攻略に挑もう。この記事を読めば、「いきなりシーズン3から観始めても大丈夫」な、最低限の前知識が付くように心がけて書きまとめた。

しかし、この複雑で壮大なドラマの奥深き魅力とキャッチアップ情報を、前2シーズンをネタバレすることなくお伝えするにはどう書けばいいか？熟考の末、本記事では重要キャラクターのひとりである「ドロレス・アバーナシー」の目線に絞って紐解くことにする。必然的にこれまでの物語をなぞっていくが、知っておくと理解に役立つ内容に留め、鑑賞の楽しみとなる衝撃的なネタバレについては極力避けている。

なぜドロレス目線なのか？

ドラマ「ウエストワールド」は、様々な登場人物を通じて、人間とアンドロイドの哲学的なせめぎ合いを炙り出す重厚なSFスリラーだ。もちろん、登場人物はドロレスの他にも重要な役だらけ。パークの創造者ロバート・フォード博士は、何やら裏で重大な企みを画策している。その創立パートナーであるアーノルドなる人物は、開園直前に自殺したと伝えられているが……。

プログラムの責任者として奔走し、後に劇的な展開を迎えるバーナード・ロウや、パークの謎に取り憑かれた極悪非道の“黒服の男”、そしてドロレス同様に自分がアンドロイドだと気付いていく娼婦のマダム、メイヴ・ミレイなどなど、一人ひとりの物語が奥深く、エピソードを追うごとに「そうだったのか！」と膝を打つような繋がりが浮かび上がってゆく。

その中でもドロレスは、「ウエストワールド」の哲学と特に関わりの深いキャラクターなのだ。西部開拓時代の典型的な農場娘としてデザインされたドロレスは人造のアンドロイドでありながら、このドラマの最大のテーマである「意識」に目覚め、やがて反乱を起こしていくという役どころ。

ドロレスらホストたちは来る日も来る日も、高額な入園料を払ってウエストワールドにやってくる大金持ちのゲストを相手に商売している。ホストは物理的に交換可能な、命のない存在なのだから、ゲストはまさにやりたい放題。ホストは毎日のように暴行を受け、強姦され、殺されるが、その度にメンテナンスされ、記憶を消されてまたパークに戻される。運営側が作り上げる虚構の日々に、ホストは何の疑問を抱くことなく、同じ日常をループするのだ。

そんな中、過去の痛みや記憶を残すドロレスのような個体が現れ、ループから抜け出そうとして……。（ピンと来た？『マトリックス』『ブレードランナー』『エクス・マキナ』あたりがお好みなら、きっとハマるはずだ。）

ドロレスを演じたエヴァン・レイチェル・ウッドは、この役と物語があまりに奥深いあまり、撮影後に自分の存在というものが分からないという、およそデカルト哲学以前のような危機状態に陥ったのだとか。なんでも、ある時車を運転していると、ふと「私たちって何なの？これって何？何もかも嘘かもしれない？一体私たち何をしているの？」と恐くなったのだという。これは、「ウエストワールド」が描く実存主義の崩壊を物語るエピソードだ。

ドロレスを通じたシーズン1〜2振り返りまとめ

「ウエストワールド」は、過去と現在が巧妙に交錯する形で物語が進行する。記憶の中の過去と現在がひとつなぎのように描かれるなど、まさに映像トリックとも言える複雑な展開が魅力だ。ここからは、シーズン1〜2の出来事を、時系列に沿ってドロレス視点で見つめてみよう。これから観る方には鑑賞のガイドとして、シーズン3を待つ方には、これまでの物語の整理にお役立て頂ければ幸いである。繰り返しになるが、本編の内容に触れる部分もあるので、ご了承頂きたい。

パーク開園前

夢の世界「ウエストワールド」の開園に向け、科学者のロバート・フォードとアーノルドがホストの製造を始めたのが、シーズン1の「現在」から37年前の出来事。考証によると、これは2015年にあたることが明らかになっている。

ドロレスは、そんな「ウエストワールド」の最初期に製造されたホストだ。心優しく父親思いの、典型的な農場の娘としてデザインされた。この当時、ドロレスはアーノルドによって一度外の世界（アーノルドの自宅）を案内されている。

アーノルドはこの頃に息子を失っており、ドロレスは新たな我が子同然の存在となっていた。やがてロバートとアーノルドは、ホストに対する哲学的な見解で対立することとなる。「ホストは人工物だ。意識を持たない」と考えるロバートに対し、アーノルドはホストも意識を宿すことができると信じていた。やがてホストと人間の違いが分からなくなってしまい、「正気さえ失った」という。

アーノルドは、ドロレスに希望を託し、「迷路」という謎を与える。この迷路こそ、シーズン1における最大のミステリーのひとつだ。アーノルドが作った迷路とは、ホストの共感力と想像力を試すものであり、意識の芽生えに至る思考の探求の道筋を表すものだったのだ。ドロレスはその迷路を解き、意識を覚醒させる。

アーノルドにとって「ウエストワールド」は、人間と同じように自由意志を持つホストたちが、人間の醜い欲望に応えるために隷属する場所として誕生しようとしていた。これに絶望したアーノルドは、ホストの反乱を画策。悪人「ワイアット」のシナリオを起動させ、エスカランテという名の町でホストの虐殺を実行する。その計画には、アーノルドの死も含まれていた……。彼は自らの命をもって、開園を阻止しようと試みたのだ。しかし、その犠牲もむなしく、ロバートは計画通りにパークを開園させてしまう。ドロレスはこの悲劇に、思わぬ形で関与している。

パーク開園後

ドロレスはパーク開演前の悲愴な記憶を削除されており、テーマパークでゲストを出迎えるホストとして、同じループを繰り返している。やがて、ウエストワールドを初めて訪れたウィリアムという善良な青年がドロレスに出会い、2人は行動を共にするようになる。

ドロレスは、自分の思考による声が聞こえているが、これを「内なる声が聞こえる」と認識している。ウィリアムは、そんなドロレスを人間として見なしており、互いに惹かれ合っていた。いつも理性的なウィリアムには現実世界で婚約者が待っていたが、ウエストワールドで「偽る必要のない人生を経験してしまった」ことに気づき、欲情に従ってドロレスと結ばれてしまう。

ドロレスとウィリアムは、かつて虐殺の起こった町エスカランテにたどり着く。ドロレスはそこで虐殺劇の記憶が断片的に蘇り、過去と現在、夢と現実の境界線に混乱する。心配したウィリアムは、始まりの町「スウィートウォーター」に連れ戻すことに。しかし、そこでウィリアムたちは、対立する義兄ローガンに捕らえられてしまう。

ほかのホストと違って、意識や記憶を持つドロレスは「特別」だと考えるウィリアムだが、ローガンは気味悪がって、また嫌味を込めてドロレスの腹を切り裂いてしまう。ウィリアムを待つ現実世界の婚約者とは、ローガンの妹なのだ。皮膚の下に見える機械の内蔵を露出させられたドロレスは武器を奪って反撃し、どこかへ逃亡してしまう。ホストは決して生命を傷つけないように設計されているはずなのだが……。

やがてスウィートウォーターに戻ったウィリアムは、かつてのループ通りの日常を送るドロレスに再会。「特別」だと思っていたドロレスの記憶はあっさりと消されていて……。

現在（シーズン1）

これまで2度にわたって意識を覚醒させたドロレスは、再びループの中での日常を過ごしていたところ、またも「迷路」をたどり始めることになる。ドロレスの父親（という設定）のホスト、ピーターが、この世界にあるはずのないものを見つけしまうのだ。それは、数十年前にウィリアムが落としていった、彼の現実世界の婚約者の写真。ニューヨークと思しき都会の町並みをバックに微笑む女性の写真を見て、ピーターは「これはどこなんだ」との思いに取り憑かれてしまう。

この1枚の写真が、ピーターに“不具合”をきたす。抱くはずのない「疑問」を抱いてしまうのだ。この世界は、そして自分自身は虚構なのではないか？何かに気付いてしまったピーターは娘ドロレスに「ここを去るんだ」と警告し、耳元でとある言葉を囁く。「激しい喜びは激しい破滅を伴う」……。

これは、ホストにとある行動を取らせるコマンド・コード。ドロレスはこのコードを、もう1人の重要人物となる娼婦メイヴ・ミレイに伝染させ……。かくして、現在のドロレス、そしてメイヴの意識がゆるやかに目覚め始める。

やがてドロレスは再びエスカランテに導かれ、記憶の中のある人物と対話していた。ここで、彼女には過去の記憶と意識が確立されていることがわかる。その直後、ドロレスは、謎に満ちた黒服の男に捕らえられてしまう。彼は30年前からパークに通い続けているといい、迷路の謎に取り憑かれた無法の男だった。

果たして、この黒服の男の正体と目的とは？そして、ドロレスはなぜ反旗を翻し、人間に向かって反乱を起こすのか？衝撃の展開を、シーズン1で目撃せよ。

現在（シーズン2）

続くシーズン2でも、過去と現在の出来事が巧みに交錯。別の視点から明かされる新事実もあり、物語はより深く、そして神秘性を満ちていく。新たな謎「扉」をめぐる旅や、日本の江戸時代を舞台にした「ショーグン・ワールド」の登場も見逃せない。

製作のジョナサン・ノーランは、「シーズン1が人工知能とはどんなものか、というアイデアをじっくりと伝える心理的究明だったとしたら、シーズン2はある意味で残酷な革命を描くことになる」と説明している。その「残酷な革命」を企てるのは、他でもなくドロレスなのである。

シーズン2のドロレスは自我に目覚めており、ホストを束ねる反乱軍のリーダーとして脅威の存在となっている。人間を出し抜くために、味方の兵を犠牲にする、心優しいボーイフレンドのホスト テディを暴力的な性格に書き換えるなど、なりふり構わず人間たちに迫る。ついにウエストワールドの管理施設メサハブにまでたどり着いたドロレスは、「私たちはあなたを超えた」とほくそ笑む……。

やがてドロレスは、パークの中枢であるシステム内部に潜入。そこで明かされる、「ウエストワールド」の真の目的とは？これを知ったドロレスが取った、恐るべき行動とは？

シーズン3ではパークを飛び出し実社会へ

ドロレスに焦点を当てる形で、「ウエストワールド」の物語をかなり単純化して書きまとめた。実際の本編では、時系列を行き来し、タイムラインに隠された謎を別の視点から再訪するなど、幾重にも織り込まれた上質な物語を堪能できる。テディ役のジェームズ・マースデンはストーリーについて、「何が起きているのか見えてくる気がするけど、実は全然見えていない」と話しているが、全くその通りだ。

製作は、クリストファー・ノーランの弟であり、兄と共に『メメント』（2000）『ダークナイト』（2008）や『インターステラー』（2014）といった巧みな脚本で驚かせてくれたジョナサン・ノーランとその妻リサ・ジョイが続投。ジェームズは、「後のことは成り行き任せで、とりあえずシーズン1だけ撮ってしまうようなドラマもある。でも、彼らはすべて事前に計画しているし、先行きのことも考えている」と絶大の信頼を寄せる。「このドラマの放映期間が何年になるかとか、結末はどうなるのかとか、彼らはちゃんとわかっていると僕は確信している。」

「自由意志は自由ではない（FREE WILL IS NOT FREE）」と謳うシーズン3では、ついにパークを飛び出して実社会へと舞台を移す。一新されたオープニング映像からも、新章に突入したような気概が感じられる。新キャラクターも多いので、もしかするとこのシーズンから観始めてみるのもアリかもしれない。「まだ前のシーズンを観たことがないから……」という心配はひとまず置いといて、とりあえずこのシーズン3で、大作映画並のスケールに度肝を抜かれてみるのはいかがだろう。

第1話で描かれるのは、シーズン2のラストから92日後の実社会。（ただし、例によって時系列が巧みに前後されている可能性もあり、はっきりとは言えない。）人間とロボットが共存する未来都市ネオ・ロサンゼルスで、ドロレスは「ケイレブ」という男に接近する。シーズン2まで完走済みの読者なら、この劇中カットを観るだけで、様々な謎が浮かんでくることだろう。シーッ！まだ観ていない人もいるから、ここでのネタバレは禁物だ。

基本的な構造にもひねりが加わる。覚醒したドロレスは実社会に入り込んだことで、人間がアンドロイドやロボットをどのように扱っているかを目の当たりにしていく。シーズン1〜2ではホストたちが過去の記憶や自己意識によって“不具合”をきたしていたが、シーズン3で実社会に溶け込むアンドロイドは、怪しい“新薬”を服用して「影の人々がやってくる！」と狂ったように叫んでいる。前2シーズンを凌ぐダークな謎が待っていそうだ。

一方パーク内では、メイヴが第二次世界大戦のファシズム時代イタリアをテーマにしたエリアを見つけるらしい。ファシズム時代イタリア？そもそもシーズン2の「ショーグン・ワールド」だって、西部劇の街では飽き足りない過激派ゲストのために作られたものだった。ファシズム時代イタリアの世界なんて、もっともっと過激で残酷な展開が待ち受けているに違いない。

ノーランは、パイロット版（シリーズ化の本決定前に製作される試験エピソード）の時点で、ストーリーの「設計図」を用意していたのだという。既に最終目的地の構想も出来上がっているのだとか。世界屈指の天才クリエイターの仕事に、安心して身を委ねるとしよう。

最後にはなるが、超大作映画級の豪華キャストにも注目して欲しい。ロバート・フォードは超名優アンソニー・ホプキンスで、黒服の男を演じるのも、これまた超名優のエド・ハリス。『X-MEN』シリーズのサイクロップス役ジェームズ・マースデンや、『マイティ・ソー バトルロイヤル』（2017）ヴァルキリー役のテッサ・トンプソン、「パニッシャー」ジグソウ役のベン・バーンズ、それから新しい『バットマン』単独映画でゴードン刑事を演じるジェフリー・ライトも登場していると言えば、アメコミ映画ファンにとっても身近なドラマだと分かるはずだ。『ハン・ソロ／スター・ウォーズ・ストーリー』（2018）ヴァル役タンディ・ニュートンもメインキャストのひとりである。シーズン3からは、「ブレイキング・バッド」（2008-2013）ジェシー役のアーロン・ポールや、『ブラック・スワン』（2010）ヴァンサン・カッセルらもキャストに加わった。

「ウエストワールド」シーズン3は、2020年3月16日（月）午前10時よりAmazon Prime Videoチャンネル「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」にて世界同時配信、「BS10スターチャンネル」にて放送開始。世界がひれ伏す最高峰ドラマの熱狂を、世界のファンと同時に分かち合えるのは、「スターチャンネル」だけ。

「ウエストワールド」シーズン3 配信・放送スケジュール（全8話）

配信	【Amazon Prime Videoチャンネル 「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」】 2019年3月16日（月）より毎週月曜AM10:00 世界同時ライブ配信（字幕版） 3月20日（金・祝）オンデマンド配信開始予定 視聴サイトはこちら： https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B085C3GDTT/
放送	【BS10 スターチャンネル】 3月16日（月）より毎週月曜AM10：00 世界同時放送（字幕版）